WAVE=94〜98

救命胴衣とガスマスクを装着したクルーたちが、脱出用の艦載艇に乗り込んでいく。爆炎のなかを切り抜けてきた要員たちの顔はどれも煤けていて、夜の暗闇の中ではもう誰が誰かも見分けがつかぬほどだった。 それでも、鷲尾は艦載艇のなか…

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WAVE=92〜94

艦隊中央部は地獄のようだった。発電設備と動力部を鋼鉄の槍で貫かれた《エスピランサ》艦内の延焼は止めどなく、誘爆がさらにそれに追い打ちをかけていた。もはや制御不能の艦では減圧も隔壁閉鎖もままならず、火災による有毒ガスの発生…

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WAVE=90〜92

潜水球(バスフィア)の水密扉が開くと、パイロットスーツ姿のナナが現れ、「ヒロも手伝って」と通信してきた。ガラス窓を隔てたレーザー増幅室でエネルギー創出を見守っていたヒロは晴天の霹靂で、「え?」とぽかんと口を開けるしかなか…

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WAVE=87〜89

地下10m。分厚い混凝土(ベトン)の壁に覆われた『かの国』のミサイル地下格納庫(サイロ)は、発射管制室とミサイル発射格納庫の2つの設備からなっていた。無人化によって、戦争の最前線で人間は戦わなくなった。しかし、最高意志決…

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WAVE=85〜87

《エスピランサ》に収容されたヒロとナナは、格納庫へ向かうリフトに身を預けていた。地下工廠で受けた拷問の痛みに喘ぎながら、ヒロはナナに話しかけた。 「もしこの戦いが終わったらさ……」 「え?」 まるで目隠しするごとく包帯を…

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WAVE=84〜85

「攻撃開始まであと、30分……」 『かの国』による核攻撃が迫るなか、先遣隊が売国奴(マゴット)の地下シェルターへ向かってすでに3時間以上が経過していた。交渉は難航しているらしかった。 『かの国』による核ミサイル発射は着々…

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WAVE=77〜83

とにかく最短ルートで交渉にあたらねばならない……。 ナナとヒロを連れた加奈は、高等技術施策集団(テクノクラート)の長たる行政担当官に接触を試みたのだった。 しかし、『かの国』による核攻撃の情報を眼前に突きつけられた彼らの…

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WAVE=72〜77

(どこまでこいつらはお人好しなのだ?) 戦闘指揮所を後にした加奈は、売国奴(マゴット)を救うことを決断した要員たちの顔を思い浮かべていた。 自分たちだけが生き延びればいいものを……。たしかに核攻撃による演算は、地球の死を…

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WAVE=70〜72

戦闘指揮所の主モニターには、《響ⅩⅢ号システム》がはじき出した核攻撃によるシュミレーションが展開していた。日本という島国が消滅するほどの核攻撃が行われた場合の大変動(カタストロフィ)がどのようなものかが複数のウインドウに…

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WAVE=66〜69

医務室で目を覚ましたナナは、相変わらずの真っ暗闇の視界に絶望した。〝彼女〟と、《エスピランサ》とつながっている間は、目が見えるのに、というすこし寂しいような複雑な心境を漂った。手をまさぐり、どうやら自分は医務室のベッドで…

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WAVE=65〜66

「本州への大規模核攻撃……!?」 鷲尾は声を抑えて訊ねた。 「『かの国』はそう言ってきている」 電信の相手は『アポロン』参謀本部の飯田本部長閣下だった。艦長代行から正式に《エスピランサ》艦長への就任を伝えた彼は、つづいて…

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WAVE=62〜64

「艦内に潜伏することはこれ以上、不可能です……」 雨宮加奈は、衛星電話に向かって言った。環境構造物に隠れ、ガスマスク越しに周囲に警戒の目を走らせながら彼女は、委員の命令に異議を唱えたのだった。 「不可能と言うことはあるま…

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WAVE=58〜62

やはり、だめか――。 鷲尾艦長代行の顔に絶望の色が浮かび、思わず指揮所のコンソールに両手をつく。 万策尽き果てたという感じだった。やれることはやった。いまは艦内エネルギーも底をつきようとしている。すでに反撃の力もない。あ…

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WAVE=55〜58

分厚い雲の切れ間から現れた無人爆撃機《フォボス》の第一波が、雨あられと照明弾を落としていく。空中で爆破し、まばゆいばかりの閃光が暗闇に次々と咲き、昼間のように環状2号線地区を照らす。 つづく爆撃機の第二陣が、誘導ミサイル…

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WAVE=52〜54

「被害状況は……!?」 『かの国』と通信する〝何者か〟の存在を察知した艦長が売国奴(マゴット)を発見したとの報告を受けてから数分。艦橋構造物が爆破され、艦長の生死もいまだ確認が取れていない状況だった。まさにしっちゃかめっ…

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WAVE=50〜52

核大戦後、寒冷化した地球の夜の冷え込みは、尋常ではない。ガスマスクをしなければ、有害な放射能性降下物や揮発性有機化合物、さらには目に見えぬ紫外線の影響で視力すら失う。生物の存在を否定するかのような地上の深い静寂を、マスク…

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WAVE=49〜50

旧東京に《エスピランサ》が着陸してからすでに半日。『アポロン』東京支部から充填された工作要員によって主機及び補機の整備は急ピッチで進められていた。整備班もようやく交代制が敷かれ、ヒロは2時間の休憩を与えられていた。 売国…

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WAVE=45〜49

旧東京上空にさしかかった《エスピランサ》は、暗黒に飲まれた街並を俯瞰していた。かつて不夜城とも謳われたこの街には、大粒の雨が土をえぐったかのように、点々と巨大クレーターが穿っている。かつての日本の首都、未来都市・東京は瓦…

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WAVE=42~45

ナナは主機(メインエンジン)《響XⅢ号システム》の潜水球(バチスフィア)内に立てこもり、『オプト・クリスタル』との感応を解いていた。 「要求はなんなんだ?」 増幅集積室(チャンバー)の制御室にやってきた加奈とヒロは、作業…

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