「艦内に潜伏することはこれ以上、不可能です……」

雨宮加奈は、衛星電話に向かって言った。環境構造物に隠れ、ガスマスク越しに周囲に警戒の目を走らせながら彼女は、委員の命令に異議を唱えたのだった。

「不可能と言うことはあるまい。日本人を手なずけるのは、きみの十八番(おはこ)じゃないか」

簡単に言ってくれる。加奈は内心で舌打ちを洩らす。艦長殺害の犯人捜しが艦内では始まっている。売国奴(マゴット)が艦内にいることを副長は知っている。もはやこんな状況で諜報活動などできはしない……。いまだって、危うい綱渡りの状態で通信しているのだ。

だが、こちらの事情を説明したところで、彼らが理解するはずもないことは重々承知の上だった。委員は諜報員一人の命なぞなんとも思っていない。むしろこの任務を引き受けたのは、自分なのだという負い目もあって、途中から諦めの気持ちが襲ってきた。

なぜ日本人になど興味を持ったのだ? 生き延びる。そのためには彼らを無視すればよいではないか。いままでそうしてきたというのに、どうして自分は無関心でいられなかったのだ? 後悔先に立たずの思いをずっしり胸に感じながら、加奈は口中に広がっていく苦みに耐えた。

《エスピランサ》を足止めさせ、艦から目と鼻――つまりレーダーを破壊することで、加奈は任務から解放される……そのはずだった。

ところが、再起動するはずのない主機(メインエンジン)は目覚め、しかも地を埋め尽くすほどの《ダイモス》一個大隊を壊滅せしめた……。

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