救命胴衣とガスマスクを装着したクルーたちが、脱出用の艦載艇に乗り込んでいく。爆炎のなかを切り抜けてきた要員たちの顔はどれも煤けていて、夜の暗闇の中ではもう誰が誰かも見分けがつかぬほどだった。

それでも、鷲尾は艦載艇のなかに検体と少年の姿がないことに気づいて、

「検体はどうした!?」

と問うた。自分たちをこの絶望的戦いに誘った少年と少女。《エスピランサ》の希望――そもそも自分たちは、彼らのために戦っていたのではないか……。

「《神の杖》は艦隊中央部、主機を貫いています。おそらく助かっていないでしょう……」

砲雷長の言葉に、鷲尾はさっと顔色を変え、舷側(げんそく)から艦載機を支える揚艇機のワイヤーを伝って艦に戻ろうとする。

「艦長!」

そんな鷲尾を、砲雷長が押し戻す。

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