第9章 プロセシングの今後の展望

2. 化学IC

著者:生田 幸士

1. マイクロ化学デバイス入門

 「化学IC」(化学集積回路)とは、これまでの電子回路を微小化した集積デバイスとは異なる日本発信の新発想マイクロデバイスである。
 近年欧米を中心に分析装置のマイクロ化に関する研究開発が活発化している。Micro-TAS(Total Analysis System)、ラボオンチップ(Lab.On Chip)などと呼ばれているそれらは、実のところ15年以上も前にマイクロマシン(MEMS:Micro Electro Mechanical Systemの略)研究者が提案試作してきたマイクロ流路素子の応用の一つである。最近のブームの特徴は、マイクロマシン(MEMS)と分析化学の研究者が共同した、ベンチャー企業主導で短期的に実用化した装置が顕在化してきたことによる。しかし製作技術やセンシングなどの大半はマイクロマシン分野では教科書的な手法を使っている。
 他方、分析だけに限定せず、合成系やバイオ系をも含むすべての化学反応系をマイクロ化することを最終目的とした研究プロジェクトがある。それが本稿で解説する「化学IC(化学集積回路)」である。これは名古屋大学工学研究科でバイオマイクロマシンを研究している筆者がコンセプトを提案し、自らの研究室で開発を進めている新概念のマイクロデバイスである。化学ICという用語も筆者の造語で、英語でBiochemical ICやChemical ICと訳している。今日まで20種類以上の化学ICチップが開発され、機能が実証されてきた。
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2. マイクロスケールでの分析と合成

 一般に分析系の場合は、マイクロ化により試料サンプルと試薬が桁違いの少量ですむ。さらにマイクロ化すると「スケール効果」により表面積と体積の比(比界面)が増大するため、熱移動時間や反応所要時間が桁違いに小さくできる。他方、マイクロスケールの合成系の場合、実験室内の試作的合成には有効であっても、実用段階の合成では収量が小さく、意味が無いと思われるかもしれないが、これは誤解である。
 一般に医薬品などでは、実験室で少量の合成をし、機能を検証後、実用に耐えるう薬物は、大量スケールの合成プロセスの開発フェーズに入る。通常このフェーズには、相当の時間と開発費を要する。当然、最終製品の価格にも反映してくる。さらに多品種少量合成が不可欠なテーラーメイド製薬に代表される次世代合成では、このような従来方式の開発工程では製品の価格高騰は逃れられない。何らかのブレークスルー技術が不可欠となる。
 この答えの一つが、化学ICなのである。化学ICチップ群を用いた実験室レベルでの合成系は、化学ICの数を増やすと言う単純な方法で、大量生産プロセスに即時に移行できる。上述の大量生産プロセスの開発フェーズが不要になる。このメリットは、医薬費に限らず広く合成系全般の研究と開発スタイルに革命をもたらす可能性がある。
マイクロ分析系の応用展開にエネルギーが投資されてる現在、マイクロ合成系をも眼中においたグローバルな研究は、世界的にもほとんどない。
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