第6章 材料創製

4 .液中レーザーアブレーション法による有機ナノ粒子作製

著者:朝日 剛, 杉山 輝樹

1. はじめに

 有機化合物の微粒子は、インクや塗料、化粧品、医薬品、食品など、我々の身近に幅広く用いられている.そのサイズはμmから数10011mが多く、実際の材料にはサイズや形状の種々異なった微粒子が混在している.近年、この微粒子サイズをμmからnmオーダーにすることで、すなわちナノ粒子化することにより、従来に比べ高い機能性や薬理作用などが実現できるのではないかと期待されている.有機化合物のナノ粒子作製手法としては代表的なものとして再沈殿法と機械粉砕法があるが、多種多様な有機化合物すべてに対して必ずしも有効な手法というわけではない.このような背景のもと、有機ナノ粒子の全く新しい作製法として液中レーザーアブレーシヨン法が注目を集めている1〜7)
 レーザーアブレーションによるナノ粒子材料の創製は、シリコンをはじめとする無機材料あるいはフラーレンなどの炭素系ナノ材料については研究例が多い8〜11).従来の反応チャンバーを用いた気相中での固体ターゲットのレーザーアブレーションに加え、水中でアブレーシヨンさせ金属や金属酸化物のナノ粒子を作製する研究が盛んになってきている12〜16)。これに対し、有機化合物に関する研究例は非常に少ない。これは有機材料において機能発現をつかさどる有機化合物自身が、高強度パルスレーザー照射によって分解あるいは変質し、そのため材料としての機能の発現が困難と考えられてきたためである。しかし近年、いくつかの有機化合物について液中レーザーアブレーション法を用いることにより、分子を分解することなくナノ粒子化できることが報告されているい雪本手法は、貧溶媒中で原料微結晶に高強度パルスレーザーを照射することにより、微結晶を粉砕しナノ粒子を得る方法である。この方法を広く工業的に用いられている機械粉砕法と比較すると、機械分散法では到達できない粒径10nmの顔料ナノ粒子の作製が可能であることや、分散剤を使用しないため化学的に純粋なナノ粒子が得られること、また分光計測によりナノ粒子化進行過程をモニターしながら作製できるなどの利点がある。本節では、液中レーザーアブレーション法を用いた有機ナノ顔料の作製を紹介し、ナノ粒子生成のメカニズムについて解説する。また、この新しい作製手法を他の有機ナノ粒子作製法と比較し、その特徴と将来展望について述べる。
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2. 液中パルスレーザーアブレーション法

 液中レーザーアブレーションーナノ粒子作製法の概念図を図1に示す。目的とする有機化合物が溶解しない溶媒(貧溶媒)にマイクロメートルサイズの微結晶を加え、溶媒を攪拌することによって微結晶を浮遊させる。これに高強度パルスレーザーを照射することによってレーザーアブレーションを誘起し、ナノ粒子の放出もしくは微結晶の粉砕が起こり、最終的にナノ粒子コロイド分散液が得られる。反応チャンバー等の特殊な装置を必要とせず、簡便な実験条件でナノ粒子の作製が可能である。実験室では、光路長1cm(1x1x5cm3)の石英セルに原料微結晶と貧溶媒を入れ、マグネチックスターラーで溶媒を攪拌しながらレーザーを照射する。レーザー光源には、フェムト秒チタンサファイアレーザー、ナノ秒Nd3+:YAGレーザーの第2、3高調波(532nm、355nm)、ナノ秒XeFエキシマーレーザーなどの各種パルスレーザ一を使用できる。また、ナノ粒子生成の進行状況を分光測定によってその場観察できるため、レーザーの照射条件等の最適化が容易である。


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