第5章 ミクロレーザープロセシング

2. 光酸化

著者:黒澤 宏

1. はじめに

 シリコンを基盤材料とした集積回路の製作において、シリコンの酸化が重要なプロセスであり、酸化膜の品質と成膜速度の要求に応えるためには1000°Cの高温処理が普通に行われる方法である。一方、微細化が進むにつれて、高温による損傷が問題となり、処理温度を下げる努力がなされている。低温で処理しても酸化膜の形成は可能であるが、処理速度が遅くなり、実用に耐えられなくなってしまう。そこで、プラズマ、イオンビーム、可視光、紫外光などの温度以外のエネルギーを添えることで処理温度を下げようとする試みもある。中には高温処理より速い酸化速度を達成できる場合もある。O2分子(結合エネルギー:5.1ev)を分解しフリーな酸素原子やO3分子を利用することで、高温処理速度より1桁以上も速い酸化速度が得られている例もある。そのためには、結合エネルギーより高いフォトンエネルギーを供給できる光源が必要になる。図1に示すような、希ガスハライドないしは希ガスを誘電体バリヤー放電(無声放電)励起することで、354nmの紫外から126mnの真空紫外までの広い波長範囲をカバーできる新しいエキシマ光源が開発されており、手軽に入手できるようになってきた。アルゴンの例を示すと

となる。すなわち、励起状態にあるアルゴンエキシマ分子が、数ナノ秒の間に励起エネルギーを真空紫外光の形で放出して、2つのアルゴン原子になる。ガスの種類とフォトンエネルギー、波長の関係を表1にまとめてある。誘電体兼ガス容器として石英ガラスを使っており、フッ素ガスが使えないために、現時点では、表1の中の5種類だけが入手可能である。容器としてCaF2ないしはMgF2を使えば、F2(157nm)、ArF(193nm)、KrF(248nm)のような、リソグラフィー等で有名な光源も可能である。このようなエキシマランプの特徴は、電気入力から光出力への変換効率が15〜20%と、極めて高いことと、大面積光源が可能なことである。光強度はレーザーとは比べものにならないが、大面積を一括処理できるので、処理速度はレーザーと遜色ない。むしろ、被照射体の温度を低く抑えることができることから、低温処理光源としては理想的である。

2. 酸化膜形成

 酸化には酸素が必要であるが、酸素分子の光分解反応は、波長によって生成される原子の状態が異なる。すなわち、O2は130〜17011m付近にSchumann-Runge〇吸収と呼ばれる大きな吸収帯をもち、真空紫外光を吸収して酸素原子ラジカルのO(3P)、O(1D)、O(1S)となる。反応機構は以下のように考えられる1〜5)

 これらの酸素原子ラジカルは酸素分子と衝突してオゾンとなる。

 さらに、オゾンは200〜300nmの紫外光を吸収して、次のような酸素ラジカルを再生する。

 3種のラジカルの内でO(1D)の化学反応性が1番大きく、その反応速度定数は他のラジカルと比較し1〜5桁大きい。よって、酸化膜を形成する場合の酸化剤として用いるO2は、真空紫外光により活性酸素とO3(オゾン)に分解されるため、これらが酸化種となり、真空紫外光CVDの反応に影響を与える。結果として、できるだけ短い波長の光を使う方が、成膜速度が速くなると予想される。以下に、具体的な例で、その様子を見てみよう6〜9)
 酸素雰囲気中、Xeエキシマランプを250°Cのシリコン結晶に照射した場合の酸化膜の生成速度は0。1nm/minである。この成膜速度は、結晶温度を612°Cにして、ランプを照射しない場合より2桁速く、同条件で紫外光源として簡単に入手できる水銀ランプ(波長253.7nm)を照射した場合と同程度である。Xeエキシマランプ照射の場合、シリコン結晶の温度を400°Cに上げると、2倍の成膜速度が得られている。この際、使われたXeエキシマランプの光強度は100mW/cm2である。次に、光源をArエキシマランプにした場合を見てみよう。Arエキシマランプから得られる波長!26nmの光は、MgF2ないしはCaF2窓を通過するが、100%とはいかない。材料の純度に依るが、少なからず吸収がある。そこで考えられたのが、窓を使わずに、石英ガラスで覆われた電極を2本(もっと多くすることで大面積照射が可能になる)入れた光源室と被照射物室を細いスリットを通して、軽く隔離し全体に発光用のアルゴンガスと酸化用に酸素を混入する方法である。シリコン結晶は特に昇温せず、800mTorrのアルゴンガスと200mTorrの酸素ガスを入れた場合、5nm/minの驚異的な成膜速度が得られた・絶縁膜としてのリーク電流も、1MV/cmの電界に対して、10-6A/cm2の値である。驚くべきことは、ガス混合比をそのままにして、全体のガス圧を1mTorrにした場合、成膜速度が8mn/minにまで上がり、リーク電流も10-8A/cm2まで改善されている。電極間に混合ガスを入れることで、低圧グロー放電によってO2、O、O2-などのより反応性の高い酸素イオンが生成されて、これが酸化を促進したと考えられている。
 いずれにしても、エキシマランプから得られる真空紫外光を利用することで、温度に依らない酸素分子の分解が進み、そこで生成された活性種がシリコンと反応する低温プロセスが実現されており、今後の半導体製造における中核技術となることが予想される。

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