第5章 ミクロレーザープロセシング(レーザー加工)

1. CVD

著者:大越 昌幸

1. はじめに

CVD(chemical vapor deposition)法とは、反応系分子の気体、あるいはこれと不活性のキャリヤーとの混合気体を加熱した基板上に流し、加水分解、自己分解、光分解、酸化還元、置換などの反応による生成物を基板上に蒸着させる方法をいう1)。化学蒸着法あるいは化学気相成長法などともいう。このCVD法において、反応系分子の気体(原料ガス)、の化学反応や熱分解を促進させるために光照射を行う場合を「光CVD法」と呼んでいる。インコヒーレントな光源をここでは含むが、コヒーレントなレーザー光源に限った場合を特に「レーザーCVD法」という。
もともとCVD法は、Si基板上にSiをエピタキシャル成長させる技術として発展してきたものである。1000°C程度に加熱されたsi基板上に原料ガスであるSiH4を流し、Si基板上でのSiH4の熱分解によって、Si原子をSi基板上に蒸着(堆積)させる。これはいわゆる「熱CVD法」であった。しかし半導体集積回路技術の進展に伴って、1000°Cという高温での膜形成では、すでに形成されている他のデバイス部分、すなわち金属配線と基板面あるいは各種の接合面などで熱拡散が起きてしまうため、低温での膜形成が可能な「プラズマCVD法」が考案された2)。しかしこの場合、気相中でイオンが生成するため、それらが電場により加速され形成膜に損傷を与えてしまう。そこで、低温かつ無損傷での膜形成法が求められ、光CVD法が脚光を浴びることになった。
光CVD法の歴史は、1968年までさかのぼる3)。SiCl4/H2ガスを用いたSi膜形成において、高圧水銀灯を照射することにより、結晶成長温度の低下が見出された。その後の1970年代には、CO2レーザーによるSi膜のCVDに関する論文が報告されたが4)、このような光励起プロセス(加工)技術の重要性はまだ認識されなかった。1980年代に入り、半導体集積回路技術において低温、無損傷プロセス(加工)への要請が高まり、光(レーザー)CVD法の重要性がようやく認識された。そして1980代からは、レーザーCVD法に関する研究論文数が急激に伸び、半導体膜のみならず、金属膜や誘電体膜などあらゆる膜形成にレーザーCVD法が適用された。これら詳細については、多くの優れた解説や書籍に纏められているので、そちらを参照されたい5〜10)また、エピタキシャル成長に関しては本章4節に詳述されているので、ここではその記述を避ける。レーザーCVDの応用の観点からは、液晶表示装置のリペアとマスクリペアが現在重要である。これらについては本章7節および8節に詳述されている。本節では、レーザーCVDに関する基本的な事項の整理と、最近の研究例について記述することにする。

無料ユーザー登録

続きを読むにはユーザー登録が必要です。
登録することで3000以上ある記事全てを無料でご覧頂けます。
ログインパスワードをメールにてお送りします。 間違ったメールアドレスで登録された場合は、改めてご登録していただくかお問い合わせフォームよりお問い合わせください。

既存ユーザのログイン
   
新規ユーザー登録
*必須項目