第4章 マクロレーザープロセシング

7. 非平衡金属組織形成およびアモルファス相の結晶

1. 非平衡金属組織形成

著者:河野 渉

1.1 概要

 金属材料はその組成と温度によって各種の相変態を生じて、熱力学的に安定な平衡状態にあろうとするが、高温状態から急激に冷却された場合には、安定相の形成が不十分となり、非平衡状態を示すことがある。安定相の形成によって材質の劣化が生じるような場合には、意図的に非平衡状態にすることも一つの対策となる。このような非平衡状態を再現するには、レーザー照射によって金属材料表面を急熱急冷する表面処理が有効な方法である。
 その具体的な例として、レーザーを用いた脱鋭敏化処理をここで紹介する。この処理はオーステナイト系ステンレス鋼SUS304に有効な手法である。オーステナイト系ステンレス鋼は550〜850°Cの温度域に加熱されるとCr炭化物が粒界に析出し、Cr欠乏層を形成することによって耐食性が劣化する。この現象は鋭敏化と言われており、オーステナイト系ステンレス鋼の溶接熱影響部にも発生し、粒界腐食や応力腐食割れの原因の一つとされている。
 このように鋭敏化した領域にレーザー照射による急熱急冷処理を施し、加熱過程でCr炭化物を固溶させた後、急冷過程でCr炭化物の再析出を防止する手法をレーザ一脱鋭敏化処理という1,2)

1.2 レーザー脱鋭敏化処理層の形成

 図1に示すように、レーザービームを溶接熱影響部に照射しながら移動させることによって、材料表面に脱鋭敏化層を形成することができる。
 鋭敏化したSUS304鋼(620°Cx2H熱処理)に対して、レーザー脱鋭敏化処理をおこなった部位の断面組織を図2に示す。材料の表面から約0.3mmの深さまで脱鋭敏化層が形成されている。さらに、鋭敏化領域と脱鋭敏化層の違いを確認するために透過型電子顕微鏡による結晶粒界近傍のCr、Ni濃度分布を分析した結果を図3に示す。鋭敏化領域では結晶粒界近傍のCr,Ni濃度が低下しており、いわゆるCr欠乏層が形成されている。一方、レーザー脱鋭敏化層ではCr炭化物の固溶とCrの拡散によってCr欠乏層が回復していることがわかる。
 レーザー脱鋭敏化層の形成はレーザー照射条件によって変化する。図4にYAGレーザーを用いた脱鋭敏化層の最大深さの変化を示す。施工速度が遅くなれば材料に与えられる入熱が多くなり、脱鋭敏化層の深さは増加する。また、スポット径が小さくなれば、パワー密度が増加して材料表面を高温に加熱しやすくなるため、脱鋭敏化層の深さは深くなる。さらに、脱鋭敏化層の深さを深くしようとすると材料表面が融点に達して、溶融するようになる。このようにレーザー照射条件によって脱鋭敏化層の形成は変化するが、レーザー照射によって材料に生じる温度履歴からCr欠乏層の回復をシミュレーションして、脱鋭敏化現象の理論的な解明も行われている2,3)
 その結果、脱鋭敏化可能なレーザー照射条件範囲(レーザー出力、施工速度、照射ビーム径)を計算から求めており、実験結果とよい一致を示している。
 また、レーザー照射条件以外の影響因子として、材料表面が酸化皮膜に覆われているような場合は、レーザー吸収率が増加して脱鋭敏化層の深さや幅が増加する4)。以上のように、レーザー脱鋭敏化層の形成に関しては、レーザー照射条件の選定だけではなく、材料表面の状態も考慮する必要がある。




1.3 レーザー脱鋭敏化処理の効果

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