第3章 プロセス装置

4. プロセス装置の性能評価

著者:楡 孝

1. はじめに

 生産技術としてレーザーを用いたレーザープロセシング技術の利用が増えている。
 自動車産業で多く用いられている高出力C02レーザ一、YAGレーザーを利用した板金の切断、溶接。短パルスC02レーザーと高速ガルバノを利用した実装基板のビアホール加工。紫外光のエキシマレーザーを利用したインクジェットプリンタのノズル加工。エキシマレーザーをラインビームにして利用する液晶ディスプレイの低温多結晶(poly-)Si薄膜トランジスタ(TFT)形成用結晶化アニール。IC微細化のキーであるフォトリソ工程には分解能向上のための短波長光源としてKrF(λ=248nm)、ArF(λ=193nm)エキシマレーザーが使用されている。
 レーザープロセス装置はデバイスや部品を製造するための装置である。従ってその仕様はそれらのデバイスや部品が必要とされる最終商品の要求を満たすためのデバイス・部品の仕様に依存する。
 本節では液晶ディスプレイの低温poly-Si TFT形成用レーザー結晶化アニールを例に、プロセスと装置仕様との関係を解説し、プロセス装置の性能評価について概説する。

2. 低温多結晶(poly-)SiTFT液晶ディスプレイ

 現在、液晶ディスプレイは携帯電話、デジタルカメラ、カーナビゲーション、コンピュータ、テレビなど多くの機器の情報表示装置として広く使われている。
 液晶は光をシャッティングする素子である。電圧をかけると光に対する偏光特性が変化することを利用し、偏光板と組み合わせて利用するのが一般的である。但しこの時の応答速度は数msと遅く、従来の線順次走査によるパッシブ型のマトリクス表示では多くの情報を表示することが難しかった。この欠点を克服したのがアモルファス(a-)Siを利用した薄膜トランジスタ(TFT)によるアクティブ駆動の液晶であった。ドットマトリクス状に配置された画素各々にトランジスタが配され、液晶の応答速度の遅さを補うことにより、動画表示までも可能になったのである。いわゆるa-Si TFT液晶ディスプレイの登場である。
 a-Si TFT液晶ディスプレイの登場により、コンピュー夕の画面は薄くなり、ノートブックコンピュータも可能になった。a-Siは液晶に応用される以前に太陽電池の材料として盛んに研究がなされていた。その結果として、低温で透光性の大面積基板であるガラス上にP型、口型両特性の良質なa-Siを成膜することができるプラズマCVD技術が発展し、液晶への応用が急速に広まっていったのである。しかしa-Siは非晶質であるが故に、通常のICに使われている結晶(c-)Siとは物性値が異なり、特に移動度はc-Siの数百一千cm2V・sと比べると3桁ほど劣る0。5-1cm2/V・sである。そのため液晶の画素駆動用のトランジスタを作製するためには、数十μm程度の大きさを要する。
 一方デジタル機器の進展に伴い画素の高密度化の要求が高まっていった。特に小面積での高密度化は、液晶の画素面積が小さくなり、TFTの大きさにより光を通すための開口率が取れなくなってしまうため、より小さなTFTが求められた。最初に必要とされたのはデジタルビデオカメラのビューファインダ用液晶ディスプレイである。この要求に対しては、石英などの高耐熱性透明基板に高温で成膜された移動度の高い多結晶Siを利用して、トランジスタに必要な面積を小さくすることがなされた。いわゆる高温多結晶(poly-)SiTFT液晶ディスプレイである。
 しかし高温poly-Si TFT液晶ディスプレイは大面積化が難しく、さらなる大面積高密度化の要求に応えるのは困難であった。そこに登場したのが、大面積ガラス基板上に成膜されたa-Siを、基板に熱ダメージを与えずa-Siのみを溶融して結晶化させるレーザーニール技術を用いた低温poly-SiTFT液晶ディスプレイである。これに用いられるpoly-Siの移動度は数十一200cm2/V・sで、数μm程度の大きさでトランジスタを形成することが可能になった。
 デジタルスチルカメラの急速な普及はこの技術によるところが大きい。勿論安価で高解像度のCCDの開発や画像のデジタル化技術がキーではあるが、従来のファインダーを覗き込んで写真を撮るといった常識からもっと気軽にとの商品コンセプトと適合したのである。その後、コンピュータ表示の高解像度化と携帯性を両立させた携帯型ノートブックコンピュータの表示装置や携帯電話の動画表示などの要求を満たすものとして普及してきている。

3. レーザー結晶化アニールプロセス

 低温poly-Siは、ガラス基板上に成膜されたa-Siをレーザーを用いて溶融し、それが固化するときに結晶化することを利用して作製される。このときに用いるレーザー光はa-Si膜に十分吸収されガラス基板に熱ダメージを与えず、尚且つ広い範囲を溶融させるだけのエネルギーが得られることが必要となる。現在では、a-Siの吸収係数が高く、パルスエネルギーが大きい波長308nmで発振するXeClを媒体としたエキシマレーザーが一般的に使われている。パルスエネルギーの大きなエキシマレーザ一光をラインビーム状に成形し、a-Si上をラインビームに垂直方向に走査させ、端から順次溶融結晶化させることにより、ガラス基板一面にpoly-Si薄膜が形成される。
 このプロセスによるpoly-Siの移動度は、照射レーザ一光のエネルギー密度に強く依存する。またこの移動度は形成されたpoly-Siの粒径と相関関係にあるため、いかに大きな結晶粒を均一に歩留まり良く作るかが、このプロセスの重要な点である。
 図1に移動度とレーザーのエネルギー密度との関係を示す。エネルギー密度を上げるに従って、結晶化するための闕値を越えると移動度は上がり始めピークを過ぎると急激に減少する。この現象は溶融状態の違いによる結晶の核発生と成長のメカニズムによって説明されている1,2)。またこれらのエネルギー密度の絶対値はレーザーのパルス幅やa-Siの膜質、膜厚によって変化する。エネルギー密度以外のパラメータは一定とすると、TFT作製時の移動度の設計値と公差からエネルギー密度とその許容範囲が求められる。
 一方照射時のビームは、数百一千mJのパルスエネルギーのレーザー光をフラット領域が数百μmx数百mmに成形されたものが使われている。このラインビームの均一性もまた前記移動度のばらつきに効いてくる。仮に図1におけるエネルギー密度の許容範囲が10%だとしラインビームのばらつきが4%だとすると、他にばらっき要因が無いとしてレーザーのエネルギーばらつきは6%以内でなければならない。
 移動度とエネルギー密度の関係はa-Siの膜質、膜厚によっても変化する。通常用いられるプラズマCVDで成膜されたa-Siの膜厚は、周辺部の方が中央部よりも薄くなる傾向がある。同じ移動度を得るためのエネルギー密度は膜厚の薄い方が低くなるため、エネルギー密度の許容範囲はさらに狭くなる。図2に膜厚分布によるエネルギー密度の許容範囲の変化を図示した。膜厚分布による影響が2%だと仮定し、前記と同様ラインビームのばらつきが4%だとすると、レーザーのエネルギーばらつきは4%以内が必要とされる。ここで許容エネルギー密度範囲の上限値が移動度のピークとなる値までとしているのは、レーザーのパルスエネルギーが大きく上方に外れた時の欠陥生成のリスクを減らすためである。
 エキシマレーザーは放電励起によりレーザー光を得ているため、ある確率で単発的な非常に高いパルスエネルギーを発振することがある。このような高いパルスエネルギーのレーザー光が照射されればその場所の移動度は極端に低くなり、1ライン分のTFTは作動しなくなって液晶パネルに不具合を起こしてしまう。できるだけこのような不具合を減らすため、実際のプロセスにおいては、エネルギー密度を理想の値よりも低めに設定し、数回から数十回重ねて照射することにより、より大きな粒径を得ることがなされている。

無料ユーザー登録

続きを読むにはユーザー登録が必要です。
登録することで3000以上ある記事全てを無料でご覧頂けます。
SNS(Facebook, Google+)アカウントが持っているお客様は、右のサイドバーですぐにログインできます。 あるいは、既に登録されている方はユーザー名とパスワードを入力してログインしてください。
*メールアドレスの間違いが増えています。正しいメールアドレスでないとご登録が完了しないのでお気を付けください。

既存ユーザのログイン
   
新規ユーザー登録
*必須項目