第2章 プロセス技術の基礎

3. レーザー光分解

著者:新納 弘之

1. はじめに

 レーザー照射によって誘起される光分解過程は、プロセス技術の根幹過程となるものが数多くあり、レーザープロセシングにおける重要な素過程が含まれる。主プロセスは重合反応や架橋反応でも、その開始過程は開始剤や前駆体の光分解過程から始まっている系が数多くあり、光分解過程の精密制御はプロセス全体の高効率化や高品位化を左右する重要課題といっても過言ではない。とくに、近年のレーザー装置の急速な進歩によって、波長、強度、パルス幅等に関して多種類の光源装置が上市され、用途・目的に応じた光分解過程を選択的に誘起させることが可能になっている。精緻な反応過程設計を行うことによって、高品質なプロセス制御が実現できるようになりつつある1〜3)

2. レーザー光分解過程の分類

 レーザー照射によって誘起される光分解過程は、光熱分解型と光化学分解型の二つに大別できる(表1)。光熱分解型は主として高強度赤外光の照射によって起こり、分子や基材の振動準位を基底状態から高振動準位に多段階に励起することで化学結合を切断するものである。図1のI過程がこれに相当する。図1の横軸は原子間距離、すなわち、化学結合の長さを表し、縦軸は分子のポテンシャルエネルギー(PE)を75している。励起された分子は直ちに下位準位へ失活する緩和過程が起こる性質がある。しかし、光熱分解型では振動準位を多段階に励起し、高振動準位から解離させる必要があることから、高密度に集光照射することで局所的に高温場を形成し、失活過程に対抗して高振動準位への励起過程を進行させる。
 一方、光化学分解型は分子を電子励起状態に励起し、解離型のポテンシャルに移ることで分解過程が起こる。一般に電子励起状態は紫外光に相当するエネルギーを持っているために、紫外レーザーを照射することで一光子吸収過程によって電子励起状態を経由する直接解離過程を起こすことができる。図1のII過程(一光子励起型)である。もちろん、分子や基材によって励起PEは異なる。したがって、個々の分子や基材の吸収スペクトルを調べ、分解過程が促進される適切な吸収帯を選び、当該波長のレーザーを照射する必要がある。紫外光による光分解過程は、一つの光子の吸収によって進行するので、低強度光の照射によっても分解過程は発現する。その反応効率を量子収率という。II過程を高度に実用化しているのが、半導体集積回路製造時に使われているフォトリソグラフィ工程で、シリコン基板の上に薄く塗布されたフォトレジスト層中の感光性ポリマー分子が光分解することでフォトレジスト層が低分子化(ポジ型、現像液への溶解度向上)、または、架橋反応(ネガ型)が起こり、所定の感光パターンを得ている。現在、100nmを下回る極微小サイズの加工パターンで最先端のフォトリソグラフィ工程が実用化されている。一光子励起型の光化学分解過程が特定の空間位置に存在する化学結合を切断するのに最も適した手法であることを示す好例である。
 光化学分解型にはこの他に、非共鳴励起による多光子励起がある(図1のHI過程)。近年急速に装置開発が進むフェムト秒レーザー照射によって起こる現象である。フェムト秒またはピコ秒などの超短パルス光照射では、光の高電場によって非線型吸収過程が誘起される。一つの分子が複数個の光子を同時に吸収することで電子励起状態に励起され、解離型PE曲線を経由して分解過程が起こる。例えば、フェムト秒パルス光源として汎用されているチタン・サファイヤレーザーの基本波長は800nm近傍にあるので、この場合、3光子吸収ないし4光子吸収が紫外光のエネルギーに相当することになり、光分解が起こることになる。波長λにおけるn光子の非線型吸収A(n、λ)は、電場Eの吸収される光子の数(n)のべき乗に比例するので(式1)、

3光子または4光子吸収のような高次の非線形吸収は、大きな電場を与えることで顕著に発現することになる。通常の分子ではnが大きくなるにつれてC(n)は急激に小さくなるので、このような非共鳴励起による多光子吸収過程は超短パルス光照射時の特異的な現象である。式1において、n=1は一光子吸収を意味しており、実際の分子の吸収A(λ)は、一光子吸収と多光子吸収の和で表される。

 光熱分解型と光化学分解型の二つに大別して光分解過程を説明したが、光照射によって分解過程が実際に起こるかどうかは、光照射条件だけでなく個々の分子の性質や照射環境に大きく依存する。とくに、光吸収によって生成した励起状態からどのような経路を辿るのかが重要で、分解過程は振動緩和、発光緩和、エネルギー移動、電子移動、イオン化過程などの種々の緩和現象との競合になることに注意しなければならない4)。励起エネルギーが散逸する過程は、励起された分子が周囲の分子との衝突や相互作用を繰り返すことでも容易に起こる。したがって、励起分子が孤立環境にあるのかどうかでも分解過程は影響を受けることになる。

無料ユーザー登録

続きを読むにはユーザー登録が必要です。
登録することで3000以上ある記事全てを無料でご覧頂けます。
SNS(Facebook, Google+)アカウントが持っているお客様は、右のサイドバーですぐにログインできます。 あるいは、既に登録されている方はユーザー名とパスワードを入力してログインしてください。
*メールアドレスの間違いが増えています。正しいメールアドレスでないとご登録が完了しないのでお気を付けください。

既存ユーザのログイン
   
新規ユーザー登録
*必須項目