透明な結晶の物質は、非線形分極に関連した種々の光学非線形性を有することがある。例えば、χ(2)非線形係数を持つ媒質は、主にパラメトリック非線形周波数変換 (周波数二倍器光パラメトリック共振器) や、電気光学変調器に用いられ、そこではχ(3) 非線形性は、Kerr効果やラマン効果そして四光波混合をもたらす。本質的には全ての場合において、人工 (天然ではなく) 結晶が用いられる。

非線形結晶を選ぶ際の関連した条件

非線形結晶の多くの異なる特性が、非線形周波数変換等の応用において重要な役割を果たしている。

  • 波長分散特性と複屈折性によって、位相整合、位相整合帯域幅、角度許容性 (クリティカル位相整合用) 等の可能性が決まる。
  • 非線形テンソル要素と位相整合の形状に依存する実効非線形係数deffの大きさは、特に、達成しうる光強度が低ければ重要となる。
  • 通常は、結晶材料は、関連するすべての波長において高い透過率を持つべきである。

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 1: LBOの塊と、切り出されたいくつかの結晶。写真は、EKSMA OPTICSの厚意による。

比較のために、関連したさらなる性質を示す。

  • 擬似位相整合を実現する周期分極反転した材料の可能性
  • 高い光パワーレベルで発熱の原因となる線形吸収のために、位相整合が阻害され、熱レンズ効果が起こる。
  • 光学損傷、グレートラッキング、光黒化、緑色光誘起赤外光吸収(GRIIRA)等の耐性がある。
  • フォトリフラクティブ効果 (しばしばフォトリフラクティブ損傷と呼ばれるが、通常は、可逆反応である) 耐性がある。
  • 良質かつ、大きなサイズで合理的な値段の結晶が利用できる。
  • 結晶面に高品質な反射防止コーティングを施すことが簡単にできる。
  • 化学耐久性が高い。例えば、ある結晶材料では吸湿性があったり、誘電コーティングに用いる真空チャンバー内が高温になると化学変化するものもあるのと異なる。

ある用途に最も適した結晶を選ぶという作業は、まったく些細な事ではなく、多くの面を考慮して選ぶべきである。例えば、もし、大きな群速度不整合によって相互作用距離が強く制限され、損傷閾値が低い結果、応用できる光強度が限られると、超短パルスの周波数変換の際に、高い非線形性は役に立たない。さらに、室温でクリティカル位相整合できる結晶を用いることが望ましい。なぜなら、ノンクリティカル位相整合は、多くの場合温度安定化された結晶オーブン内での結晶の動作に関わるからである。

よく使用される非線形結晶材料

ニオブ酸リチウム (LiNbO3) タンタル酸リチウム (LiTaO3) は、比較的強い非線形性を持つ材料である。多くの場合、非線形周波数変換や電気光学変調器に利用される。両材料ともに、一致した化学組成の形で利用でき、また、周期分極反転とフォトリフラクティブ効果 (下記を参照) に関する重要な違いを有する。ニオブ酸リチウムとタンタル酸リチウムは、周期分極反転という面で、最もよく利用される材料であり、PPLN (周期分極反転ニオブ酸リチウム) とPPLTとそれぞれ結果として呼ばれ、また、化学組成を考慮した場合には、PPSLNとPPSLTとそれぞれ呼ばれる。両材料とも、比較的損傷閾値が低いが、高い非線形性を有しているので、高強度で使用する必要はない。それらは、周波数変換には有害なフォトリフラクティブ効果を有する傾向があるが、鉄添加ニオブ酸リチウム結晶を用いたホログラフィックデータストレージ等に利用される。“フォトリフラクティブ損傷”の傾向は、材料の組成に強く依存している。例えば、酸化マグネシウムを添加し、化学組成を利用することで、減らすことができる。

ニオブ酸カリウム (KNbO3) は、高い非線形性を有する。青色波長への周波数二倍化や、圧電用途等に用いられる。

チタン酸リン酸カリウム (KTP, KTiOPO4) は、フラックス法で成長 (安価) または、水熱処理 (高出力により適している、グレートラッキングの傾向が小さい→光黒化) される。KTPの仲間である、KTA (KTiOAsO4)、RTP (RbTiOPO4) そして RTA (RbTiAsPO4) がある。これらの材料は、周期分極反転に向いている比較的高い非線形性を有する傾向にある。

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 2: とても大きなサイズを含んだKD*P結晶の写真。写真はEKSMA OPTICSの厚意による。

リン酸二水素カリウム (KDP、KH2PO4) とリン酸二重水素カリウム(赤外領域の高い透過性を有するKD*PまたはDKDP、KD2PO4)は、低価格で大きなサイズを利用できる。全体的に均質性が良く、損失閾値も高いが、吸湿性があり非線形性が低い。

ホウ酸塩系の結晶はたくさんあり、もっとも重要なものとして、三ホウ酸リチウム (LiB3O5 = LBO)、セシウムホウ酸リチウム (CLBO、CsLiB6O10) 、メタホウ酸バリウム (β-BaB2O4 = BBO、強い吸湿性があり、よくポッケルスセルに用いられる。) 、三ホウ酸ビスマス (BiB3O6 = BIBO) 、そしてホウ酸セシウム(CsB3O5 = CBO) である。オキシホウ酸塩イットリウムカルシウム (YCOB) とYAl3(BO3)4 (YAB) は、レーザー利得媒質として、希土類を添加した形で利用することができ、また、レーザー光の発生や周波数変換に同時に用いることができる。あまり利用されていないもので、ストロンチウムベリラトボレート(Sr2Be2B2O7 = SBBO) とK2Al2B2O7 (KAB) がある。LBO、BBO、CLBO、CBOそして他のホウ酸結晶は、緑や青色の光源や、紫外領域 (→ 紫外レーザー) 等の比較的短波の光の発生に適している。なぜなら、バンドギャップエネルギーが比較的高く、結晶が、紫外光に対して耐久性があり、適した位相整合のオプションがあるからである。LBOや BBOといったホウ酸化物は、広帯域可変光パラメトリック発振器と光パラメトリックチャープパルス増幅器においても良く機能する。

中赤外領域 (部分的にテラヘルツ) の発生用には、赤外スペクトル領域まで広がった透過範囲を持つ材料を使用する必要がある。最も重要な媒質として、二リン化ジンクゲルマニウム (ZGP, ZnGeP2) 、銀ガリウム硫黄すなわちセレニド (AgGaS2とAgGaSe2)、ガリウムセレニド (GaSe) そしてカドミウムセレニド (CdSe) がある。さらに、ヒ化ガリウム (GaAs) は、中赤外領域の用途において有用である。なぜなら、オリエンテーションパターンGaAsにおいて擬似位相整合を得ることが可能だからである [13, 21]。

非線形結晶の寿命

多くの場合、非線形周波数変換に用いられる非線形結晶は、レーザーシステム全体よりも、寿命が長い。結晶材料を、動作中に修正することはできない。しかし、様々な条件下において結晶の寿命が短くなることがある。

  • 使用中における過度な光強度は、即座に結晶の損傷につながることがある。あいにく、非線形結晶は、多くの場合、十分に高い周波数変換効率を実現するために、光損傷閾値からそれほど離れていない領域で動作させる必要がある。これは、周波数変換と結晶の寿命間のトレードオフの関係を示唆している。たとえ、公称強度が公称の損傷閾値よりも低くても、ビームパワーや局所的なパワー (例、ビームプロファイルが熱い点を持っている場合) の揺らぎや、通常の結晶材料よりも感度のよくなる孤立欠陥の存在によって、問題が生じる可能性がある。
  • たとえ、即座に損傷を受けるような閾値よりもかなり低い強度であったとしても、グレイトラッキングのような形で、使用されている部分で連続的に劣化する結晶もある。そういった現象は、特に紫外光での動作において一般的である。ゆるやかな劣化は、過度の熱の発生により、重大な損傷につながる可能性があることに注意が必要である。
  • 吸湿性のある結晶は、十分に乾燥した (ドライパージガス) ところで保管しないと劣化する。これは、KDPやBBOそしてかろうじてLBO等にあてはまる。結晶を乾燥状態にできる、多少の高温下でそのような結晶を管理するとよい。
  • (位相整合を実現するために) 室温よりも低い温度で非線形結晶を動作させることは、周囲の空気が乾燥していない場合、結晶表面に水が凝縮することがあるので、通常は問題が発生する。たとえ、結晶材料やコーティングが水に敏感でなくても、小さな水滴がレーザーの放射を集中させ、通常の動作時よりも強くなり、結晶を損傷させる恐れがある。
  • 結晶温度が急激に変化したり、何度も変わったりすると、結晶オーブン内でノンクリティカル位相整合している結晶に問題が起こる。特に、反射防止コーティングは、関係した材料の熱膨張係数の違いによって損傷を受ける。

結晶の寿命は、結晶の品質に大きく依存するが、ある種の劣化現象に関しては、材料固有の制限によるものである。

高出力紫外光の発生用には、非線形結晶が使える。結晶は、レーザーシステム全体の寿命内で何度も取り換える必要がある (例えば数百時間の利用ごとに) 。多くの場合、紫外光発生において、いくつかの問題がある。結晶材料は、通常、紫外光 (高い光子エネルギーを持つ) により敏感であり、その領域において、高い吸収性を有する。そして、超短パルスの場合には、群速度の不整合が大きいため、より小さな結晶を使わざるを得なくなり、同じ変換効率を実現するためには、高い光強度が必要になる。

とても薄い非線形結晶

1 mm以下の薄さの非線形結晶が好まれる用途もある。これは、群速度の不整合を最小限に抑えるために必要であり、例えば、極端に短いパルス用の光自己相関器に用いられる。

極薄の結晶を作製するもっとも基本的な方法は、先ず、ある種の基板 (例、石英ガラス) と厚い結晶を光学的に接触させ、例えば20 μmのような希望する厚さまで結晶を磨く。非線形相互作用は、薄い結晶内のみで起こるため、厚い基板材料での群速度の不整合は問題にならない。基板は、薄い非線形結晶を機械的に安定させるためだけにある。

わずか100 μm、時に30 μm以下の独立した結晶を作製することも可能である。

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参考
https://www.rp-photonics.com/nonlinear_crystal_materials.html