現在のところ臨床使用されているのは

EGFRに対する抗体を用いた薬剤のみであるが、光免疫療法は、がん細胞に高発現している様々な膜タンパク質を標的とすることが可能であり、それぞれの膜タンパク質に対する抗体にIR700を結合することで、新たな光免疫療法用の薬剤を開発することができる。これまで、EGFRおよびHER2だけでなく、PSMA, CEA, GPC3, mesothelin, CD25, CD20, PD-L1, CD44, CD133, MUC1といった膜タンパク質を標的とするIR700-抗体複合体を用いた光免疫療法の有効性が動物実験において明らかとなっている。将来的にこれらのIR700-抗体複合体を臨床応用すれば、多種のがんに対して光免疫療法を実施することが可能になり、がん治療に大きく貢献すると期待される。

以下に主ながんに対してどのような分子が標的となりうるかを、これまでの基礎検討の結果も踏まえて紹介する。

主ながんに対してどのような分子が標的となりうるか

頭頸部がん:頭頸部扁平上皮がんの90%に発現するEGFRが標的となる。EGFRの他に、がん幹細胞マーカーCD44を標的とした光免疫療法も良好な結果を示している。

食道がん:食道扁平上皮がんの71-91%、食道腺がんの32-64%にEGFRが発現していることから、EGFRを標的とすることができる。また食道扁平上皮がんの64%、食道腺がんの32%にHER2が発現していることから、HER2を標的とした光免疫療法も有効であると考えられる。

肺がん:非小細胞性肺がんの40-80%に発現するEGFRを標的とすることができる。また、多くのがん細胞で過剰に発現している免疫チェックポイントタンパク質PD-L1を標的とするアベルマブ-IR700が非小細胞性肺がんに対して有効な結果を示している。また手術適応外となる非小細胞性肺がんの胸膜播種に対してはHER2を標的とした光免疫療法が有用である可能性が示されている。一方、小細胞性肺がんに対しては、高発現しているdelta-like protein 3(DLL3)を標的とするロバルピツズマブ-IR700が有効な結果を示している。

乳がん:HER2陽性の乳がんに対してはHER2を標的とするトランスツズマブ-IR700が有効な結果を示している。一方、標準治療法が確立されていないトリプルネガティブタイプの乳がんでは、50-89%においてEGFRの発現することが報告されており、EGFRを標的とした光免疫療法が良好な結果を示している。

胃がん:胃がんの22%に発現しているHER2を標的とするトランスツズマブ-IR700が有効な結果を示しており、5-FUとの併用により抗腫瘍効果が増強されることも報告されている。またトランスツズマブとは異なるHER2のエピトープを認識するペルツズマブも光免疫療法に用いることが可能であり、かつトランスツズマブ-IR700と併用することによる相乗効果も得られている。胃がんの41.8-57.7%に発現しているEGFRを標的とすることもできる。

大腸がん:細胞接着に関与する糖タンパク質であるCEAを標的とする光免疫療法が有効な結果を示している。大腸がんの95%以上に発現している糖タンパク質A33抗原(GPA33)を標的とする光免疫療法も有効な結果を示している。また大腸がん患者の43.9-97%にEGFRの過剰発現が認められていることから、EGFRを標的とすることもできる。

肝がん:肝細胞がんに過剰発現している膜結合型ヘパラン硫酸プロテオグリカンであるGPC3を標的とする光免疫療法が有効な結果を示している。一方、胆管がんにおいては、過剰発現している糖タンパク質TROP2を標的とする光免疫療法が有効な結果を示している。

膵がん:膵がんに過剰に発現しているCEA、カドヘリン-17(CDH17)、TROP2などを標的とする光免疫療法が有効な結果を示している。また膵がん患者の62-69%にEGFRの過剰発現が認められることから、EGFRを標的とすることもできる。

卵巣がん:HER2を標的とする光免疫療法が有効な結果を示しており、卵巣がんの再発に多い腹膜播種モデルにおいても良好な結果を示している。また卵巣がんに過剰発現しているβ-d-ガラクトース受容体に結合するGSAを標的リガントとして用いた光免疫療法も細胞実験および腹膜播種マウスモデルを用いた検討で有効な結果を示している。

膀胱がん:膀胱がんに発現しているEGFR(72.2%)およびHER2(44.5%)を標的とする光免疫療法が有効な結果を示している。またマクロファージ免疫チェックポイント分子であるCD47を標的とする光免疫療法も有効な結果を示している。

前立腺がん:前立腺がん細胞において過剰発現している前立腺特異的膜抗原PSMAを標的とする光免疫療法が有効な結果を示している。

一方で、上述とは異なるアプローチとして

血中循環腫瘍細胞(CTC)に対する光免疫療法が挙げられる。腫瘍が転移するメカニズムの一つと考えられているCTCは、腫瘍微小環境の形成が可能な場所に生着するまで血管内を循環している。CTCには特徴的な細胞表面マーカーが存在することが知られており、これらのマーカーに対する抗体を用いれば、光免疫療法による治療が可能である。また将来的には、近年急速な発展を遂げているウェアラブル端末などの技術を応用し、ブレスレットやネックレスなどを用いて、手首や首などの表面に近い血管に対して継続的に近赤外光を照射することで、CTCを定期的に減少させ、生存期間の延長や転移リスクを低減することも可能になるのではないかと考えられる。同様に機器の開発はこの治療を進化させる可能性がある。ステントなどの留置デバイスにワイヤレスLEDを埋め込むことによって、深部のがんに関しては持続的に適善量の光を腫瘍内から照射することができる。胆管がんや膵がんの治療に利用すると新たな治療を展開することができるであろう。

参考文献:
Wakiyama H, Kato T, Furusawa A, Chyke PL, Kobayashi H. Near infrared photoimmunotherapy of cancer; possible clinical applications. Nanophotonics 2021 (in press)


関西医科大学
附属光免疫医学研究所
花岡宏史研究所教授 執筆
株式会社光響 編集

光免疫療法関連製品ラインナップ

スクリーンショット 2016-02-10 12.00.50

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LaseViewLHBシリーズカタログ
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ご参考:
(株)光響が提供する製品情報:
ビームプロファイラ(日本語Webサイト)
Beam profiler(English Web site)