第7章 最先端加工

9. 光導波路

著者:西井 準治

1. はじめに

 近年、レーザー光を走査することで光導波路を直接描画するプロセスが注目されている。光導波路の作製プロセスの常道である従来からのリソグラフィーやドライエッチングと比較して、非常に簡便である。これまでに、エキシマレーザーやフェムト秒レーザーなどを用いていくつかのチャネル導波路およびその関連素子が報告されてきた。そもそもこのような手法が注目を浴びるきっかけになったのは、1979年にカナダのCommunication Research Center(CRC)によるファイバー回折格子の発見であった1)。後の研究で、ファイバーのコアに添加されたGeO2が光誘起屈折率変化に重要な役割を果たしていることが明らかになった。それ以降、レーザー光の照射によって屈折率が変化することを利用して、ガラス材料に導波路や回折格子を書き込む研究が活発に行われた。1990年代になってから、材料の性質とはほとんど無関係に、透明材料の内部に屈折率変化領域を形成できる光源としてフェムト秒レーザーが注目されるようになった。最近では企業での導波路作製への応用研究例も報告されるようになった。本節では、導波路に関連する最近のレーザープロセス技術について紹介する。

2. エキシマレーザー照射による導波路形成

2.1 レーザー誘起屈折率変化の原理

 ガラスの光誘起屈折率変化の原因は、着色中心の生成と構造緩和による密度上昇の2つに大別される。例えばSiO2ガラスに高エネルギーのArFエキシマレーザー光を照射すると、レーザーの波長帯に吸収が無くても、多光子励起によって結合が切断されて構造欠陥が生成する2)。SiO2の価電子帯の最上部は酸素の非共有電子対のレベルから構成されているので、正孔はこのレベルにトラップされる場合が多い。非共有電子対は結合には直接関係していないので、正孔をトラップしてもエネルギー的には大きな損失にはならない。このため、正孔捕獲中心は熱的に安定である。これとは対照的に電子を捕獲するには反結合軌道を占有する必要があるが、SiO2の伝導帯の最下部はシリコンの3s軌道で、その半結合性軌道に電子が捕獲された例はない。正孔捕獲中心は紫外から可視にかけてブロードな吸収をもたらし、このような欠陥が一旦できると一光子によるレーザー光の吸収でガラスが加熱され、構造の緻密化による密度上昇が生じる。しかしながら、純粋なSiO2ガラスはニ光子吸収係数が小さく、例えばパルス幅がナノ秒のレーザー光の照射では光導波路や回折格子を形成するほどの大きな屈折率上昇には至らず、熱応力が原因のクラックの発生が見られるに過ぎない。
 一方、SiO2に微量のGeO2を添加すると全く異なった現象が起こる3)。このガラスの伝導帯の最下部はGeの4s軌道であるが、d軌道が近いレベルにあるため、電子の捕獲が可能になり、Ge電子捕獲中心が二光子吸収によって生成し、紫外域に非常に強い吸収が生じる。この際の光励起プロセスのモデルを図1に示す。GeO2は、SiO2よりも熱力学的に不安定で、Geの周囲に酸素欠陥ができやすい。酸素欠陥は248nmを中心とする紫外域に強い吸収をもたらすので、一光子吸収によってガラスが加熱され、熱的構造緩和、すなわち緻密化も誘起される。さらに、最近のシミュレーション結果によれば、近傍の4配位Geと引きつけ合って疑似3配位の構造になると同時に、高密度化することで屈折率が上昇すると報告されている4)。着色と緻密化の二つの効果によって誘起される屈折率上昇は、通常10-5)〜10-4)程度であり、屈折率変調型の回折格子を形成することが可能になる。光通信分野で実用レベルの回折効率を得るためには10-3)程度の屈折率変化を誘起する必要があるため、GeO2-SiO2ガラスに高圧下で水素分子を混入させ、レーザー照射と同時にGeを光還元することで酸素欠陥量を選択的に増やし、屈折率上昇を加速する方法がとられている5)

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