第7章 最先端加工

10. フォトニック結晶

著者:三澤 弘明

1. はじめに

 波長程度の周期で屈折率が周期的に変調した人工光学材料である「フォトニック結晶」の概念は、1980年代の後半に提唱された1、2)。フォトニック結晶は自然放出の制御、光の局在化など従来の材料には見られない特異な性質を示すことから、基礎科学に加えて応用面でも強い興味がもたれ、現在活発に研究が進められている。
 フォトニック結晶およびその応用全般に関しては、様々な書籍3〜5)、総説・解説6〜10)などに詳述されている。本節では、次項でフォトニック結晶の応用についてごく簡単に述べ、その後の項ではレーザープロセスによる透明材料フォトニック結晶の作製と光学特性についての研究を紹介する。

2. フォトニック結晶、およびそれを用いたフォトニックデバイス

 フォトニック結晶の示す性質でもっとも重要なのは、ある波長領域の光の伝播を禁止することである。そのような波長領域をストップバンドと呼び、特にあらゆる方向・偏光で禁止する波長領域を狭い意味でフォトニックバンドギャップ(PBG)と呼ぶ(広義には前者をフォトニックバンドと呼ぶ場合もある)。この性質を活かした光導波路は、フォトニック結晶の応用としてもっとも直感的でわかりやすいものである。2次元あるいは3次元フォトニック結晶中に線欠陥を導入することにより、欠陥に沿って光を導波させることができる。これを用いると、光ファイバーなどでは不可能な急峻な曲げを実現できることから、光集積素子の小型化に貢献するものと考えられ、多くの研究がなされている。フォトニック結晶導波路の研究は既存の半導体加工技術が適用しやすい2次元系11、12)が中心だが、新しい加工技術の導入により3次元結晶についても研究が行われている13)
 実際の応用面では、現時点でフォトニック結晶ファイバーがもっとも進んでいると言える。これは、光ファイバーのクラッド部に周期構造を持たせたもので、コアは用途によって空気(空洞)のものとガラスのものとがある。波長分散特性、非線形性、偏光伝播特性などを制御することができ、それらを活かして広帯域白色光の発生などさまざまな応用が考えられ、一部は実用化され始めている。また、コアが空洞のフォトニック結晶ファイバーは超低損失の光伝送を実現する可能性があるのが大きな魅力であり、製造技術の向上が図られている。
 フォトニック結晶の顕著な偏光特性を活かした偏光素子も、有力な応用の一つである。特に、東北大学のグループによって開発・発展された自己クローニング法とよばれる技術を核にした偏光分離素子は、ベンチャー企業が設立され、いくつかの製品もすでに販売されている。
 この他共振器構造を必要としない小型・低しきい値レーザーや、フォトニック結晶の特異な群速度分散によって生じる現象を利用したスーパープリズムなど、幅広い領域の応用が考えられている。

3. 集光フェムト秒レーザー加工によるフォトニック結晶の作製

 前項で述べた半導体加工技術を基礎とした3次元フォトニック結晶作製においては、ナノメーターオーダーの位置決めなどの多くの複雑な工程が必要であり、現状ではその生産性は低いと言わざるを得ない。本項においては3次元加工技術として利用されている集光フェムト秒レーザーによるフォトニック結晶作製技術について述べる。
 集光したフェムト秒パルスレーザーを光硬化性樹脂や、各種ネガ型レジスト材料に照射すると、焦点付近にのみ光重合反応が誘起されて固化物が形成する。樹脂やレジスト材料をセットしたステージや、照射ビームを3次元的に走査して光重合反応を任意の空間に誘起することにより、立体的な微細構造物を形成することが可能になる。この優れた3次元光造形法はフォトニック結晶の作製にも応用できる。
 このようなマイクロ光造形に用いられる代表的な光学系の模式図を図1に示す。強度を調節したレーザーパルスを顕微鏡に導入し、対物レンズで集光して3次元ステージ上に試料を設置する。ステージとシャッターをパソコンで制御することにより、デザインした任意の構造を作製することができる。作製の様子はCCDカメラを用いてその場観察することも可能である。小さな焦点を得るために、対物レンは開口数が大きな油浸対物レンズを使用する場合が多い。

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