第7章 最先端加工

1. 超短パルス

著者:松尾 繁樹

1. はじめに

 レーザーが開発された当初から、パルス幅(パルスの時間的な長さ)の短いレーザーの開発は大きな課題の1っであった。Qスイッチやモード同期などさまざまな手法による短パルス化が研究され、1986年には6フェムト秒という超短パルスの発生が報告された1)。このような超短パルスの代表的な用途として超高速分光がある。Ahmed H.Zewail博士に贈られた1999年のノーベル化学賞(受賞理由:フェムト秒分光学による化学反応の遷移状態の研究)は、超高速分光が現代の科学において確固たる地位を占めていることを象徴するものといえるだろう。
 超短パルスは、分光だけでなく、加工にも応用されている。レーザー加工の特性は、波長や強度だけでなく、レーザーが連続光かパルス光か、パルス光の場合にはそのパルス幅によっても変わる。超短パルスレーザーを用いる加工は、後に示すように高いポテンシャルを持っており、連続発振レーザーやナノ秒パルスレーザーを用いる従来のレーザー加工では不可能な加工、さらには従来のレーザー加工を含むあらゆる加工技術で不可能な加工を実現する可能性があることから、近年活発に研究されている。「超短パルス」の具体的な値は時代や分野によって異なるが、この十年程度はパルス幅が数フェムト〜数百フェムト秒程度のフェムト秒レーザーが急速に発達・普及し、加工への応用が精力的に研究されている。そのため、本節では基本的に「フェムト秒レーザー加工」と表記する。フェムト秒パルスとナノ秒パルスの違いを図1に模式的に示す。なお、時間領域に厳密な区分があるわけではなく、加工の内容によっては、数ピコから数十ピコ秒のパルスでもフェムト秒パルスと同様の優れた特性を持つこともある。
 フェムト秒レーザーパルスによるレーザー加工に関しては、1980年代にすでに報告がある2)。しかし、この分野の研究が活発になったのは、1990年代後半以降である。これには、従来のフェムト秒レーザーに比べて極めて安定に発振する、Ti:Sapphireを媒質とするフェムト秒レーザーの開発が進み、レーザーの専門家だけでなく多くの研究者が容易にフェムト秒レーザーを扱えるようになったことが大きく寄与している。本節では、フェムト秒レーザー加工の概要を説明する。
 フェムト秒レーザー加工は広い内容を含むため、本節の内容には筆者の興味等による偏りもあると思われる。また、フェムト秒レーザー加工というのは、作製するものや手法によらず用いる光源だけに注目した分類方法であるため、本書の他の部分と重複する内容もある。併せてご了承されたい。


無料ユーザー登録

続きを読むにはユーザー登録が必要です。
登録することで3000以上ある記事全てを無料でご覧頂けます。
SNS(Facebook, Google+)アカウントが持っているお客様は、右のサイドバーですぐにログインできます。 あるいは、既に登録されている方はユーザー名とパスワードを入力してログインしてください。
*メールアドレスの間違いが増えています。正しいメールアドレスでないとご登録が完了しないのでお気を付けください。

既存ユーザのログイン
   
新規ユーザー登録
*必須項目