42・5・1 タンパク質機能の時空間的解析

ポストシーケンス時代を迎えた今日,網羅的なタンパク質機能解析(functional genomics/proteome)が精力的に始められている.タンパク質の機能には,酵素反応やリガンド-受容体結合などの「生化学的機能」と,発生・老化や脳機能などの「生物学的機能」の二つの側面がある.前者は「相互作用プロテオミクス的解析」と「発現プロテオミクス的解析」によって近未来的に多くが明らかにされるであろう.他方,後者の高次の生命現象を担うタンパク質機能の解析では,特定分子の欠損あるいは不活性化させる技術が最も有効な研究手段であると考えられるが,タンパク質の生物学的機能解析において重要なことは,(1)生細胞や生体で解析すること,(2)タンパク質の生体内ダイナミクスを時系列的に解析すること,(3)生理現象との関連性を空間的に解析すること,である.すなわち,分子機能が実際に発揮される時間と場所で解析を行うことが非常に重要で,時空間的分解能を有するタンパク質機能阻害技術が必須となる.

レーザー分子不活性化法(chromophore-assisted laser inactivation:CALI)法は特定分子の時空間的な不活性化を実現させ得る研究方法として近年登場し,細胞や生体の局所領域や特定の時間軸上での分子機能解析に功を奏するアプローチを提供している.

42・5・2 原理と生体適用

1988年,ハーバード大学分子細胞生物学研究所(現・タフツ大学医学部生理学教室)のJayはCALI法の原理と実験成果を初めて発表した40).CALI法とは,マラカイトグリーン色素(MG色素)を化学的に標識した抗体(またはリガンド)が目的の標的分子と特異的に結合した状態でレーザー光照射(中心波長:620 nm)を受けるとレーザー光のエネルギーによってMG色素の発色団が励起されてラジカルが発生し,そのラジカルによって標的分子の構造変化を誘起して結果的に標的分子の機能を不活性化するというものである(図42・9).

図42・9

レーザー照射範囲(レーザースポット)の大きさは,用いるレーザー光発振機の種類によって限定され,現在,顕微鏡下おける直径数μm程度のレーザースポット内の標的分子をターゲティングするmicroscale-CALI(micro-CALI)法と,直径数ミリ程度の広範囲のスポット内の標的分子をターゲティングするlargescale-CALI(Macro-またはMega-CALI)法がある.標的分子の特定化に小さなリガンド分子を用い,リガンドの受容体を選択的に機能阻害するsmall molecule-CALI(sm-CALI)法もある41)

最近,MG色素の代わりにFITC蛍光色素(fluorescein isothiocyanate)の色素団から産生する活性酸素を利用したFITC-CALI法(FALI法)42)43)や緑色蛍光タンパク質green fluorescence protein(GFP)を用いて融合タンパク質の機能阻害を誘起するGFP-CALI法44),特有の塩基配列に特異的に吸着する蛍光剤FlAsHを用いてその塩基配列に融合したタンパク質のみならずmRNA光照射で不活性するfluorophore-assisted light inactivation(FlAsH-FALI法)45),また標的をタンパク質のみならずmRNAに据えておこなうRNA-CALI法46)など,CALI法の原理に基づく新たな応用技術が次々と報告され,この研究方法の新しい展開や広汎用性に多くの期待が集まっている.

42・5・3 実験装置と実験手順

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