生物を対象とした研究は「見ることの技術」と切っても切り離せない.光やX線,電子線などを利用した顕微鏡を使って細胞や組織の構造,分子の原子構造を見てきた.とりわけ光を使った計測では試料に傷害を与えることが少なく,生きた状態を保ちながらの計測ができる.近年,レーザーを利用した顕微鏡で蛍光色素1分子が可視化され,タンパク質など生体分子1分子の挙動を生きたまま追跡することが可能になった19).従来の計測では1分子を対象に計測するには信号が微弱すぎ,多分子で積算した信号を計測していた.その平均化操作の中に個々の分子の動的な変化など多くの情報が失われていた.しかし,生物機能は平均化操作の中に隠れてしまった動的な量などにその理解の鍵が含まれている.ゲノム解析によりタンパク質の設計図が明らかにされたいま,機能とそのメカニズムを理解するための新しい手段である.

41・2・1 1分子可視化技術

1分子計測は,「見たい分子を見る技術」である.その機能を損なわないように蛍光色素で標識し,蛍光を顕微鏡で観察する.見たい分子を見るためには,それ以外の分子を見えないようにしなければならない.二つのポイントがある.第一のポイントは蛍光測定である.蛍光測定は励起波長と違う波長で観測するので光散乱,ラマン散乱などの効果を排除し,標識化した分子種だけを見ることのできる技術である.また蛍光色素によって励起波長と蛍光波長を選択することができ,異なった分子ごとにフィルタなどで波長を選択し,分子をふるい分けながら観察することができる.第二のポイントは,見たい分子だけを励起する顕微鏡技術である,1分子の蛍光色素からの蛍光は非常に微弱ではあるが,背景光を小さく抑えれば見える.背景光を小さくするために見たい分子だけ照射し,見たくない分子は照射しない.レーザー光を利用した共焦点顕微鏡,近接場顕微鏡は光の波長より短いごく限られた領域だけ照射し,そこに存在する分子だけを励起する技術である(図41・3).共焦点顕微鏡では点光源と点検出器が,ともに試料内の点に対し結像関係にある.走査することにより,3次元の像を得ることができる.

図41・3

一方,近接場走査顕微鏡では,点光源,あるいは点検出器を試料に近く波長よりも短い範囲に近づける.このとき波長より短い微小開口を使ってエバネッセント場と呼ばれる局所場を生じさせる.このような走査型顕微鏡にくらべ,高屈折率の誘電体から低屈折率への全反射を利用したエバネッセント場や20).表面プラズモン共鳴を利用した局所場21)では,表面に沿った局所場を発生することができ,走査することなく2次元のイメージングが可能である(図41・4).

図41・4

全反射型顕微鏡では,プリズム型20),対物レンズ型22)があるが,どちらもガラスと試料の水溶液の表面で臨界角より大きな角度でレーザー光を入射させ全反射したときに,溶液中の表面に100~200 nmの深さの範囲で減衰するエバネッセント場を生成する.これによって表面近くにいる分子は励起され,蛍光を発し,輝点として観察される.しかも平面上の蛍光イメージを実時間で観察することができるので,そのうえで互いの分子の位置関係や分子の動きなども追跡することができる.

41・2・2 生体分子1分子を見てタンパク質の機能を測る

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