レーザー治療器用光ファイバとして最も広く用いられているのは,石英(SiO2)ガラスファイバである.しかし,その低損失帯はおおよそ300 nm~2 μmの範囲に限られ,このファイバで実用的な伝送が可能であるのは,短波長側が308 nm XeClエキシマレーザーまで,また長波長側が2.1 μm Ho:YAGレーザーまでである.より長波長の赤外域には,2.94 μm Er:YAGレーザーや10.6 μm CO2レーザーなど重要な治療用レーザーが存在することから,これら出力光のフレキシブルな伝送を目的に,これまでさまざまな非石英系ファイバの開発が進められてきた.しかし,非石英系のガラスや結晶をコア材料とする中実ファイバ(solid fiber)で実用化しているものは種類が限られ,伝送パワー容量や機械的強度は,なお石英ファイバに及ばないものが多い.

これに対して最近,中空ファイバ(hollow fiber)の高性能化が進み,CO2レーザーやEr:YAGレーザーの伝送路として実用化されてきた.しかし現状では,高ピークパワーのパルスレーザー光や波長の短い紫外(<300 nm)のレーザー光など,中堅型・中空型いずれのファイバでも伝送の困難なレーザーもあり,これらの伝送には,多関節型ミラー伝送路39)が用いられている.

表39・3に代表的なレーザー治療器と主として使用されている伝送路をまとめた.

表39・3

本節ではまず,光ファイバの損失要因につき一般的な説明をおこない,次に各種伝送路の特性や実際の応用例について紹介する.

39・3・1 光ファイバの損失要因

光ファイバの損失は,内的要因によるもの(固有損失),不純物や構造的欠陥などの不完全性によるもの,屈曲や接続などの外的要因によるものに分けられる.このうち固有損失がファイバ損失の理論限界を与え,これは,i)屈折率の微小なゆらぎによるレイリー散乱,ii)紫外電子選移吸収(基礎吸収),i)赤外分子振動(多音子吸収)の三つに起因する.いま,この図有損失をαとすると,その波長依存性は次式で表される.

式39・1

ここで,A,B1,B2,C1,C2は正の定数,λが波長で,第1項がレイリー散乱,第2項が電子選移吸収,第3項が多音子吸収を表す.これより,第1項と第2項は波長が短くなるのに従って増大し,第3項は波長が長くなるのに従って増大することがわかる.

ファイバの損失はこれらの重ね合せとして,図39・10に示すようにV字形のスペクトルを示し,理論上の最低損失αminとそれを与える波長λminおよび透過波長域は,上記三つの固有損失曲線の勾配と位置関係により決まる,λminが1 μm付近にある石英ガラスファイバは,光通信用として熾烈ともいえる開発競争が繰り広げられ,その伝送損失は1979年に0.2 dB/km,2002年には0.15 dB/kmを切り40),理論限界に達している.この石英ファイバが,レーザーパワー伝送路としても広く用いられているのは先に述べたとおりである.より長波長の赤外域で低損失のファイバを得るためには,多音子吸収が長波長帯にある材料を選ぶ必要がある.一般的には,重い元素の化合物で弱い結合力を持った材料がこの条件を満たし,各種の重金属酸化物ガラスファイバ,非酸化物ガラスファイバ,結晶ファイバなどの開発が進められてきた.

図39・10

39・3・2 石英系ガラスファイバ

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