39・1・1 治療に必要な生体組織物性

[1] 光吸収・散乱特性

生休組織は光の吸収が大きく,最も吸収が小さい700 nmから1200 nmの波長域でも吸収係数が数十cm-1程度ある.表39・11)に主要な各器官での組織組成の概略を示した.骨以外では水は最も多く含まれていて,その吸収スペクトルが生体組織の吸収を支配している.特に赤外領域ではその影響が顕著である.図39・1に水の吸収スペクトル2)を示す.OH基の吸収のある3 μm帯では吸収係数が8000 cm-1以上ある.血液の休績の約45%を占める赤血球の約30重量%がへムタンパクであるヘモグロビンである.ヘモグロビンは水の吸収の少ない可視領域に大きい吸収を示す.図39・2にヘモグロビンの吸収スペクトルを示す3).組織により含血量は大きく異なり,ヘモグロビン吸収の変化も大きい.このほかのタンパク質として,エラスチンとコラーゲンがある.タンパク質には,赤外領域の6.05 μmと6.5 μmにアミドI,アミドII帯の大きい吸収がある.また,紫外では構成アミノ般のうち芳香族アミノ酸の吸収(トリプトファン,チロシン,フェニルアラニンなど)が大きい.このほかに吸収を特徴づけるものとして,メラニン,カロチンなどの生体色素がある.可視を中心にブロードな吸収を持つメラニンはほくろ,あざなどに集積し,皮膚含有量は人種によって大差がある.カロチンは脂肪組織,動脈硬化などに多く,450 nmに吸収極大を持つ.骨や歯はリン酸カルシウムが多く10 μm帯に特徴的な吸収がある.そのほかは含まれている水の吸収スペクトルと似た形になる.

表39・1

図39・1

図39・2

生体組織の散乱係数は近赤外から可視領域でおおむね2~20 cm-1であるが,生体吸収がこれと同程度,あるいは小さくなるのは近赤外領域に限られる.これ以外の波長城では生体吸収のほうが1桁以上大きい.治療では一般に影響領域を限局する目的で吸収の大きい波長を積極的に選ぶので,光の散乱を考慮しなくてよい場合が多い.これら生体光特性に関しては,まとまった解説論文がある4)5)

病変部,健常部で大きい吸収の変化があるのは,ほくろ・あぎにおけるメラニンの吸収,血管網の集まった赤あざ(血腫)におけるヘモグロビンの吸収,動脈硬化におけるカロチンの可視吸収およびコレステロールエステルの赤外吸収など,特定のものに限られており,病変部分の吸収が有意に大きいという事例は少ない.そこで,選択的治療を積極的に進めるために,病変部を用手的に染色する,あるいは組織集積性のある色素を用いる,などの手段によって,病変部吸収を大きくする.

[2] 機械的特性6)

生体組織は破断応力が低く,最も強靭な皮膚で10 N/mm2,筋肉(心筋)では0.04 N/mm2となっている.このため,音波の膨張波が組織内を伝織すると容易にキャビテーションを生じ,組織が断裂する.一方,圧縮波に対する損傷しきい値は高い.相応の非線形性があるので,強力な音響波の伝搬では衝撃波が発生する.また生体内部は音響インピーダンス境界面が多く存在し,反射で発生した膨張波による傷害が深部に発生することがある.

[3] 熱的特性

生体の軟組織の主な構成成分は水なので,熱伝導率,比熱などはおおむね水で近似することができるが,タンパク質の熱変性が生じる50°C付近では,熱物性の大幅な不可逆的変化(特に比熱)が観測される.また,100°Cでは水の沸騰が生じるので,生体組織における熱伝導の計算はこれらの現象を考慮する必要がある.

39・1・2 光治療作用の基礎

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