37・2・1 アブレーションのメカニズム

レーザーアブレーションの過程は,レーザー光の吸収と熱化過程,およびその後のプラズマによるレーザー光の吸収と熱流体的過程に大別できる.ここでは,前者を中心にレーザーパルス幅と波長のアブレーションメカニズムへの影響について述べる.

(1) レーザーパルス幅の影響

金属の場合,レーザー光のエネルギーはまず光電界により自由電子の運動エネルギーに変換され,電子と原子格子系との衝突を通じて熱化する.半導体や誘電体でも励起により多量の伝導電子が生成されれば,金属と同様のふるまいを示す.電子系のエネルギー緩和時間は,1ピコ秒程度の時間スケールがある.したがって,パルス幅が1ピコ秒以下のフェムト秒レーザーを用いると,電子系のみが高温になった非平衡状態を経て,レーザーパルスが終了したあとで格子系の温度が上昇し,団体構成粒子の放出が起こる.

一方,レーザー光のパルス幅が1ピコ秒程度の電子エネルギー緩和時間より十分長いと,電子系に注入されたレーザー光のエネルギーは準定常的に格子系を加熱すると考えてよい.また,レーザー照射中にプラズマが形成されるので,レーザー光とプラズマとの相互作用,プラズマからの熱エネルギー輸送が重要になる.

粒子放出は熱化後に起こるとすれば,アブレーション領域は物質の熱伝導特性で評価できる.1次元の熱伝導を仮定すれは,熱拡散長は式102ページで与えられる.Dは熱拡散係数,tpは加熱時間である.金属の場合,tpを10 nsとすると熱拡散長は1 μm程度,100 fsとすると10 nm程度になり,フェムト秒レーザーを用いると実質的には熱拡散の影響のない微細な加工が可能になる.すなわち,フェムト秒レーザーアブレーションでは,熱伝導によらずアブレーション領域をレーザー光で直接制御できる.

図37・2に,厚さ200 nm程度の金の薄膜を,パルス幅が異なる3種のレーザーで蒸散させた場合の加工例を示す.パルス幅が150 fsの場合,加工端は直線的で熱の影響はほとんど見られないが,パルス幅が10 nsの場合,加工穴周辺には若干の溶融痕が見られる.パルス幅が数百μsの場合は,加工穴周辺は溶融により大きく変化する.

図37・2

(2) レーザー波長の効果

波長λでの物質のl吸収係数をα(λ)とすると,レーザー光が吸収される特徴的長さは1/αとなる.このため,照射フルエンスF0に対して,しきい値フルエンスをFth とすると,アブレーションによりはく離される深さdは概略,

式37・1

に比例する.金属や半導体では熱拡散の影響が大きいが,セラミックスや有機物では式(37・1)の特性が比較的成り立つ.吸収係数が大きいほどパルス当りの加工深さは浅くなり,より精密な加工ができる.多くの物質では紫外域で吸収が強いため,短波長のレーザーを使うほうがより微細な加工が可能になる.このため,アブレーション用のレーザーとしては,紫外域で発振するQスイッチNd:YAGレーザーの高調波やエキシマレーザーがよく用いられる.

波長の持つもう一つの効果は,光子エネルギーである.紫外域より短波長のレーザー光は,光化学反応により結合を直接切断できる可能性がある.光化学反応を使った加工は,熱加工より微細な加工が可能である.

(3) 多光子プロセス

レーザー光の強度が強くなると,通常は吸収のない波長であっても,同時に2個以上の光子が吸収される多光子吸収が起こる.n光子過程が起こる確率は光強度のn乗に比例するため,多光子吸収を効率良く起こすには,フェムト秒レーザーのような高ピークパワーのレーザーが最適である.多光子吸収を利用すると,図37・3(a)のように吸収のない透明物質の内部の加工や,図(b)のように強度の強いビーム中心部が選択的に加工され回折限界を超える微細加工が可能になる.フェムト秒レーザーを用いると金属の場合でも熱拡散を無視できるので,多光子吸収を利用して回折限界以下の加工ができる.

図37・3

37・2・2 放出粒子のダイナミクス

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