レーザーを使って化学反応の制御や試料の化学分析や観察・評価をおこなう場合,i)単色性(短波長性,波長選択性),ii)高指向性,iii)高強度性等のレーザーが有する特徴を利用することで,従来法を越える優れた手法として応用することができる(表36・2).特に,特定部位の位置選択的な反応制御や分析などをおこないたいときには,レーザーを活用することが効果的である.さらに,パルスレーザー装置では上記の特徴に加えて時間制御性も向上する.したがって,レーザーによって「空間」と「時間」の両制御因子を精密に取り扱うことが可能になり,微小領域における材料制御技術をマイクロメートル~ナノメートルサイズでおこなうことができるようになってきた.これは,現在最先端の高密度集積回路がレーザー縮小マスク露光技術によって製造されていることからも理解される.レーザーを用いた製造技術が高度情報社会を支える鍵技術であることは明らかである.また,レーザー照射は非接触状態で対象箇所にエネルギー注入が可能で,温度やガス雰囲気などの照射環境因子を自由に選ぶことができるのも特徴である.
しかし,レーザープロセスはほかの製造技術と比較すると,装置やシステムが複雑・高価になるためにしばしばコスト高を誘引することになる.したがって,レーザーを実用的な生産・分析手段として用いる場合には市場価値に見合う経済性の確保は重要な課題である.安価な大量生産品に用いるよりは,高付加価値化が期待される特定部位への局所場反応、や最適波長照射による基質選択的反応,ナノ秒からフェムト秒にわたる極短時間領域での反応制御がレーザー化学反応の特徴を最大限に発揮することができる主たる応用分野と考えられる.表36・3にレーザープロセスの実用例を示す.おのおのの実用例はレーザーの特徴を複合的に利用しているので,最も重要と思われる特徴に分類している.また,表36・4には個々のレーザー装置がどのような用途に使用されているのかをまとめている.表36・4には現在基礎研究段階であるが,今後実用化が期待される応用例について列記している.
多くの工業製品にとって,現時点の機能や性能が向上するとともに微細化や小型化が同時に達成されれば,省スペース性,可搬性などの諸特性も向上するので,高付加価値化製品の製造に寄与することになる.レーザープロセスはこのような目的に最も適した手法であり,今後も短波長・短パルス化,全固体化したレーザー装置の開発によって微細化レーザープロセス技術が産業技術の発展に大きく貢献することになると期待される.
一方,基礎研究分野におけるレーザー利用を俯瞰したとき,レーザーが有する高品位なエネルギー特性は,新物質創製や新現象発現・解析の研究に有力なツールとなる.一例として,炭素クラスターの研究があげられる.1985年に世界で初めてC60に代表されるフラーレン類の合成が発表されたとき,その合成手法はレーザーアブレーションを利用していた179).これは,レーザーの優れたエネルギー制御性やプロセス自由度の高さが実証された好例である.この発見は世界的な反響を呼び,ナノテクノロジー研究の発展の起爆剤となった.その後,フラーレンやナノチューブの大量合成は別の安価な方法が見出されたが,未知化合物の合成や未知現象の解析には多くの困難を伴い,大半の試みは失敗に終わることが多いことを考えると,未踏分野開拓の先駆者としてレーザーが果たした役割は特筆されるものである.以下,レーザーを利用した産業界での化学応用に関していくつかの具体例を紹介する.
36・6・1 分析技術への応用
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