24・7・1 光学結晶のレーザー損傷

光学結晶の内部損傷は,主にパルスレーザーに用いる結晶によく見られる誘電破壊型の損傷,着色現象,およびCWレーザ一用結晶によく見られるフォトリフラクティブ効果などによる屈折率異常などに大別できる.前者はレーザーが照射された部分の一部が完全に破壊され,もとの結晶とは別の構造になってしまうもので,いったん損傷が起こるとアニーリングなどで回復することはない.後二者は,結晶中の原子あるいは電子軌道のわずかな変位に起因するものであり,多くは適当なアニーリングにより回復する.また,なかには,発生後速やかに常温でも緩和して元の状態に戻るものもあり,逆に積極的にその効果を利用した光学デバイスが作製されるなど,有用な光学現象として扱われることも多い.

しかし,たとえば,結晶の電気光学効果を利用するような場合は,ビームの均一性を低下させること,結晶の組成,不純物含有量によって大きく発生するしきい値が変化することなどからも損傷の一つとして扱われ,誘電破壊型の損傷と同様,これを低減するために結晶の育成条件を工夫するなど大きな努力が払われている.

以下,これらの現象とそれを低減するための技術について概説する.

24・7・2 誘電破壊型の損傷

高次高調波発生など,きわめて高いピークパワーのレーザーが通過する場所で使用される光学結晶では,通過するレーザーの電場強度が結晶の持つ絶縁破壊強度を超えてブレークダウンプラズマを引き起こす.ブレークダウンの生じたところでは,通常は透明な光学結晶の結晶構造が崩れるため一気にレーザーを吸収するようになり,局部的に高温高圧状態になる.このためブレークダウンが発生した部分の周囲にはクラックが発生する.このため,たとえブレークダウンの生じた部分の大きさがきわめて小さくても,このクラックが比較的大きな散乱体となり通過するレーザービームの均一性を著しく低下させる.このようなブレークタウンは結晶中に吸収体あるいは散乱体があると起きやすい111).したがって,いったん損傷が発生したところが,さらにレーザー照射により損傷の中心となりうるので損傷が成長していくような現象も見られる.

ISO 11254では,このブレークダウンが生じる確率がゼロとなる最大のレーザー強度を耐レーザー損傷しきい値と呼んでいる112)が,さまざまな内的・外的要因の影響を受けるため,これを絶対的な値として定量的に決めるのはむずかしい.各所で使用している条件のもと,レンズなどでビームを絞り,レーザー強度を上げて損傷の生じる強度を測定した例は多いが,使用したレーザーの時間波形,集光特性などに統一性はなく,個々を比較することはむずかしい.唯一統ーされた条件として,図24・43に示すように,縦横モードともシングルモードで発振させたパルス幅1 ns,波長1.053 μmのYLFレーザーを非球面レンズで結晶内部にスポット径30 μmに集光させた部分で損傷発生の有無を観察した一連の報告があるので,いくつかを紹介する.

図24・43

レーザー核融合用などに使用されるリン酸二水素カリ(KDP)結晶は,水溶液から育成されるが,結晶内の有機不純物を徹底的に除去することにより18~25 GW/cm2と,合成石英なみの耐レーザー損傷しきい値が達成できる113)~116).水溶液中のダストや有機不純物の除去が十分でない場合,見掛け上,特に欠陥がない結晶でもしきい値は4~5 GW/cm2に低下する.故意に微量添加される金属不純物などは,偏析して散乱体になることなく結晶格子に組み込まれる形で混入する場合は,特にそのイオンが吸収を持たなければ損傷しきい値を低下させる効果は少ないようである.

KDP結晶に代表されるように,一般に耐損傷性が著しく低下する不純物の混入を極力避けて育成した無機酸化物結晶の耐損傷しきい値は,照射条件で10~25 GW/cm2を示すものが多い117).しかし無機結晶の中には,さまざまな要因が働いて見掛け上,これの数~数十倍高い損傷しきい値を示す結晶もある,YAGレーザーの第二高調波発生(SHG)によく使用されるKTiOPO4(KTP)結晶は,レーザーの入射方向によって著しく耐損傷しきい値が変化することが報告されている118)

K6フラックスから育成したKTP結晶をSHGを発生する位相整合角であるθ=90°,φ=24°の方位から入射させた場合は約16~17 GW/cm2であるのに対し,x,y,z各軸に平行に入射した場合は,図24・44に示すように,偏光方向によってはきわめて高いレーザー強度を入射しないと損傷は生じない.これらの値はもちろん真の耐レーザー損傷しきい値ではなく,結晶内部に入射されたレーザーのビーム径が小さくなり強度が高まっていくにつれ,後方に誘導ラマン散乱が発生し入射されたエネルギーの大部分が集光される前に反射されてしまうためである119).ラマン散乱の強度はz 偏光のときに最も強く起こり,反射光の波長は1.084 μmにストークスシフトしていることが報告されている.また,後方ラマン散乱が観察された場合でも,結晶を約30 GW/cm2のレーザーが反射されずに通過してくることが明らかになっており,位相整合方向にレーザーを伝搬させたときは各軸に沿ってレーザーを入射させた場合より比較的弱い耐損傷しきい値を示すことがわかっている.

図24・44

これに対し,半有機結晶と呼ばれるアミノ酸などの水溶性有機イオンとリン酸イオン,ホウフッ酸などの無機イオンとが結合した結晶には,このような後方ラマン散乱が起こらない状況でもきわめて耐レーザー損傷しきい値が高いものが報告されている.L-アルギニンリン酸塩水和物(LAP)やLーヒスチジン四ホウフッ化水素酸塩(LHBF)などは70~80 GW/cm2という高い損傷しきい値を有し,このとき,照射されたレーザーのほぼそのまま結晶を通過しすることが報告されている120)~122).また,LAP結晶の波長1.053 μmにあるわずかな吸収を重水素置換することによってさらに低減したDLAPに至っては,100 GW/cm2を越えるしきい値が報告されている.

24・7・3 着色現象

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