光パラメトリックチャープパルス増幅(optical parametric chirp pulse amplification:OPCPA)はこれまで研究されてきた二つのトピックスである光パラメトリック増幅(optical parametric amplification:OPA)とチャープパルス増幅(chirped pulse amplification:CPA)を組み合わせた技術である.OPAは非線形媒質中での光パラメトリック過程を利用して,励起光を波長変換すると同時に種光へそのエネルギーを移し増幅する手法である.また,CPAはレーザーパルスの高ピーク出力化に伴う光学素子の損傷を防ぐために,パルス幅を広げてレーザー増幅し最後にパルス圧縮を行い,高強度パルスを達成する手法である.OPCPAは図21・27に示すように,パルス幅を広げて光パラメトリック増幅を行い,最後にパルス圧縮をして高ピークパワーのレーザーパルスを得る技術である.

図21・27

OPCPAは1992年にDubietisらによって提案された101)あと,1997年にRossらによってPWクラスの高エネルギー増幅の可能性が示唆されて注目を集めた102).Rossを中心に英国ラザフォード研が先行して実験を進めていたが103)104),2000年になって世界各国のレーザー核融合を推進する研究所で次々と研究が行われるようになってきた105)~109).特に,プリパルスの抑制効果が実験的に確認されたことが大きく貢献している.一方,小型フェムト秒ファイバーレーザーでも1998年にダメージを抑制するための技術として取り入れられている110)111)

21・5・1 OPCPAの特徴

図21・28に従来のレーザー増幅とOPCPA増幅におけるエネルギーの流れの比較を示す.従来のレーザー増幅は,励起光(あるいは何らかの形の励起エネルギー)をレーザー媒質に吸収させ,媒質のエネルギー準位を利用して入射された光へとそのエネルギーを変換した.従って,光へ変換されなかったエネルギーは熱として媒質中に蓄えられ,高出力時の熱負荷が不可避な問題となっていた.一方,OPCPAは励起光から種光(増幅される光)へと直接エネルギー変換を行うため,増幅に寄与しなかった(励起光の)エネルギーは全て光の形で放出され,増幅媒質には熱負荷がかからないという特徴を有している.従って,高ピーク出力を得るのみならず,高平均出力を得るうえでも有用な技術となる.

図21・28

また,OPAプロセスは広帯域のゲイン特性を有しているため,数fsレベルの超短パルス増幅が可能である.同時に,OPAは単位長さ当たりの利得を大きくとれるため,増幅長を短くできる.超短パルスのような高ピークパワーのレーザーを増幅する際には,媒質中での非線形効果によりパルスの位相が乱れるため,増幅長が短いことは非常に有利となる.

さらに,非線形結晶としてKDPをOPAに用いることが出来るため,大口径の増幅にも対応できる.唯一の問題点は,励起光を直接変換するため,増幅光のビーム品質がひとえに励起光のビーム品質に依存するという点である.いかに高品質の励起光を用意できるかがOPCPAの成否を左右すると言っても言い過ぎではない.特に,時間的・空間的強度分布の不均一性はゲインの不均一性として反映されるため注意を要する.しかし,励起光の空間的な位相の乱れはアイドラ光に反映されるだけで,シグナル光には影響を及ぼさないという利点がある.

OPCPAの特徴を活かすことで,新しいレーザー開発の方向性が期待される.

[1] 高平均出力TWレーザーの開発

例えば,100 fs,1 TW,1 kHz,平均出力が100 Wのレーザーである.すでに,繰り返し1 kHzのTWレーザーは実現しているが,その動作においては,熱負荷が重要な問題となり熟練した調整が必要となっている.しかし,OPCPAではレーザー媒質の熱負荷が無視できることより,これまで困難を極めた高繰り返し(すなわち,高平均出力)の100 fs-TWレーザーが実現可能と期待される.

[2] 超高強度レーザーの開発

増幅帯域の広さと利得の高さを活かすことで,パルス幅10 fs,ピーク強度10 PWの小型レーザーの実現が可能と考えられる.OPCPAは10fsパルスを増幅しうる帯域を有しており,かつ5 cm足らずの増幅長で1011倍のゲインがとれる.1 nJの種光を100 Jまで増幅する事が出来るのである.励起レーザーはある程度大きなものとならざるをえないが,これまで実現したPWレーザーとは全く異なるイメージの小型PWレーザーが実現可能となる.

[3] 高コントラストパルスの実現

プラズマ実験に代表されるようなレーザー応用においては,プリパルスをなるべく小さくしたクリーンな実験条件が求められる.レーザー集光強度が1011W/cm2に達するとプラズマを容易に生成することができるため,レーザー集光強度1020W/cm2における物質とレーザーの相互作用を調べる際には,コントラストとして1010が要求される.OPCPAは光-光変換という過程であるので,励起光が存在しない時には利得が存在しない.(従来のレーザー増幅では,励起エネルギーを蓄積するため,利得は長時間存在することとなる.)

また,励起長が短く,利得が広帯域で平坦な特性を示すことから,パルスチャープの乱れを最小限に抑えることが可能となり,高エネルギーでも高コントラストレーザーパルスの実現が可能となる.

[4] 高強度波長可変超短パルスレーザーの開発

従来,OPAは波長変換の手段として用いられてきた.CPAと組み合わせることで高強度波長可変超短パルスレーザーの実現が可能となる.これまでにも波長可変超短パルスレーザーは実用化されているが,エネルギー増幅を行うことで高電磁場での光応用研究が大きく展開できるものと期待される.特に,種光源としてフェムト秒パルス生成白色コヒーレント光源を利用すれば,同じ励起源を用いて結晶(結晶軸や温度)の調整だけで任意の波長帯域で超短パルスレーザーを増幅することが可能となる.

21・5・2 OPCPAの広帯域増幅特性

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