高品質ビームのレーザー光(M2~1)発生のための基本的な共振器は,2枚の鏡からなる安定形共振器における最低次モード,いわゆるTEM00モードを優先的・選択的に発振させる共振器である.その基本的な方法は円形開口のアパーチャを共振器内に設けることで,概して「細長い」共振器である(20・2・1,20・2・2参照).このような細長い空間内の利得だけがレーザー発振に寄与するので,利得形状の工夫も高輝度化技術の一要素である.例としてLD励起固体レーザーにおける端面励起,媒質内で光を複数回通過させるマルチパス化があげられる.

TEM00モードで発振する場合でも,レーザー媒質自体の光学的な不均一さがそのビーム品質の劣化を招く.それを補償する工夫としては非線形光学現象を利用した位相共役などで補償することが可能である(20・3参照).一方,細長い媒質の形成が困難な場合には,不安定形共振器が高輝度光を発生させる有力な手段となる.不安定形共振器は一般にミラーの外周ないし横からしみ出すように出力されるので,フラウンホーファー回折像におけるミラーのエッジの回折によるサイドロープ発生がビーム質の劣化となる.したがって不安定形共振器における高輝度化は,サイドローブの減少,メインローブへのエネルギー集中を図ることにある(20・2・3参照).

20・2・1 ハードアパーチャによる基本モードの選択発振

安定形共振器に関してFoxとLiが1961年に示した理論2)において,ガウシアン形強度分布を有する固有モード(TEM00モード)の存在が計算により示された.その計算に従う純粋なTEM00モードで発振するレーザー光をレンズなどで集光した場合,回折による有限の最小スポットに絞られる.しかし,TEM00モード以外の高次モードを含むいかなるビームよりも小さな径に集光できる.すなわち,TEM00モードの光は回折限界ビームとも呼ばれ,M2=1(既述)と定義される.通常,共振器鏡の少なくとも1枚は凹面鏡であり,その曲率半径が長くなるにつれてTEM00モードの固有モード半径が増大し,高次モードの発振が抑制される.しかし,平面-平岡構成に近い共振器では,共振器安定条件が限界に近づき,内外のひずみ要因に対して敏感となる.このような共振器では,モード選択以上にビーム品質を劣化させる課題が顕著となり,実用は困難となる.そのため安定的にTEM00モードを発振させられる共振器は細長くなる.

図20・1

その細長さを定量的に示す尺度として,次式に示すフレネル数NFがある.

式445ページi

ここでaは利得の有効開口半径,λは波長,Lは共振器長である.TEM00モードが発振するフレネル数は通常0.5~2.0程度とされる3).たとえば直径6 mmの円形断面の媒質を有するCO2レーザーの場合,その共振器長は0.42~1.70 m となる.これに対して同じ断面のNd:YAGレーザーの場合は4.3~16.9 mにもなる.

このような細長い共振器を構成してTEM00モードを選択発振させる最も簡易かつ一般的な手法は,図20・1に示すように共振器長,ミラー曲率,波長の各パラメータから定まる1/e2強度に対応する最低次固有モード(TEM00)半径に匹敵する円形開口(アパーチャ,またはアイリス,ストップ)を共振器内に設け,2次モード(TEM01)の回折損失の比を高めることである4)5).アパーチャを設けるということは,TEM00モードに対しても回折損失を高め,媒質を通過するビームの断面積は縮小して利得の利用率を低下させるので,マルチモード発振の場合より発振効率が低下する.しかし,M2値とビーム径縮小とのトレードオフにより輝度として評価すると改善が図られる.アパーチャの設置により,アパーチャなしの場合よりもTEM00モードの体積が向上する効果もある6).意図的にアパーチャを設けなくても,ガスレーザーにおけるレーザー管や,間体レーザーロッドなどのように物理的に利得断面が制限される場合も同様の効果がある.

しかしアパーチャは,上記理論計算によるTEM00モードに対する波面,強度への擾乱の原因ともなり,発振するレーザー光は厳密には純粋なTEM00モードとは言い難い7).実際の光のM2値を測定すると誤差もあって,ほとんど1.00をわずかに超えた値となる.M2値は,固体媒質の光学的不均一性などによって波面がひずんで劣化する.したがってレーザー装置のカタログなどでは,TEM00モードと表記していてもM2値としては通常1.05~1.2程度の値が示される.

TEM00モード発振に適したアパーチャ径に関する指標としては,共振器内のTEM00モードの1/e2強度のスポット径wに対するアパーチャ径aの比(truncationratio)s=a/wが用いられる8).TEM00モード選択発振にはs=l.0~l.5程度との報告9)がある.sが小さいほど高次モードが混在する確率は低下するが,小さすぎるとかえってビーム品質が悪化する10),さらに小さくなると回折損失が発振に必要な利得を上回り,発援できなくなる.

最適なアパーチャ径については,共振器構成,利得分布,アパーチャの位置11)にも依存する.したがって出力を最大にしつつTEM00モードが独占的に発振する最大の径を実験的に見出すことがおこなわれる12).また,チューブ形ガスレーザーでは,適切なアパーチャ径であっても内部の多重反射による高次モード発生が生じる場合があり,反射を防ぐ手段を設けることも有効な手段である13)

20・2・2 ソフトアパーチャ

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