狭帯域レーザーとは,コヒーレンス長が長いレーザー,すなわちスペクトル線幅が狭いレーザーを指すものとする.これに対してレーザー周波数の長期および絶対的な安定度の向上に関しては,周波数標準(19・3参照)において取り上げるものとする.長いコヒーレンス長を持つレーザーは干渉計測において必要となり, また原子・分子やイオンの高分解能分光には狭いスペクトル線幅を持つレーザーが必要とされる.このような高いコヒーレンスを持ったレーザー光源の実現方法について解説する.

19・2・1 レーザー光のコヒーレンスとスペクトル形状

まずレーザー光のコヒーレンスと周波数雑音およびスペクトル形状との関係を以下に簡単に説明する.

レーザー光の電場がE(t)=E0exp[-iω0t-iφN(t)]と与えられるものとする.ω0は中心(角)周波数,φN(t)は位相雑音を表す.このレーザー電場の自己相関関数(コヒーレンス関数),

式19・6

を考えると,レーザー光電場のパワースペクトル密度とはフーリエ変換の関係にある19)

式19・7

このレーザー電場の自己相関関数は,図19・11に示すようなマイケルソン干渉計の干渉信号より得ることができる.ここで,ビームスプリッタのパワー反射率を50%とし,干渉計の二つのアーム長の差ΔLより遅延時間τ=2ΔL/cが与えられるものとする.このとき光強度は,

式19・8

となる.この光強度の最大値および最小値Imax,Iminより,干渉縞のビジビリティ(鮮明度)を求めると,

式19・9

と与えられる.このビジビリティより,コヒーレンス時間先τcohはV(τcoh)=1/eと定義され,またコヒーレンス長はLcoh=ctcohと求められる.

一方,式(19・7)の逆フーリエ変換より,自己相関関数R(τ)はレーザー光電場のパワースペクトル密度を用いて,

式19・10

と与えられることから,レーザー光のスペクトル形状がわかれは、自己相関関数およびコヒーレンス時間が求められる.

図19・11

典型的な2種類のスペクトル形状の場合について,その自己相関関数およびコヒーレンス時間を以下に示す.

式19・11

式19・15

このようなレーザー光のコヒーレンス時間τcoh,またはコヒーレンス長Lcohによる評価は図19・11のマイケルソン干渉計などを用いた干渉計測において有用である.一方,レーザーにおいては瞬時周波数

式19・17

を考え,周波数雑音

ページ8i

を用いてスペクトル純度やスペクトル形状を評価するほうがつごうが良い.また,この周波数雑音のスペクトルとしては以下のように定義される片側パワースペクトル密度S(f)[Hz2/Hz]が通常用いられる20)

式19・18

これを用いると式(19・6)は

式19・19

と表され,周波数雑音スペクトルS(f)が求められれば,このフーリエ変換よりレーザー電場のパワースペクトルすなわちスペクトル形状が求められる.

レーザーの周波数雑音スペクトルが広い帯域にわたって白色雑音になっている場合(S(f)=S),レーザー光のスペクトル形状は式(19・14)で表されるローレンツ型となり,スペクトル線幅(半値全幅)は周波数雑音のパワースペクトル密度Sより,

式19・20

と与えられる.

実際のレーザーにおいては,その周波数雑音スペクトルは白色雑音ではなく,低周波数域で大きく増大することが多く,この場合にはスペクトル形状はローレンツ型を示さない.簡単な例として,スペクトルの中心付近に周波数雑音が集中している場合,

式19・21

を考える.ただし,S>>Bであるとする.このときスペクトル形状は式(19・11)で与えられるガウス型となり,その幅は次式で与えられる19)

式19・22

19・2・2 レーザーのスペクトル形状,周波数雑音の測定方法

レーザーを干渉測定や原子・分子などの高分解能分光に利用する場合に問題になるレーザーのコヒーレンス長やスペクトル線幅は,先の一連の関係式よりレーザーのスペクトル形状から,これらを評価することができる.ここではレーザーのスペクトル形状を測定するのに用いられる三つの代表的な方法を取り上げ,その原理および特徴を以下に示す(図19・12)21).実際のレーザーのスペクトル形状はその測定方法および測定条件に大きく依存するため,被測定レーザーの条件および目的に合わせて適当な方法を選んで用いる必要がある.

図19・12

(1) 掃引型ファブリ・ペロー共振器を用いた方法は,レーザー光を共振器に入射し,共振器長を変化させて共振周波数を掃引したときの透過光強度を測定することによりスペクトル形状を得る(図19・12(a)).周波数分解能は共振器の線幅によって決まり,数百kHz~数MHz程度が得られる.測定時間は共振器長の掃引時間によって決まり,1 ms~1 sの範囲である.

(2) 2台の独立なレーザー間のヘテロダインビート信号をフォトダイオードで検出し,これを電気のスペクトルアナライザを用いて測定することによりレーザーのスペクトル形状が得られる(図19・12(b)).両レーザーのスペクトル幅などの特性がほぼ同様の場合,得られるスペクトルの幅は各レーザーのスペクトルの約2倍となる.周波数分解能は測定時間の逆数で与えられる.この方法ではほぼ同様の特性を持つ2台の独立なレーザーを用意する.もしくは被測定レーザーよりも線幅が十分狭い参照レーザーを用意する必要があり,必ずしも一般的に利用できる方法ではない.しかし1 kHz以下のスペクトル線幅を測定できる唯一の方法である.

(3) 1台のレーザーの光を二つに分け,その一方を光ファイバによって十分長い時間遅延させることによって,(2)と同様に両者のビート信号からスペクトル形状が求められ,これは遅延自己ヘテロダイン法と呼ばれる(図19・12(c))22).この方法では被測定レーザーのコヒーレンス時間よりも長い時間遅延した光は元の光とはもはや位相の相関がなく,独立なレーザーとみなせることを利用している.このため遅延時間τdに対して測定可能な被測定レーザーの線幅は約1/(2τd)で与えられ,ファイバ長が10 kmのとき,これは約10 kHzとなる.この方法では測定時間はスペクトルアナライザの周波数掃引時間で決まり,また掃引時間を長くしてもレーザー周波数のドリフトの影響を受けない.一般的に,この方法で測定されたスペクトルの線幅はファブリ・ペロー共振器で測定した場合よりも狭くなる.

以上の方法はレーザーのスペクトル形状を直接求める方法であるが,レーザーの周波数雑音のパワースペクトルS(f)を求めて,これからレーザーのスペクトル形状を計算により求めることができる.レーザーの周波数雑音は, たとえばファブリ・ぺロー共振器の共振曲線のすその傾きを用いて,レーザーの周波数変化を光強度変化に変換してこれを電気信号として検出すれば,スペクトルアナライザによって周波数雑音スペクトルS(f)が得られる(図19・13).式(19・19)にこのS(f)を代入して,これをフーリエ変換することにより,レーザーのスペクトル形状を与えるP(ω)が求められる.

図19・13

19・2・3 レーザーのスベクトル線幅

レーザーにおいては,レーザー共振器内の誘導放出光にランダムな位相を持つ自然放出光が混入することによって決まる原理的な周波数雑音が存在する23).この自然放出による周波数雑音のスペクトル密度S(f)は,レーザー共振器の線幅内においてほぼ一定の白色雑音(S(f)=S)となり,レーザーのスペクトル形状は式(19・14)て与えられるローレンツ型となり,励起レベルがレーザーしきい値より十分高い極限においては,このスペクトルの線幅は,

式19・23

と与えられる24).Δνcはレーザー共振器の線幅,νはレーザーの中心周波数,Pはレーザーの出力パワーである.

これはレーザーの線幅の理論限界を与え,シャロー・タウンズ限界と呼ばれる23)24).これより狭線幅レーザーを実現するには,レーザー共振器のQ値を高く(線幅Δνcを狭く)すればよいことがわかる.典型的なHe-Neレーザー(ν=4.7×1014 Hz,λ=0.633 μm,P=1 mW)の場合に対して,この線幅の理論限界を式(19・22)より求めると,約0.1 Hzと非常に小さな値になる.しかし実際のレーザーにおいては,振動,音響雑音,熱的なゆらぎなどによって,これより数桁以上大きな値を示す.このため狭線幅レーザーを実現するには,レーザー共振器のQ値を高くする(線幅を狭くする)のはもちろん,それ以上にレーザー共振器の機械安定度の向上,および外部からの擾乱の影響を受けにくくすることが重要である.

表19・1

各種レーザーのスペクトル線幅を表19・1に示す.短期の線幅が100 kHz以下の狭線幅レーザーとしてはHe-Neレーザー,LD励起団体レーザー,ファイバレーザーなどがあり,干渉計測などに用いられている.なかでもモノリシックリング共振器を用いたLD励起Nd:YAGレーザーやファイバレーザーは周波数雑音が非常に低く,数kHz台の線幅を示す25)26) .一方,原子・分子の高分解能分光には広い波長範囲で狭線幅レーザーが必要となり,これには色素レーザー,Ti:サファイアレーザー,半導体レーザーなどの波長可変レーザーが用いられる.これらのレーザーの線幅は通常1 MHz以上あり,これ以下の狭線幅を得るには,周波数制御(後述)を用いる必要がある.

半導体レーザーにおいては多重量子井戸構造などを用いてレーザー単体で10 kHzを切る線幅を実現している例も報告されているが,まだ一般的には適用可能ではない27).これに対して半導体レーザー素子の外部に回折格子や共焦点共振器を配置した外部共振器構成を用いることにより,比較的容易に1 MHz以下の線幅が得られる28)29)

19・2・4 レーザーの周波数制御

レーザーの共振器のQ値を上げたり,外乱の影響を小さくするなどの受動的な方法によってレーザーのスペクトル線幅を低減するのには限界がある.これは,レーザー共振器内には利得媒質があるため,励起や放熱に伴う振動や熱的なゆらぎが避けられないからである.これに対してレーザー外部の安定な光共振器を周波数基準として用い,レーザー周波数をこれに一致するよう能動的な周波数制御をおこなうことにより,周波数雑音およびスペクトル線幅を大きく低減することが可能である.この方法の利点は,基準となる光共振器内には利得媒質が必要ないため,振動や熱の発生によるゆらぎの影響を受けない,非常に高安定な周波数基準が実現可能な点にある.

レーザーの能動的な周波数制御においては,レーザー周波数を高精度に基準共振器の共振周波数に一致させることが重要である.このような周波数制御法として標準的に用いられるPound-Drever-Hall法と呼ばれる方法を例に,その原理を簡単に示す(図19・14)30)

図19・14

レーザーの出力光の一部は電気光学変調器によって周波数ωm/2π で位相変調される.レーザーの周波数をω/2π=νとすると,位相変調器によって変調されたレーザー光は,

式19・24

となる.ここで, Jm=Jm(m=0,1,-1)はベッセル関数,Mは位相変調器の変調指数を表す.これを基準光共振器に入射し,その反射光をλ/4波長板および偏光ビームスプリッタなどを用いて入射光と分離して,フォトダイオードで検出する.基準光共振器としては2枚の鏡をスペーサによって平行に配置したファブリ・ペロー共振器が通常は用いられる(基準光共振器については後述する).

ここで共振器の鏡のパワー反射率をR,共振器長をLとすると,共振周波数はωr/2π=νr=Nc/2L(Nは整数cは光速),フィネスはページ10i,共振線幅はΔνr=Δωr/2π=c/2FLと与えられる.フォトダイオードで検出された反射光の光電流を変調周波数ωm/2πで復調すると,レーザー周波数と共振器の共振周波数との間の周波数誤差δν=(ω-ωr)/2πにほぼ比例した周波数弁別信号,

式19・25

が得られる(ここでは入射レーザー光の共振器のTEM00モードへの結合効率を100%とし,また共振器の鏡の損失がないものと仮定した)31).i0は非共鳴時の反射光の光電流で,共振器への入射光パワーをP0,フォトダイオードの量子効率をηとするとI0=eηP0/hνと与えられる.δνに対する比例係数Dは周波数弁別感度を表す.この信号をサーボ回路によって増幅してレーザーの周波数制御素子に加えて負帰還制御をおこなうと周波数誤差δνは,

式19・26

となる.ここで,Gはサーボ回路の利得,Kは周波数制御素子の変換係数を表す.また周波数弁別信号Idiscを検出する際に混入する雑音をInとし,この雑音の大ききに等価な周波数雑音をνnとした.これより制御後の居波数誤差δν’は,

式19・27

となる.制御ループの総合利得KSDが1より十分大きいとき,元のレーザーの周波数誤差(雑音)は十分小さく抑圧され,これに代わって-νπが周波数誤差に残る.

周波数弁別信号検出の際に混入する雑音Inは,検出光パワーが十分大きい場合には検出する光電流のショット雑音(量子雑音)が支配的となり, これは平均光電流がページ11iのとき,変調周波数ωm/2πで復調する際のショット雑音の大きさは,

式19・28

と与えられる.一方,共鳴時(ω=ω0)の平均光電流はページ11iページ11iiと与えられるため, これよりショット雑音ISNで決まる周波数雑音を求めると,

式19・29

となり,これによって決まるローレンツ型のスペクトル形状のレーザー線幅は,

式19・30

と与えられる.この式をレーザー線幅のシャロー・タウンズ限界の式(19・23)とくらべると,若干のファクターの遠いを除いて,レーザー共振器の線幅が基準光共振器の線幅に,レーザー出力パワーが基準共振器の入射光パワーにそれぞれ置き換わった形となっている.これより,レーザー共振器より狭い線幅を持つ基準共振器を用いて周波数制御をおこなうことにより,レーザー線幅を式(19・23)で与えられるシャロー・タウンズ限界以下に狭くすることが原理的に可能となる31)

実際のレーザーの周波数制御においては,制御前のフリーラン時のレーザーの周波数雑音スベクトルS(f)を測定し,これをもとに必要な制御帯域および制御利得を決定し,レーザーの周波数制御素子の周波数応答特性などを考慮してサーボ回路の利得およびその周波数特性を決定することが重要である.表19・2に代表的なレーザーの周波数制御方法を示す.

表19・2

実際の周波数制御では,これらの制御素子を複数組み合わせて用い,必要な制御帯域,利得およびダイナミックレンジを確保する.レーザーそのものの発振周波数を制御する代わりに,レーザー共振器外部で電気光学変調器や音響光学変調器を用いてレーザー光の周波数および位相を制御する方法がある(図19・15)32).この方法は,どのようなレーザーにも適用可能で,特にレーザー共振器内に電気光学変調器が利用できない場合に対しても高速な周波数制御を可能にする.

図19・15

19・2・5 基準光共振器

能動的な周波数制御によってレーザーは高精度に基準光共振器の共振周波数に一致させることができるが,基準光共振器自体の安定度がレーザーの真の周波数雑音を決めるため,高安定な基準共振器の実現が重要となる.

式(19・29)より,基準共振器の線幅が狭いほど周波数制御による周波数雑音の抑圧限界が低くなる.共振器の機械的安定度を考慮すると共振器長はあまり長くできず,共振器の線幅を狭くするにはフィネスを高くする必要がある.通常用いられる電子ビームを用いた蒸着法で作られた誘電体多層膜は散乱損失が大きく,得られるフィネスは1000以下である.これに対してイオンビームスパッタ法を用いた誘電体多層膜は反射率99.99%以上,散乱損失も0.01%以下となり,フィネスは10000以上が容易に得られる.現在までのところ,フィネスは1.9×106 33),散乱損失は1 ppmレベルが達成されている34).このような高反射・低損失鏡を用いた基準光共振器の線幅は10 kHz(共振器長20 cm,フィネス75000)程度が得られるため,この共振器の共振周波数にレーザーを安定化し,その誤差を共振器線幅の1/1000以下にすれば10 Hz以下の線幅が得られる.

熱的な安定度を向上するため,共振器の長さを決めるスペーサには熱膨張係数が十分小さい材料を用いる必要がある.表19・3に基準共振器のスペーサとして用いられる各種材料の熱膨張係数を示す.

表19・3

高安定な共振器のスぺーサには超低膨張ガラス材料がよく用いられる35~37).鏡の基板とスペーサーを同じ低熱膨張ガラスで製作し,鏡とスペーサーを光学接着で一体構造にすることにより熱的および機械的安定度が大きく向上する.図19・16にこのようにして作られた基準共振器の一例を示す.この超低熱膨張ガラスを用いた共振器をさらに高精度に温度制御をおこなうことにより,共振周波数のドリフトを数Hz/s程度まで抑えることが可能である38).このドリフトは主に温度ゆらぎによるものであるが,ガラス素材のクリープなど経年変化による変形による共振周波数の変化もある.共振器に入射したレーザー光は共振器の鏡の蒸着膜において吸収することにより,鏡やスペーサーの温度が上昇してより大きな周波数ドリフトを起こすため39).共振器への入射光パワーはできるだけ小さく,またパワー変動を少なくする必要がある.

図19・16

サファイア(Al2O3)結晶は絶対零度近くの極低温では混度の減少とともに熱膨張係数が急激に減少し,また熱伝導も非常に良くなるため,共振器長の熱的な安定度が劇的に改善される40).またサファイア結晶は剛性も高いため,機械的にも非常に安定度が高くできる.このため,低温サファイアを基準光共振器に用いると,熱的なドリフトが非常に小さい短期的な周波数安定度が非常に高いレーザーが実現可能となり,1000秒において10-15台の安定度が達成されている.また長期的な安定度および経年変化も小さく,6か月間で10-11台の周波数ドリフトが得られている40)

外力による共振器スペーサの変形や振動や音による共振器の各種振動モードの励振を防ぐため,共振器の防振が重要である.共振器をワイヤでつることにより水平方向の防振ができ,振り子の共振周波数より高い周波数領域において大きな防振比が得られる39)41).共振周波数は振り子の長さによって決まり,通常は数Hz~10 Hz程度となる.これに対して垂直方向の防振は空気ばねなどによって別におこなう必要がある.垂直方向の振動は共振器スペーサの変角振動モードを励起するため,これを十分小さく抑える必要がある.市販の光学定盤に用いられる空気ばねの自然周波数は数Hz程度に設定されているため,共振器長が自然周波数で変調されることにより,レーザー周波数もこの周波数で大きく周波数変調される.このため,10 Hzを切るような狭い線幅を得るには,自然周波数を1 Hz以下に下げる必要がある.音響雑音の影響は共振器を真空容器内に入れることにより,ほぼ完全に取り除くことができる.

このように徹底的に基準共振器の防振および温度制御をおこなうことより,レーザーの短期の周波数安定度は大きく向上し,最後に基準共振器の残留見度ゆらぎによる数Hz/s程度のドリフトが残る38)42).音響光学変調器による周波数シフタを用いてシフト周波数を掃引して,この共振器による周波数ドリフト分を打ち消すことが可能で,この方法を用いて1 Hz以下を切る狭線幅が得られている42)

19・2・6 周波数制御による狭線幅レーザーの実現例

各種レーザーの基準光共振器に対する周波数制御によって実現された高いコヒーレンスを持つ狭線幅レーザーの実現例をいくつか取り上げ,その実現方法および性能を簡単に紹介する.

[1] LD励起モノリシックリング型Nd:YAGレーザー

LD励起モノリシックリング型Nd:YAGレーザーはフリーラン時の周波数雑音が低く,短期の線幅も数kHz程度であるため,比較的低い制御帯域(<100 kHz)の周波数制御によって100 Hz以下の狭線幅が実現可能である.周波数制御はピエゾ素子を用いてNd:YAG結晶によるモノリシック共振器を変形することによりおこなわれ,約100 kHzの制御帯域が得られる.

低熱膨張ガラスULEをスペーサとしたフィネス1万以上の基準光共振器を用いて周波数安定化した2台のレーザーのヘテロダインビート測定より,30 Hz以下の線幅が得られている(図19・17)43)~45).スペクトル線幅の測定限界を決めているのは,主に基準共振器の温度ゆらぎによる周波数ドリフトである.

図19・17

[2] 色素レーザー

イオントラップ中の単一199Hg+イオンを用いた光周波数標準では,波長282 nmの自然幅約2 Hzの2S1/22D5/2遷移の超高分解能分光をおこなうため,波長563 nmの色素レーザーを周波数制御によって,その線幅を1 Hz以下にして,この第二高調波を用いている42).周波数制御は2段階に分けておこなわれ,最初に低フィネス(800)共振器を用いた予備安定化で,まずレーザー線幅を1 kHz程度に狭くし,次に高フィネス(>150000)基準共振器およびレーザー外部の音響光学変調器による周波数シフタを用いて周波数制御をおこない,最終的に0.6Hzの線幅を実現している.

ULEガラスからなる基準共振器は真空チェンバ内で温度安定化され,さらにゴムチューブによってつり下げられ,垂直方向に対する徹底的な防振が施されている.これは可視光領域において1 Hz以下の狭線幅を実現した唯一の実現例である.

[3] 半導体レーザー

レーザー,冷却40Ca原子の波長657 nmの1S03P0遷移を用いた光周波数標準においては,外部共振器型可視半導体レーザーを高フィネス共振器を基準にして周波数制御をおこない,自然幅400 HzのCa原子の光ラムゼー分光を実現している38).ULEをスペーサ材とした線幅10 kHzの基準共振器を真空チェンバ内に入れて,温度安定化して用いている.レーザーの周波数制御は注入電流による1 MHz以上の高速の制御と,PZTによる回折絡子の微調による低速の制御からなる.

イオントラップ中の単一88Sr+イオンの自然幅0.4Hzの5s2S1/2-4d2D5/2遷移を用いた光周波数標準においても,可視半導体レーザーを周波数制御して用いており,Caの場合と同様の基準および制御方法を用いて線幅約220 Hzが得られている46)

参考文献1

参考文献2

参考文献3

参考文献4

参考文献5

参考文献6

狭帯域レーザーのメーカー