19・1・1 概要

レーザーの発振波長は,媒質に特有なレーザー遷移にかかわる2準位問のエネルギー差によって決まるが,どのようなレーザーの発振線でも利得バンドは広がりを持ち,その幅の範囲においては波長制御が可能である.たとえばNd:YAGレーザーの可変幅は1064 nmの発振線でおよそ5 cm-1程度,波長可変レーザーと呼ばれるTi:Al2O3レーザーに至っては固体レーザーの中では最も広い6500 cm-1以上(波長660-1180 nm)もの連続した利得バンド帽を有する.この幅の中から必要とされる波長を選択することや利得バンド幅全域にわたって波長を掃引すること,あるいは多くの不連続な発振線の中から特定の発振線を選んで出力させることは分光学を基礎としたさまざまな計測への応用上重要な要素技術である.

レーザーの発振波長を選択する方法としては,波長選択素子をレーザー共振器に付加的に適用する方法や外部光を注入する注入同期法,利得媒質の環境を変化させてレーザー遷移の2準位間のエネルギー差を直接変化させるレベル同調法などがある.また,現存のレーザー媒質によって直接レーザー発振が得られない波長をコヒーレント光として出力かつ同調する手段としては,非線形結晶などを用いた波長変換法が有用である.

19・1・2 波長選択素子

レーザーの発振波長は,通常,利得バンド幅において共振器損失が一定ならば,利得が最大の波長に決定される.レーザーの発振波長を制御することは共振器内の波長ごとの損失を制御することに相当し,発振させたい波長に対する損失を可能な限り低減させ,それ以外の波長に対する損失を増大させることにより波長選択が実現する.波長選択素子はある特定の波長を選択的に出力させることのできる素子であり,これを用いて必要な波長のみを共振務内の媒質に帰還するように共振器を組むことにより出力波長を選ぶことができる.

レーザーに使用される波長選択素子としてはプリズム,回折格子,複屈折フィルタ,エタロンおよび音響光学フィルタなどがあげられる.これらの素子は,母材やコーティングの波長域や損傷しきい値などで制限を受けることがあるが,さまざまな波長,さまざまな種類のレーザーに用いられ続けてきた代表的な波長選択素子である.[1] プリズム

プリズムは,光学材料による光の屈折効果を利用して波長を選択することができる素子である.広帯域な波長選択が可能であり,レーザーの出カ波長の粗調整に用いられることが多い.共振器中にプリズムを挿入し,分散された波長の中から発振させたい波長の光を元の光路に戻すことにより出力波長を選択することができる.共振器への挿入損失を減らすためには,入出射面をブリュースターカットにしたり,反射防止(AR)コーティングを施すとよい.波長の選択における分解能は屈折した光の波長分散の度合いに依存し,分散が大きいほど波長の選択能が向上する.1個のプリズムで屈折した光を十分に分散させることができない場合は,複数個用いて,その度合いを高めることも容易にできる.

プリズムの振れ角αはプリズムの頂角A,光の入射角θ,プリズム材質の屈折率n(λ)により,

式19・1

と表すことができる(図19・1).波長が変化すると屈折率n(λ)が変化し,振れ角αが変化する.

図19・1

図19・2はプリズムを波長選択素子として使用したアルゴンイオンレーザーを示している.アルゴンイオンレーザーには赤外から紫外にかけて数多くの発振線が存在し,波長選択素子を使用しない共振器の場合,利得の高い488 nmや514 nmをはじめとした発振線を中心に数多くの波長で発振する.図に示すように,アルゴンイオンレーザー共振器中にプリズムを挿入すると,特定の発振線を選んで発振させることができる.また,プリズムの角度またはミラーの角度を可動にしておくと選択する波長を変えることができる.

図19・2

[2] 回折格子

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