17・4・1 短波長自由電子レーザー

FELの波長は,電子エネルギー,アンジュレータ磁場の磁束密度,アンジュレータ磁場の周期長により決定されるが(17・3・2参照),短波長を得るには一般に高いエネルギーの電子ビームを必要とする.また,FELでは,電子の集群(バンチ)内にほぼ波長間隔の微細な集群(マイクロバンチ)を形成する必要があるため,短波長になるほど,電子ビームのエミッタンスやエネルギー広がりを小さく抑えることが重要となる.これら電子ビームへの要請から,従来短波長FELの発生には,ビームの質が良く高エネルギーが得られる蓄積リングが加速器として用いられてきた.また短波長域では原理的に高ゲインを得るのはむずかしくなるため,光共振器には光損失を小さくできる誘電体多層膜ミラーが用いられるが,使用できる誘電体材料の制約から,短波長FELとしては主に可視から150 nm程度までの真空紫外域を発振の対象としてきた.それより短波長域では,CHG(coherent harmonic generation)法45)や,SASE(self amplifiedspontaneous emission)法46)などを用いてFELを発生させる.

CHGは,平面型アンジュレータから発生する高次の光高調波を利用する手法で,数十nmまでのコヒーレント高調波を発生させることが可能である.SASEはこれに対して,特に数nm~0.1 nmのX総領域のFELを得るため,高性能な大規模リニアックと数十~100 mの非常に長いアンジュレータを組み合わせることにより,単一パス光増幅でレーザー発振を得ようとするものである.SASEに関しては,17・4・4に詳しく記述されているので,ここでは蓄積リングを用いる発振型の短波長FELの現状を示すとともに,CHGについても簡単に説明する.

発振型の蓄積リングFELでは,蓄積リングの直線部にアンジュレータを挿入し,発生する準単色の放射光(アンジュレータ放射)をファブリ・ペロー共振器で閉じ込めて増幅し,レーザー発振を得る.現在世界で稼働しているこのタイプのFELでは低エミッタンス・高ピーク電流の中規模蓄積リングが用いられる場合が多いが,その場合でも,利用できるリングの直線部の長さは6~25 m程度であるため,限られたアンジュレータ長で十分なFELゲインを得る必要がある.このため,中央部に強磁場の分散部を設けた構造のアンジュレータ(光クライストロン,17・3・2[4]参照)が用いられる.図17・9に模式図を示す.

図17・9

リング内に蓄積された電子ビームは高周波加速空洞で加速され,数cm~10 cm程度の長さの電子バンチとなって光クライストロン上流側のアンジュレータ部に入射する.電子ビームがアンジュレータの周期磁場で蛇行することによって放出された一定波長のアンジュレータ放射の電磁場とアンジュレータ磁場のビートによる力(ポンデアモーティブ力)がバンチ内の電子に作用し,光の進行方向にほぼ光の波長間隔(式(17・5)参照)で微細なエネルギーの変調とそれに伴う密度変調をひき起こす.電子ビームは分散部の強い磁場で大きく蛇行するが,このとき小さいエネルギーの電子ほど,より長い軌道を走るため,密度変調が強調され,短い相互作用距離でマイクロバンチが形成される.マイクロバンチから放出されたコヒーレン卜光は,特定の条件が満足されると光共振器内でフィードバック増幅されレーザー発振に至る.

表17・1は世界の蓄積リングFELの稼働状況を示している.既存のリングでFELに利用できるものが少ないため,蓄積リングFELは比較的少数である.また産総研で周長30 m・エネルギ-0.3 GeVの専用小型リングを用いているほかは,規模の大きい汎用リングを用いたものが多い.光共振器を用いる発振型FELで得られている世界最短波長は最近まで第3世代放射光リングELETTRA(伊)での190 nm47)であったが,これが176.4 nmまで短波長化されたとインターネット上で報じられている72).国内では”産総研のNIJI-IVを用いてわが国初の真空紫外発振(198 nm)48)が得られているほか,分子研のUVSORでは平均出力1.2 WのCW発振FEL49)が可視域で得られており,それぞれ,遜移金属表面のナノメータ実時間観測や,FELとシンクロトロン放射を併用した希ガスの二重共鳴励起のポンプ・プローブ観測への応用研究などがおこなわれている.

表17・1

CHG法では,アンジュレータ内の電子バンチに外部から別の高出カレーザー光を集光するか,レーザー発振が容易な比較的長波長のFELを発振させることにより,電子バンチ内に形成したマイクロバンチをもとに,高次のコヒーレント光高調波を発生させる.平面型アンジュレータ内では磁場が強いほどビーム軌道が正弦波からひずむので,高次の光高調波が発生するが,マイクロバンチが形成されると高調波のコヒーレンスも良くなるのを利用する.光共振器による直接発振がむずかしい150 nm程度以下の波長域で有効となる.長波長FEL発振でマイクロバンチを形成する場合は,下流側の共振器ミラーに微小開口を設けて高調波を取り出す.この手法を用いて,Duke大学(米)では140~37 nmのコヒーレント高調波を発生できたと報告している50)

蓄積リングFELは,レーザーゲインや蓄積リングのエネルギー許容範囲から,原理的に高出力を得ることはむずかしいが,レーザーの時間コヒーレンスや横モードが良好なことから,数十nm程度までの真空紫外域における高輝度計測光源としてはきわめて有用である.

17・4・2 長波長自由電子レーザー

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