発振型FELにおける主要な装置は,加速器,アンジュレータ,光共振器である.SASE型FELにおいては光共振器を使用しないが,電子ビームやアンジュレータの負荷が大きくなる.本節では,これらの主要装置に関して概説する.なお,FEL輸送系,利用装置なども重要であるが,ここでは省略する.

17・3・1 加速器

加速器としては,現在は電子直線加速器(リニアック),電子蓄積リング,マイクロトロン,静電加速器(バンデグラーフ型)が主流である.ここでは,これらの加速器に限り,各加速器の加速原理の詳細10)は省略して,FELの観点から述べる.

[1] 高品質電子ビーム

FELにおいては光ビームと電子ビームの重畳と電子密度が非常に重要である.電子ビームの検方向のサイズと広がりに関しては,エミッタンスが指標になる.電子ビームの中の電子の横方向の理想軌道からのずれをu,進行方向の理想軌道からの角度をu’とすると,電子の集合はuとu’の位相空間の中に分布しているが,その面積をπεとするとき,εをエミッタンス,εn=γβεを規格化エミッタンスと呼ぶ.ここで,γ(=E/mc2)は電子エネルギ-Eを電子の静止質量エネルギーmc2で規格化した無次元量でローレンツファクタと呼ばれ,β(=v/c)は電子の無次元速度である.保存カのみが働いている場合はリュウヴィルの定理によってεnは不変である.

自由電子レーザーにおいて要求されるのは大電流かつ低エミッタンスのビームである.また,電子ビームのエネルギー幅が広いとゲインが低下するので,エネルギー幅も小さくなくてはならない.電子ビームの時間構造はFELのそれに反映されるので,時間構造への要求はFELの用途によって異なる.

[2] 電子直線加速器(電子リニアック)

リニアック(linear accelerator)はFELにおいて最も多用されている.従来は常伝導リニアックが主流であったが,超伝導リニアックが続々建設されつつある.後者では大平均出力のFELが可能であるが,現状では大型になるため,小型システムを構築するためには,主として常伝導リニアックが使用されている11).常伝導加速管では,通常無酸素銅を使用するが,壁における高周波の損失は不可避で,効率は超電導加速管より相当に低い.

電子リニアックでは,穴あきディスクを周期的にロードした高周波空洞にクライストロンなどによって増幅された数百MHz~数GHzの高周波を印加して,TM01モードによる縦方向(進行方向)の加速電界によって電子を加速する.高周波系を含む進行波型リニアックの簡略化した構成例を図17・3に示す.

図17・3

常伝導リニアックでよく使用される進行波型定勾配型加速管における全加速電圧Vは,高周波入力をP0,加速管の長さをlとすれば,

式17・7

で表される12).減衰係数τはr=l/l0で定義され,l0=2Qvg/ωは加速管内での減衰長,Qは加速空洞のQ値,ωは高周波の角周波数,vgは加速管内での高周波の群速度であり,加速管の構造によって決まるが,通常は位相速度(したがって真空中の光速度)の1/100程度である.Zは加速管の単位長さ当りのシャントインピダンスであり,多くの場合,50 MΩ/m程度である.式(17・7)の右辺第1項は加速管壁による高周波の電力損失のみを考慮したもので,第2項は電子ビームに与えるエネルギー(ビームローティング)による影響を示している.リニアックの場合はビーム電流によって加速エネルギーが変化する.

電子は高周波のある位相付近にバンチング(集群化)しており,これをマイクロバンチと呼ぶ.超伝導リニアックではCW的加速が可能であるが,常伝導リニアックでは高周波の壁損失が大きいので,電力などの制限からクライストロンを数μs~数十μs,1~10 ppsのパルスで間欠的に動作させ,これをマクロパルスと呼ぶ.このマクロパルスの中に,加速高周波に応じたマイクロパルスが詰まっている.マクロパルスの制御は,図17・3の高圧パルス形成装置においておこなわれる.発振型FELでは,光ビームの光共振器内での往復回数を多くして飽和まで増幅を繰り返す必要があり,特に短波長領域においてFELゲインが低い場合はマクロパルスを長くする必要がある.一方,マイクロパルス幅は,通常は1~20 ps程度であるが, FELの用途によっては100 fs程度のパルスが要求されることもあり,その場合はパルス圧縮用の電峨石群やアルファ電磁石を使用する.

リニアックの場合,位相安定性の原理から,電子ビームの縦(進行)方向のバンチングは起こるが,検方向の収束力は特にないので,加速管の間等に四重極電磁石を設置するが,高エネルギーになると相対論的効果(ローレンツ収縮)が顕著になるので,大きな問題にはならない.

電子リニアックへの電子入射器としては,静電型電子銃と高周波電子銃がある.静電型熱陰極電子銃は,通常陰極(カソード),陽極(アノード),グリッドからなる三極管構造のものであり,引出し電圧は通常100~200 kVである.この段階では,電子ビームは直流的で,加速に適した時間構造ではなく,また速度が光速度に十分に近くないので,加速管に入る前にバンチャと呼ばれる特殊な加速管を置いてバンチングを強めておく.低エネルギー電子ビームは空間電荷効果によって広がりやすいので,電子銃から主リニアック入口までの距離を可能な限り短くするとともにソレノイドコイルなどによって電子ビームの発散を防ぐ.FELの利用にあたっては,光共振器の中に多くのレーザーパルスが存在すると好ましくない場合も多く,サブハーモニックバンチャを使用して,電子ノマノレスを間引くとともにピーク電流を増強したり,短パルス(ns程度)のパルサを使用してグリッドでパルス間隔を制御する場合が多い.

高周波電子銃は,加速空洞の中にカソードを組み込んで,発生した電子を強い高周波電界で一気に加速する,図17・4に例示するような定在波型構造を持つものであり13),発生した電子が短時間で高エネルギーになるため,空間電荷効果が抑えられ,高密度で低エミッタンスの電子ビームが小型電子銃で得られる.

図17・4

陰極としては,静電型電子銃と同様,熱陰極を使用するものと,光陰極を使用するものがある.前者は安価・小型で簡便であるが,いったん陰極から引き出された電子ビームの一部が高周波電界により陰極に向けて逆加速されて衝突(back-bombardment)し,その結果,陰極が加熱され,電子放出量が変化するという短所がある.そのために現状では数μs以上の長パルス運転は不可能であり,解決のための研究が進められている14)

一方,光陰極型高周波電子銃は,加速位相の高周波電界の最も加速効率の良い位相に合わせて短パルスレーザーを陰極に照射し,光電子放出により陰極から電子ビームを生じさせる.したがって電子が逆加速位相の高周波電界の影響を受けず,back-bombardmentがなく,長パルス運転がでできる.しかしながら,長寿命である銅などを陰極として用いると,量子効率が低いため大出力ドライブレーザーが必要であり,逆に量子効率の高い半導体材料の光陰極は一般に寿命が短い.また,出力,位相の安定したドライブレーザーが必要で,設備が大がかりかつ高コストになる.

FELにおいては,電子ビームのエネルギーのうち高々数%しか使用されず,電子をそのままビームダンプに捨てると,エネルギー効率が非常に低い.高効率化のために,FELに使用された電子ビームを加速管に戻し,減速位相に合わせて電子を減速して,その差のエネルギーを加速用高周波に変換するエネルギー回収方式があり,ERL(energy recovery linac)と呼ばれている.超伝導リニアックにおいてはすでに実証実験がなされ15),電子ビームエネルギーに関しては非常に高効率になる.常伝導リニアックでは,前記の壁損失のためにエネルギー効率は低いが,ERL方式にすると,ビームダンプに捨てる電子のエネルギーが低くなり,放射線遮へいの負荷が大幅に減少するので,種々の方式が考案されている16)

短波長FELにおいては,より高エネルギーの電子が必要である.また,リニアックでは規格化エミッタンスがほぼ保存され,実効的なエミッタンスは高エネルギーになるに従って低くなるので,高エネルギー電子を使用した短波長SASE型FEL装置が,世界各地で建設され17),あるいは提案されている.非常に高エネルギーのリニアックは建設費も高く,エネルギー効率も低いので,最近では超伝導ERLによるSASEも考えられている.

[3] 電子蓄積リング

電子蓄積リングは,200 MeV~1 GeV程度のエネルギー領域においては,リニアックにくらべて電子ビームの質が格段に良いので,可視~真空紫外領域のFELに使用されることが多い.最近はSASE型FELが流行しているが,リングの場合は発振型で狭帯域レーザーの発生が可能であり,CW的な発振も可能なので,現在でも重要な意味を持つ方式である.

図17・5に産総研の装置構成を例示する18).蓄積リングは,偏向電磁石で電子ビームをカイドし,四重極電磁石によって横方向の発散を防いで,超高真空槽の中で周囲させる.電子ビームは,リニアックから直接,あるいは小型リニアックからシンクロトロンに入射して再加速してから入射される.電子ビームは,周回する間にシンクロトロン放射を放出して一部のエネルギーを失うが,リング中に高周波加速空洞を設置して,位相安定性の原理によって,ちょうど電子ビームが1周する間に失ったエネルギーを補う.電子ビームの寿命は,放射励起と放射減衰のバランス,電子間の反発カ,真空度などによって決まり,寿命は一般に長いが,FELのために電子密度を上げると寿命は必然的に短くなる.

図17・5

蓄積リングにおけるFELは,図17・5のように,リングの直線部にアンジュレータ(光クライストロン)と光共振器を置いて発生させる.同じ電子を循環使用するので効率は高いが,光の電磁場との相互作用で電子ビームのエネルギー幅が増大するので,リングFEL特有の飽和が起こり,出力はRenieri限界,

式17・8

を超えることができない19).Δω/ωは自発放出光スペクトルのバンド幅,Psはリング内で発生するシンクロトロン放射の全出力であり,後者は電子ビームエネルギーの4乗に比例する.したがって,高いFEL出力を得るためには,高エネルギーのリングが必要である.

一方,電子ビームのエミッタンスは,簡便には,

式17・9

で表されるNBはリング中の偏向電磁石の数,Jx式349i1~2であり,Fは電磁石の配置などによって決まる.エミッタンスが電子ビームのエネルギ-Eの2乗に比例して高くなるので,蓄積リングFELでは短波長化のためにむやみにエネルギーを上げることができない.式(17・8)と式(17・9)の条件は相反し,また高エネルギーではFELゲインも低いので,エネルギーに関しては妥協が必要である.

式(17・9)は,i)イオン・トラッピング,ii)バンチ間相互作用,iii)クロマティシティなど,蓄積リングに特有な不安定性を考慮したものではない.i)は電子ビームの周囲に残留ガスのイオンがさやのように取り巻くもので,イオンクリアリング電極により除去することが多い.ii)は,前にある電子バンチが真空槽壁などの構造物に誘起した電界の影響をうしろのバンチが受けることによるもので,直接フィードパック20),あるいは高調波ランダウ加速空洞を設置して抑制する21).iii)はヘッドテイル不安定性を誘起するので,6極電磁石を置いてクロマティシティを補正することによって除去する22).そのほか,蓄積リングのインピーダンスが高い場合に起こる高周波不安定性に関しては,真空槽,特にベローズをなめらかな構造にしたり23),高周波加速空洞に高調波を吸収させる構造物を付加したりすることによって除去する.

FELは,シンクロトロン放射発生用リングに寄生して実験がおこなわれることが多いが,一般にリングの直線部が短くてゲインが低く抑えられるなど,リングがFELのために最適化されていない.また高輝度シンクロトロン放射を利用している間はFELの実験が不可能で,実験時間が限られる.したがって,FEL実験のためには直線部が長いFEL専用小型蓄積リングが望ましく,電子技術総合研究所(現・産業技術総合研究所)のNIJI-IVを皮切りに18),Duke大学(米国)や,Dortmund大学(独)においても建設された.しかしながら逆に,ほかのユーザーがいないので,リング特有の高い効率が損われることが問題であり,複数のFEL装置を設置した,FELを使用したレーザー逆コンプトン散乱によって準単色X線も発生させて利用する,などの工夫がなされている.

[4] マイクロトロン

リニアックは加速管を直列に並べて電子エネルギーを上げていくが,マイクロトロンでは加速部が1か所で,電子ビームを周回させて加速部に戻して再加速し,これを繰り返してエネルギーを上げる.円形の一様な磁場の中に小型の加速空洞を置いて,数回回転きせる方式と,リニアックを1本置いてビームを周回させるための磁場を外部に設置する方式とがある.前者は装置が小型になるが,高周波源としてマグネトロンを使用することが多く,電子銃の構造が不十分なこととマグネトロンの安定性が悪いことから,これまで電子ビームの質は悪く,FEL出力を飽和させることは非常に困難であった.しかしながら,最近は,マグネトロンに周波数フィードバックを施すことにより,遠赤外領域での飽和も可能になっている24).一方,後者は最近ではエネルギー回収型のものが計画され,注目されている25)

[5] 静電加速器

静電加速器は,原理的には最も単純であり,直流高電界をかけて電子を加速する.電子ビームの質は非常に高く,かつDCビームの発生が可能であるが,放電限界があるために最高エネルギーは制限され,短波長FELの発生は困難である.しかし,FELに使用された電子ビームのエネルギー回収が可能であり,バンデグラーフ型26)やコッククロフト型の加速器で長波長のFELの発生と利用がなされている.

17・3・2 アンジュレータ

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