16・4・1 過渡電子衝突励起X線レーザーの背景と発生原理

電子衝突励起X線レーザーは,1985年の最初の実証実験50)以来,米国・ローレンスリバモア(Lawrence Livermore)研究所,英国・ラザフォードアップルトン(Rutherford Appleton)研究所,仏・エコールポリテクニック(Ecole Polytechnique),そして大阪大学レーザー核融合研究センター(現・レーザーエネルギー学研究センター)などの主導で核融合研究用の励起レーザーを用いて精力的におこなわれてきた.

X線増幅時の媒質イオンの励起状態占有密度(ポピュレーション)が,ほぼ準定常状態に達していることから,このタイプのX線レーザーは準定常状態(quesi-steady state : QSS)型の電子衝突励起 X線レーザーと呼び,現在では過渡電子衝突励起X線レーザーとは区別している.光源として見た場合,準定常状態型の電子衝突励起X線レーザーは励起光源自体が巨大であり,広く一般に用いられる光源開発の観点から,電子衝突励起レーザーを小型化することが重要なテーマであった.

1980年代終わり頃より,レベデフ(Lebedev)研究所(ロシア)を中心に,超短パルスレーザーを用いた小型X線レーザーの可能性が指摘された51).レーザー媒質である多価イオンプラズマのパラメータ(たとえば電子温度)を急激に変化させると,その励起状態占有密度(ポピュレーション)が準定常状態に至るまでに過渡的に大きな反転分布が生じ,X線レーザーの高効率化が可能になるというアイデアであった.波長20 nm程度の軟X線の増幅に必要な媒質(プラズマ)の電子密度,電子温度から準定常状態に到達する時間を推定したところ10 ps程度であり,既存のガラスレーザーで実現することはむずかしく,そこでチャープパルス増幅(CPA)技術を用いたNd:ガラスレーザーをX線レーザーの励起光源として用いることが提案された.マックスボルン(Max-Born)研究所(ドイツ)がいちはやくX線レーザー専用CPA励起レーザーを整備し,1997年にNe様Tiイオンの3p→3s(J=0→1)遊移(32.6 nm)の増幅に成功した52).その後,この方法を過渡電子衝突励起X線レーザーと呼んでいる.

ここで,過渡電子衝突励起X線レーザーとして最も高効率な発振に成功しているNi様イオンを例にとり,その発生方法について説明する.Ni様イオンは原子核の周りに28個の束縛電子を持ったイオンの総称で,たとえば,銀原子(原子番号47)の場合には,Ag19+を意味する.そしてAg19+の特定の励起状態間(4p-4d(J=0→1))の反転分布を高温高密度プラズマ中に生成し,エネルギー差に相当する波長(この場合,13.9 nm)の軟X線を増幅させることをNi様銀イオンレーザーと呼んでいる.実際の軟X線の増幅実験では,励起レーザー光を線集光(通常,6 mm程度)し,団体銀ターゲットに照射する.励起レーザー光は二つのパルス(プリパルスと加熱パルス)からなり,プリパルスでAg15+~Ag18+といったレーザー媒質イオンよりも低いイオン価数の生成と,加熱パルスの吸収密度領域(波長1 μmのレーザー光の臨界密度は1027 m-3)のスケール長を大きくすることで,加熱領域中の密度勾配をゆるやかにして伝搬しながら増幅する軟X線の屈折を低減させることを役目とする.続く加熱パルスで,プラズマの電子温度を急激に上げ,レーザー媒質イオンへの電離とその励起状態間に反転分布を生成する.通常,銀ターゲットの場合,プリパルス,加熱パルスの照射強度は1013 W/cm2,1015 W/cm2程度である.その結果,長さ6 mm程度,端面の大きさ50 μm×50 μm程度の横長の利得媒質が生成し,その一端で発生した種光が媒質中を伝搬しながら増幅し,結果として他方の端から強い単色の軟X線ビームが発生する.

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