本質では,原子の束縛準位間の反転分布に基づくX線レーザー1)について紹介する.なお,17章で紹介される自由電子レーザーの原理に基づくX線レーザーは,本章では取り上げない.

X線には軟X線,硬X線がある.大まかにいって,それぞれの光子エネルギーは0.03~数keV,>数keV2)である.また,軟X線と重なっている数十~200 eVの光子を極端紫外線と呼ぶこともある3).ここで紹介するX線レーザーの波長は現在のところ,軟X線領域に限られている.ただし,関与する遷移のエネルギーギャップが,数十eV~1 keVと大きいため, レーザー媒質として通常,高密度プラズマ中の多価イオンが用いられる.なお,波長λ[nm]と光子エネルギーhν[eV]の関係は,hν=1240/λで与えられる.代表的な反転分布生成機構として,レーザー照射時の加熱相で反転分布の生じる電子衝突励起,レーザー照射後のプラズマの冷却に伴って起こる3体再結合による再結合励起がある(本章の後節で詳しく紹介する.

反転分布の生じるのに適したプラズマを増幅(高出力化)に適した形状(一般には細長い線状)に生成するため,時間・空間的に高度に制御された高出力短パルスレーザー光を固体または気体に集光照射することになる.

図16・1に,レーザー媒質である高電離プラズマと,それを生成するための励起用レーザーを模式的に示す.X線レーザーの波長城でPは反転分布の寿命が短いこと,プラズマ媒質のデブリなどにより1ショッ卜ごとに反射鏡・半透鏡にダメージが生じること,全反射鏡反射率の制限,高い半透鏡製作コストなどのため共振器4)を用いることが困難である.その一方で単位体積当りの励起エネルギーが大きく,利得係数も5~100/cmときわめて大きいため,通常は図に示す自然放出光増幅の配置が用いられる.すなわち,増幅媒質内部で,ほぼ一様に生じる自然放出光のうち,図に示すように媒質の端で発生した自然放出光が反転分布により,指数関数的に増幅される.十分に増幅され反転分布の大半がレーザー光に変換されると増幅の飽和が生じる.この飽和増幅を達成することが, X線レーザーの大きな研究・開発目標となっている.

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