この節では,近年研究されている新しいタイプの半導体レーザーについて概説する.一般に半導体レーザーには光増幅を行う活性層とそれを取り囲む光共振器が必要であるが,それら両方に関してさまざまな試みがある.

13・6・1 特殊な活性層

ここに取り上げる活性層の構造を図13・40にまとめる.

図13・40

[1] 新材料

レーザーに用いられるさまざまな半導体材料に関しては他節でも触れられているが,近年,特に多彩さを増している.従来は,波長1.3~1.6 μmの石英系光ファイバ通信波長帯をカバーするGaInAsP/InP系と波長1 μm以下の近赤外をカバーする(In)GaAs/AIGaAs系のほかには,赤色を発光するAIGaInP/AlGaAs系などのIII-V族半導体が実用化された程度にすぎなかった.近年は青紫色を発光するInGaN/AIGaN系のレーザー発振が成功し122),次世代の光ディスク用光源としての利用が決定しているほか,高温下で安定な特性を示す波長1.3 μm帯のGaInNAs/AlGaAsがLANやアクセスネットワーク用光源として実用化に近づきつつある123)

基礎研究されているものとしては,紫外域をねらうZnOや黄緑色をねらうZnCdSeなどのII-VI族半導体,GaInNAsなどと同様に光通信波長帯の次世代光源を目指すGaAsSb系,高ひずみInGaAs系などがある.また,これらの無機半導体だけでなく,有機半導体も大きな注目を集めている.チオフェンオリゴマーなどの有機材料では,光励起によるレーザー発振が得られていることに加え,電流注入による動作も期待されている.基板上に簡単な蒸着で形成できるため,超大面積レーザーなど新たな形態の応用が可能になるだろう124)

[2] 量子ドット

バンドギャップが狭い材料を一辺が数十nm角以下のドット状にして,バンドギャップが広い材料で完全に埋め込んだ活性層であり,高性能発光材料として20年以上にわたり研究が続けられている.電子準位が完全に離散化されるため,状態密度がデルタ関数状になり,孤立原子の場合と類似の狭発光スペクトルや桁違いに高い微分利得,安定した温度特性が期待されている125)

発光中心波長では,クラマース・クローニッヒの関係に従ってキャリヤ密度の変化に対する屈折率変化がなくなるため,理想的にはレーザー発振波長のゆらぎがない状態(ゼロチャープ)が実現できる126).また準位が電子で埋まっているときには,次の電子が同じ準位に入ることができないというクーロン・ブロッケイド現象が生じる.この性質を利用すれば,電子を1個ずつ光子に変換して放出する単一光子光源が実現できるため,量子暗号通信などへの応用が検討されている127)

このような量子ドットの形成には,電子線リソグラフィーとエッチング,および再成長を駆使する方法と,高ひずみ率材料をエピタキシャル成長することでドット形状を自己形成させる方法があるが,近年は後者が主流となりつつある128).材料としてはInAsやInGaAsが多く用いられているが,InGaN,GaInNAsなど,多くの材料に対しても研究されている.ただし,ドットの大きさのばらつきは,マクロ的に見たときの発光線幅の不均一広がりになってしまう.さらに現状では,ドットの密度が十分ではない.このため,実効的に大きな利得は得られておらず,レーザー発振を得るためには高反射コーティングのような共振器損失の低減が必要な状況である.したがって,ドットの大きさの均一化と高密度化が重要な課題となっている.

[3] トンネル接合

通常の活性層はp形とn形の半導体クラッド層にはさまれているが,一般にp形半導体はそれ自体の電気抵抗や金属電極との接触抵抗が高く,バンド内吸収による光損失も大きい.特に垂直共振器形面発光レーザーのように,層厚方向の電気抵抗や光吸収に性能が大きく影響を受けるレーザーでは,このp形層の問題は深刻である.そこでp形層を数百nm以下と部くし,その外側に高濃度不純物を添加したpnトンネル接合を配置する構造が研究されている129).トンネル接合では,電子を引き抜く形で正孔を注入することができるので,活性層では通常のバンド間選移による発光が起こる.

一方,電極と接する半導体はともにn形であり,ほとんどの電気伝導は電子が担うことになる.つまり,トンネル接合を用いれば共振器損失と電気抵抗が低減され,電流注入経路や狭窄方法,電極の設計自由度が大幅に拡大される.

[4] サブバンド間遷移

これは量子井戸内の伝導帯側の異なる量子準位(サブバンド)間での電子の遷移により発光を起こす活性層であり,伝導帯と価電子帯の間の遷移発光を利用する通常の活性層とは根本的に異なる.サブバンド間選移で誘導放出を起こさせるためには,下位準位に落ちた電子を速やかに引き抜いて反転分布を形成する必要がある.これには,分子層レベルで精密にエピタキシャル成長された複雑な多重量子井戸構造が利用される.多重量子井戸間で結合された電子の波動関数を電界印加によって変調し,上記のような反転分布を実現する.量子準位は量子井戸の厚さにより制御できるので,幅広い発光波長が人工的に設計できる点が大きな魅力である.同様の多重量子井戸構造を多段に積み重ね,全体に電界を印加すれば,1個の電子が何回も遷移を繰り返して光を放出するため,高出力化にも適している.

このような特徴から,このレーザーは量子井戸を縦列接続させたレーザー(量子カスケードレーザー)とも呼ばれる130)

当然のことながら,量子準位間のエネルギー差は晶子井戸のエネルギー障壁(伝導帯バンドオフセット)よりも小さい.したがってGaInAsP/InP,(In)GaAs/AlGaAsといった一般的な半導体を用いたときには,遷移エネルギーがたかだか数百meV以下と小さい.このため,このレーザーがカバーする波長範囲は数μmの赤外領域から数十μm以上のテラへルツ領域になる.この範囲ではオージェ非発光再結合が大きいため,一般に室温での高性能な動作がむずかしいが,低温領域では幅広い波長での発振が実証されており,環境計測用光源などへの応用が検討されている.また室化物半導体のようにバンドオフセットが数eVに及ぶようなヘテロ構造が可能な場合は,近赤外の光通信波長帯での発光も可能になる.これを目指した基礎研究も行われている.

電子のみを利用する活性用なので,トンネル接合の場合と同様に,電流注入はpn接合の場合よりもはるかに制約が少なくなる.2次元電子ガスを用いて電極から離れた位置にある活性層への注入を行った例もある.

13・6・2 特殊な共振器

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