活性媒質が液体であることの一般的特徴として,

(1) 任意の大きさの光学的に均一な媒質が安価に得られること.

(2) 循環によって冷却や劣化した媒質の除去が容易にできること.

(3) 成分の濃度や混合比,添加物などが自由に調整できること.

(4) 活性中心の波度が気体にくらべると高く,小型で高利得・高出力が得られること.

などがあげられる.このうち(1)~(3)は気体レーザーと,(4)は固体レーザーと共通した特徴とも考えられるから,液体レーザーは両者の特徴を併せ持っているともいえよう.装置の面から見れば,その基本的な性格は固体レーザーに近く,励起方式は一般に光ポンピングである.

これまでに開発された液体レーザーは,表12・9に示すように,無機液体レーザー,キレートレーザー(chelate laser)および色素レーザー(dye laser)の三つに大別される297).前二者はNd3+,Eu3+,Tb3+などの希土類イオンの発光を利用しており,そのレーザ一発振特性はガラスレーザーのようなアモルファス系の希土類固体レーザーの延長線上にある.それに対し1967年に初めて報告された色素レーザーは298),蛍光性有機分子の発光を利用している点に独特のものがあり,これまでに1000種類に近いレーザー発振する化合物が見出され,波長可変レーザー(tunable laser)として独自の分野を形成している.このほか,ここでは触れないが,ラマンレーザーに用いられる媒質にも液体のものがある.

表12・9

これらの液体レーザーの中で,実用に使われているレーザーは,いまのところ色素レーザーのみである297)~299).色素レーザーは波長可変レーザーの中で最も早く実用化したため,1970年代から90年代にわたって,レーザー分光学の革新的な進歩に大きな寄与をした.1990年代以降は,Ti:サファイアレーザーや光パラメトリック発振器(OPO)のような固体化された波長可変デバイスが発達し,色素レーザーの用途はしだいに制限されるようになってきている.しかし,色素レーザーは可視領域を中心とした重要な波長域を連続的にカバーしており,現在でも実用的に使われているレーザーである.また,利得バンドが広いためにモード同期をかけたとき,フェムト秒オーダーの超短パルスが得られるのも特徴である.現在では超短パルスの光源の主流は,Ti:サファイアレーザーなどより安定で高出力が得られる固体レーザーに移行したが,超短パルスの発生とその応用分野で色素レーザーが果たした役割は,歴史的に重要である302)

色素レーザーは,有機分子の励起一重項から基底一重項状態への許容遷移を利用したもので,狭い意味での「色素」に限らず,上述の遷移を使う有機分子レーザーの総称となっている.溶液としてだけでなく,プラスチックや有機結晶にドープした固体色素レーザーや,加熱して蒸気とした気体の色素レーザーもあるが,その基本特性はほとんど変わらない.最近ではプラスチック導波路に色素をドープし,分布帰途(DFB)によりきわめて小型化した集積型色素レーザーの開発がおこなわれている303)

これまでに開発された色素レーザーはすべて発光寿命が短い一重項遷移によるものである.長い寿命を持つ三重項遷移でのレーザ一発振は古くから研究されてきたにもかかわらず,まだその例がない.最近では,いわゆる有機ELの研究に刺激されて,電流注入による直接発光の研究もおこなわれている.2000年には「有機半導体レーザー」の発振が報告されたが304).その後,追試が不成功に終わり,この報告については疑問視されているが,DFB色素レーザーの低しきい値化が進み,電流注入型色素レーザーの実現も夢ではない状況にある305)

図12・62に,実用的な見地から見て,各種のコヒーレント波長可変デバイスがカバーする大まかな波長城の見取図を示す.

図12・62

12・5・1 色素レーザー

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