固体レーザー材料では,発振波長付近で透明な結晶またはガラス中に発光中心となる活性イオンを不純物として結晶を作る金属イオンなどと置換させている.固体レーザー媒質としての適性はレーザーイオンと母材の両面から判断される.不純物イオンとして要求される性能としては,鋭い蛍光線と,励起光源のスペクトルに合致した強い吸収帯を持ち,しかも高い量子効率を有することが望まれる.母材として要求される性能としては熱的・機械的に丈夫で加工がしやすく,均質で大きな寸法が安定にできることがあげられる.特に,母材が結晶である場合,組み合わせるイオンと同じ原子価,同程度のサイズの金属イオンを成分としていなければならない.

以下に固体レーザー材料に求められる特性について,より詳細に調べる.

12・4・1 希土類添加レーザー材料の比較235)~238)

[1] 活性イオン

遷移金属元素(Cr,Co,Niなど鉄族元素),希土類(ランタニド)元素(Nd,Yb,Er,Tm,Hoなど),アクチニド元素(Uなど)のイオンは固体中で鋭い蛍光線を出す.これらのイオンで,電磁波と相互作用する主な電子は,それぞれ閉じていない軌道にある3d,4f,5f電子である.スピン軌道相互作用(spin-orbit coupling)と結晶場(crystal field)とは,結晶中のイオンの電子エネルギー準位構造を決定する二つの重要な摂動である.どちらの影響が支配的であるかはイオンの種類により異なる.

遷移金属イオンの場合には結晶場の影響が強く.エネルギー準位構造は,結晶場と電子間クーロン相互作用とでだいたい決まり,スピン軌道相互作用は2次的な効果しか持たない.逆に,希土類イオンの場合には結晶場の影響は小さく,そのスペクトルは自由イオンの場合とあまり変わらない.結晶場摂動項のスピン軌道相互作用項に対する大きさの比は,希土類イオンでは遷移金属イオンの場合の数十分の1の程度である.すなわち,遷移金属イオンにくらべて希土類イオンの場合は結晶場の強さは1/10程度,スピン軌道相互作用定数は2倍程度である.一般に,ひずみや熱振動のため,結晶場は不均一で、あり時間的にも変動している.このために結晶場の影響を強く受ける準位の幅は広がる.対称性が低い結晶場にあって準位がシュタルク分裂(Stark splitting)を生じていると,その準位間で非輻射遷移する確率が高くなり,準位の幅を広くする.このような原因が重なって固体の示すスベクトルの幅は広くなる.遷移に関する上下のエネルギー準位がともに結晶場の影響を受けにくい場合にだけ,鋭いスペクトル線が得られる.

[2] 希土類イオン

希土類イオンの分光学的に特異な性質は,その不完全4f殻の電子によるものである.ランタニド元素の3価イオンの電子配置は(Kr殻)(4d)10(4f)N(5s)2(5p)6である.4f殻電子数NはLa3+(N=0)で始まり,それ以降,原子番号とともに1個ずつ増え,Lu3+(N=14)で完全殻となる.固体中の希土類イオンによる線状の発光・吸収スペクトルは,この不完全4f殻内での電子状態の変化による遷移であり,f-f選移と呼ばれる.f-f遷移によるスペクトルの特徴は,その線スペクトルの位置やスペクトル幅が,種々の結晶中にある場合にも自由ガス状態の場合とあまり大きく変わらないことである.これは,4f殻がイオンの最外殻でなく,その外側に8個の電子(5s25p6)があって,外界,たとえば結晶場の影響を遮断する役割をしているためである.f-f遜移は同一電子配置内での遷移であるため,電気双極子選移はパリティにより禁制されている.磁気双極子選移や電気四重極子選移による遜移硲率は小さく,振動子強度は10-6以下である.しかし,結晶中の希土類イオンでは10-6~10-5程度の振動子強度の遷移が見られる.これは,対称中心を持たない結晶場や格子振動によって一部禁制が解かれた電気双極子遷移によるものである.ここで,振動子強度とは吸収の強さを表す量である.

種々のイオンでレーザー発振が確認されている.なかでもNdによる発光は,高安定で高出力のCWおよびパルス動作が可能であるため,レーザー材料として最も一般的である.赤外域で1.4 μm以上の光は,1 μmの場合に対して105倍以上のエネルギーを目に入れても安全とされる.1.5 μmや2.0 μmでレーザー発娠が可能なEr,Ho,Tmはこのようなアイセーフレーザーとして期待されている239)~241).しかし,いずれも誘導放出断面積が小さく,量子効率が低い.また,アップコンバージョンが起きやすいなどの問題がある.Ybは原子量子効率が90%以上になり,また,レーザー上準位より上に準位を持たないためアップコンバージョンが起きないなど優れた潜在能力を持っている.

ここでは,実用的なマイクロチップレーザー材料としてNd系,Yb系に絞って解説する.

12・4・2 マイクロチップ固体レーザー材料

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