12・2・1 Nd:ガラスレーザー

Nd:ガラスレーザーは,レーザーとしては古く1961年Snitzerにより開発に成功している91).1970年に入り,大きなレーザーエネルギーを必要とするレーザー核融合用92)~94)として,固体レーザーの中でもガラスレーザー96)は一つのジャンルをなしている.

Nd:ガラスの特徴はNd:YAGなどの結晶にくらべて大きな形状のレーザー媒質を,高い光学的均質性で比較的安価に製造できる点にある.また,誘導放出断面積が一般的なYAGなどの結晶材料にくらべ1桁程度小さいので,寄生発振を生ずることなく大きなエネルギーを反転分布として蓄えることができる.このため,Nd:ガラスレーザーはパルス動作の大エネルギーおよび高ピークパワーレーザーに適している.

[1] レーザーガラス材料97)98)

ガラスは融点以上に加熱した溶融液体を固化させた非晶質の無機の固体で,光学的に等方性である.レーザーガラスの母体により,ケイ酸塩ガラス(SiO2:silicate),リン酸塩ガラス(P2O5:phosphate)・フツリン酸塩ガラス(LiF,AI(PO3)3:fluorophosphate)などがある.Ndとの相互作用の解析から,ケイ酸塩ガラスは,3次元網目構造で,リン酸塩ガラスは,2次元鎖状構造をしていると考えられている.図12・19にそれぞれのガラスの構造模型を示す.

たとえば,ケイ酸塩ガラスでは正四面体形の(SiO4)4-がその頂点の位置にあるO2-を介して立体的に結合して網目状構造(network)を形成し,これにアルカリ金属(Li+,Na+など),アルカリ土類金属(Mo2+,Zn2+など)などが修飾イオン(net work modifier)として網目構造に結合している.この網目構造には空間に大きな隙間があり,この中にイオン半径の大きなNd3+などが位置している.網目構造は周期性を持たない不規則な形であるので,近くのイオンからNd3+に作用する電界の対称性および強度は,それぞれのNd3+の位置により異なる.このことにより一般的に,ガラス中のNd3+の発光スペクトルは不均一な広がりを示す.

1970年代初期までケイ酸塩系ガラスが主流に使用されていたが,より高いピークパワーに適した非線形屈折率が小さく,利得の大きいリン酸塩系ガラスが使用されるようになった.近年,製造面で,通常の光学ガラスのような連続溶解技術が,レーザーガラス製造でも開発99)され低コスト化に成功している.

[2] 吸収・発光特性

リン酸塩ガラスLHG-8の吸収スペクトルおよび蛍光スペクトル100)を,それぞれ図12・20と図12・21に示す.フラッシュランプ励起では,主に580 nm帯および750~880 nm帯の吸収が寄与する.発光のピーク波長は,ケイ酸塩ガラスでは1.062 μm,リン酸塩ガラスでは1.054 μmである.

図12・20

図12・21

代表的なレーザーガラスの諸特性101)~105)を表12・2に示す.レーザー上準位の寿命は約300 μs程度である.レーザー下準位は,格子振動と相互作用してエネルギーを失い基底状態に緩和し,その寿命はケイ酸塩ガラスでは500 ps,リン酸塩ガラスでは250 psと報告されている106)107)

表12・2a

表12・2b

[3] 誘導放出断面積と飽和フルエンス

誘導放出断面積σはレーザー特性を決めるうえで非常に重要なパラメータである.Nd:ガラスはNd:YAGよりも蛍光スペクトル幅が広いので,そのピークの波長における誘導放出断面積はNd:YAGにくらべて1桁小さい.Nd:ガラスの増幅率は結晶媒質の場合より小さいが,大きなエネルギーを長時間媒質内に蓄えることができ,数J/cm2から数十J/cm2という比較的高いエネルギー密度のレーザー光を取り出すことができる.

反転分布密度をΔNとすると,小信号利得係数gはg=σΔNで与えられる.また,飽和フルエンスEsは,レーザー遷移を2準位系モデルで近似108)すると,Es=hν/2σ(hはプランク定数,νはレーザー光の周波数)となる.レーザーガラスの出力フルエンスに対する飽和フルエンスを図12・22に示す109)~112).単純な2準位系モデルでの増幅と少し異なり,不均一広がりの効果と考えられているが,出力フルエンスの増加に伴い,飽和フルエンスも大きくなる.

図12・22

[4] 非線形屈折率と自己集束

レーザー光の強度が増加すると,屈折率の電場依存性が無視できなくなる.物質の屈折率nは光電界の強さEと非線形周折率的に依存し,次式で表される.

式12・1

ここで,n0は線形屈折率であり,n2は非線形周折率である.n2はn0が小さいほど小さい値をとり,経験式として依存性がまとめられている113)

ガラスレーザーでは,高強度のレーザー光を,固体レーザー媒質中を長い光路長にわたって伝搬させるため,非線形屈折率の材料を強く受け,レーザー光の自己集束が生ずる.ガラスレーザー光のピーク出力は,この自己集束効果により限界づけられるので,n2は小さいほうが望ましい.

非線形光学効果によって,高強度レーザーでは,強度分布があると,ビーム内で位相差が生じ,強度一様性や,集光性が著しく劣化する.動作状態の指標となるB係数が次式で与えられる.

式12・2

ここで,λは入射光強度[W/cm2],zは伝搬長[cm],yは非線形周折係数[cm2/W],非線形屈折率n2はesu単位である.

B係数は小信号時と大出力時の位相差[rad]を表しており,パターン内の干渉効果を考えるとπ[rad](半波長:3程度)以下の動作が望ましい.代表的なレーザー材料の誘導放出断而積と非線形屈折率を図12・23に示す.

図12・23

ケイ酸塩レーザーガラスLSG-91Hは,n2=1.58×10-13 esuであり,フッリン酸塩ガラスLHG-8の非線形屈折率は,n2=1.13×10-13 esu,フッリン酸塩ガラスLHG-10のn2は0.61×10-13 esuである.誘導政出断面積も,一般的にリン酸塩ガラスのほうがケイ酸塩ガラスより大きな値をとるため,低い非線形屈折率のリン酸塩ガラスがより高出力レーザーシステムに適している.リン酸塩ガラスの開発後,非線形屈折率のより小さいフッリン酸塩ガラスが開発された.しかしフッリン酸塩ガラスは,混入した白金除去がうまくできず,高いレーザー破壊しきい値が得られなかったため,大型システムでの使用はなされていない.

[5] 光路長の温度係数

ガラスレーザーの欠点は,熱伝導率が小さいことである.繰返し動作では,励起光によってロッド内部の温度が上昇し,その結果,光路長の変化および複屈折を生じ,発振の効率低下や発振の停止に至る.

レーザーガラスの組成の調整によって,屈折率の温度に光路差の変化dn/dTを負にして,線膨張率αによる光路差の変化を打ち消し合い,光路長の温度係数を非常に小さい値にできる.高繰返し動作に適したレーザーガラスの製作が可能である.

光路長の温度係数dS/dTは次式によって与えられる.

式12・3
式12・3

LHG-8はdS/dTが+0.6×10-6である.フラッシュランプ励起で約30 ppsまで高繰返しが可能であり,8%の高ドープ。のものは10 ppsまで出カはほとんど変化しない114)

[6] 熱耐力

ガラスレーザーを繰返しパルス動作させる場合,レーザーガラス中の不均一温度分布により大きな内部応力が生じ,これが破壊限界を超えるとレーザーガラスが破損する.したがって,高繰返し動作には,レーザーガラスの機械的強度が強いことが望ましい.材料の熱に対する機械的強さを表す物性値として,熱衝撃係数RTがある115)

式12・4

ここで,xは熱伝導率,νはポアソン比,αは熱膨張率,Eはヤング率,STは破壊限界応力である.

熱伝導率x,ポアソン比ν,ヤング率E,破壊限界応力STはガラスの組成を調書室しても大きな変化はしない機械定数であるが,熱膨張率αは調整可能な定数である.熱膨張率をゼロになるように組成の調整をおこなえば,高い熱衝撃係数RTを有するレーザーガラスができる.HOYAのHAP-4,SchottのAPG-1,APG-2116),KigreのQ-89のガラスが高い熱衝撃係数を有する.また,化学反応,表面の破壊限界応力を向上させて高い熱衝撃係数を得る開発117)118)も進められている.熱衝撃係数の大きな石英材料を母材としたレーザーガラスも研究119)されている.

ロッド型の場合の熱破壊限界(最大吸収パワーで示す)Pa Rodは,次式で表される.

式12・5

lは長さである.ロッド型の熱破壊の限界はロッドの口径に依存せず,長さで決定される.

スラブ型の場合の熱破壊限界Pa Slabは,次式で表される.

式12・6

wはスラブの幅,tはスラブの厚み,lはスラブの長さである.

[7] 超短パルス発振と超高強度レーザー

ガラスレーザーの蛍光スペクトルは半値幅で20 nm程度と比較的広い帯域を有する.均一広がりとして順は10 nm程度と推定され,光パルス幅として,100 fs程度まで応答可能である.

SchottのLG-810ガラスを用いた,CWモード同期発振で,ファブリ・ペロー型可飽和ミラー使用して60 fsパルスを発生した120).またSchottのLG-750ガラスで,175 fsパルスで1 WのCW出力が得られている121)

高ピークパワーでは,1996年LLNLのPerryらがNovaの1ビーム(58 cm口径)でチャープ増幅をおこない,74 cm幅の金コートのグレーテイングで圧縮して,エネルギー620 J,パルス幅430 fs,ピークパワーの公称値1.25 PWを達成している122).2000年に,大阪大学ではビーム口径50 cm,94 cmの金コートのグレーティングを用いたペタワットレーザーが開発され稼働中である123)

図12・24に高ピークパワーのガラスレーザー開発の発展を示す.

図12・24

[8] 高平均出力レーザー

1980年代後半から急速に,固体レーザーの高出力化のブレークスルー技術としてスラブ型レーザーが開発された.ロッド型のレーザー媒質を用いる固体レーザーは,レーザー媒質内で発生する熱ひずみや複屈折効果のため,高出力化のための強い励起をおこなうと,ビームの発散角が増大しビーム品質が著しく低下するといった現象の抑制がむずかしい.スラブ型レーザーの場合,レーザー光が媒質内をジグザグに伝搬するため,温度勾配および利得分布が光軸方向に生じ,熱ひずみなどが相殺され,強い励起状態でも,容易に高出力レーザー光が得られ,かつ良質なビーム品質のレーザー光が得やすい構造である124)~126)

スタンフォード大学のReedらは,スタティックガラス冷却方式を考案し,水位冷で0.2 mmの空気層からレーザーガラスを熱伝導で冷却する構造のレーザーヘッドを用い,フラッシュランプ励起15×4.5×0.63 cmのLHG-5で1 Hz動作10J,10 Hz動作2.3 Jのエネルギーで,平均出力23 Wを得た127).Egglestonらは,フラッシュランプを2枚のレーザーガラスではさんだデュアルスラブヘッド構造を考案し,35×5.6×0.63 cmのLHG-5で3フリンジ以下の波面ひずみを得た.またその条件で発振出力80 Wの設計提案をした128).Basuらは,冷却能力を高めるためムービングスラブ構造を考案し,16.7×15×0.44 cmのLHG-5ガラスで繰返し10 Hz動作で43.8 W,30 Hz動作で13.5 Wの平均出力を得た129).また,ムービングスラブ構造でLHG-5ガラスを用いた1 kW平均出カの設計提案をしている130).大阪大学レーザー研では,スプリットカラス構造のディスク増幅器を初めて開発し,高繰返し動作時のガスの冷却効果や,熱ひずみの効果を実験的に計測し,計算解析との比較をおこなった131).米国LLNLではフラッシュランプ励起で,40×14×1 cmガラススラブを用い,25 J出力で6 Hzの繰返し運転を実現し,150 Wの平均パワーを達成している132).大阪大学では,レーザー核融合炉用ドライバー技術133)~135)として,大規模なLDモジュールを開発136)し,LD励起で,520×12×2 cm HAP-4を用いた10 Hz・10 J装置の開発がおこなわれている137)

図12・25に10 J・10 Hzの半導体レーザー励起水冷ジグザグスラブ型ガラスレーザーHALNA 10システムを示す.

図12・25

12・2・2 石英レーザー材料

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