本節ではレーザー光線の指向性を利用し,遠隔点に高密度パワーを伝送し利用する技術について述べる.ビーム伝送応用技術は多くがレーザーの発明当初より提案され,研究が進められてきている.ここでは遠隔点でエネルギーを利用するという前提が本質的である応用技術について概説する.これらのカテゴリに含まれる技術はレーザー誘雷,レーザー推進,宇宙テブリ除去,宇宙エネルギーネットワークなどである.

これらの技術は実用化レベルには達していないが,長年の構想の段階を経て近年実用化に向けた実証研究が進展しており,それら技術の原理および研究の動向についでまとめる.

46・7・1 レーザー誘雷

[1] レーザー誘雷研究の変遷

レーザー誘雷は高強度レーザーパルスを大気中に伝搬させて電離チャンネルを生成し,その導電性を利用して雷放電を誘起し,安全な場所に雷電荷を誘導する避雷技術である.その原理は1970年代にBallらにより提案され147),米空軍などの研究グループがパルス炭酸ガスレーザーを刷いた最初の自然雷を対象にしたレーザー誘雷の実証実験をおこなった.この実験は雷雲と地上の中間部に電離チャンネルを生成し,そこからの両極性リーダ(bidirectional electric leader)を発生させようと試みたものである.しかし炭酸ガスレーザーの波長では大気中のエアロゾル(浮遊微粒子)が電離するレーザー強度しきい値が低いため,発生する電離チャンネルはエアロゾルがプラズマ化した離散的に分布する「プラズマビーズ」の集合体であった.このプラズマチャンネルは放電を誘導する機能が低く,世界最初のレーザー誘雷の試みは失敗に終わった.

その後,誘雷の研究は救難信号用ロケットに金属ワイヤを取り付け,雷雲へ向けて打ち上げる「ロケット誘雷」が主流となった.この研究ではロケット先端からリーダが雷雲に向けて進展を始め,その結果,雷雲からの主放電が誘起され誘雷に至る「トリガ雷」現象が見出された.レーザー技術総合研究所,大阪大学および関西電力の研究グループは,このトリガ雷の現象に着目し,レーザー誘雷に応用することを試みた.トリガ雷は北陸地方の冬季需など雲高が低く大地との間に形成される電界強度が高い場合に,鉄塔などの先端からも発生することが知られている.このトリガ雷をレーザーにより能動的に誘発する研究が1990年代初め頃から開始された143).この研究には放電を「トリガ」するための強電離プラズマを生成する必要があり,高出力が発生可能な炭酸ガスレーザーが用いられた.炭酸ガスレーザーを用いた研究は冬季雷を対象とした野外実験まで進められ,1997年には世界で初めてレーザーにより自然雷をトリガすることによりリターンストロークと呼ばれる雷雲の電荷を地上に誘導することに成功し,技術の原理実証を達成した.

図46・28にレーザー誘雷野外実験サイトの概要を示す.レーザー誘雷システムは高出力パルスレーザー装置,集光装置,誘雷鉄塔および雷雲活動モニターなどで構成される.誘雷鉄搭は,その先端に電界を集中させてレーザープラズマが生成したときにリーダが発生しやすくするため50 mの高さになっている.レーザー装置は誘雷塔先端のターゲットおよびその上空にプラズマチャンネルを生成するのに十分なエネルギーとパワーを投入できる能力を持っている.実験では電子ビーム制御型TEA炭酸ガスレーザーを用いた.不安定共振器によるゲインQスイッチ型パルス動作により10 ns 1 kJを達成した.集光装置はカセグレン型反射鏡で,50 m上空の鉄塔先端で大気絶縁破壊を発生させるのに十分な集光強度を得るために1 mの口径を持つ.

図46・28

レーザー誘雷を実現するためには雷雲の状況を正確に把握してプラズマをタイミング良く生成することが重要である.そのために種々の雷雲観測装置が導入された.雷雲の動きはサイトから数十kmの範囲をカバーする気象レーダ,数kmの範囲をカバーする針端コロナ計ネットワーク,さらに誘雷サイト上空の詳細な状況はフィールドミルや局地レーダおよびUHF波の電波干渉計などを用いて雷雲の発達から雲内放電の状況まで多角的に観測された.レーザーを発射するタイミングは,最終的には雷雲内に発生する前駆放電(preliminary breakdown)を電波干渉計でモニターし,誘雷の可能性を自動的に判断しておこなわれる.

レーザー誘雷の野外実験で得られた結果を図46・29に示す.これはレーザーでトリガされた上向きリーダをCCDカメラでとらえたものである.リーダが上向きに枝分れして誘雷塔先端のプラズマから雷雲に向かって放電が進展したことが,示されている.

図46・29

一方,レーザー誘雷を避雷技術として完成させるためには鉄塔先端近傍で発生したトリカ雷を雷雲まで進展させる必要があり,これには長いプラズマチャンネルを形成して放電を導く.これに適したレーザーとしてエキシマレーザー149),フェムト秒レーザー150)や固体レーザーの高調波151)を用いる研究も進められている.

[2] レーザー誘雷の原理

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