短パルス超高強度レーザーと物質との相互作用において,レーザーの電界強度が強くなり振動電子の速度が相対論的になると,容易にメガ電子ボルトを超える高いエネルギーの電子が高密度で発生し物質中をジェット状に伝搬する.高エネルギー電子の密度は固体中の逆起電流により,電荷中性を保つことでアルフベン限界をはるかに超えて伝搬することができる.このような高密度高エネルギー電子のエネルギーに対応したエネルギーの制動放射などで,これまでにない高輝度なパルスγ線が発生する58)59).また,パルス高エネルギー電子の伝搬に伴って発生する局所的な超高静電場などにより高エネルギーイオンが発生する60).これら高エネルギーイオンや高輝度γ線による陽電子61)や中性子60)などの核反応物質がパルス状に発生する.このような高エネルギー粒子やγ線発生は,単に学問的新規性を有した相対論プラズマ物理の理解のみならず,ほかに類を見ない高輝度のパルス放射線源として応用の観点から注目されている.たとえば高密度高エネルギー電子による新しい高効率慣性核融合点火方式62)や高密度高エネルギーイオンによる医療用短寿命放射性同位体生成63)をはじめとした医療応用,新しい高輝度パルス中性子,γ線源による物性研究などが考えられている.

本節では,超高強度レーザーと物質との相互作用において高エネルギー電子,イオンが発生する原理を簡単に述べ,これら高エネルギー粒子発生に伴うγ線や核反応について概要を述べ,超高強度レーザー生成パルス放射線,特にγ線を中心とした新しい放射線源の応用の可能性について言及する.

46・3・1 超高強度レーザーと物質との相互作用

超高強度レーザーが物質と相対論的な相互作用すると,まずメガ電子ボルトを超える高エネルギー電子が高い効率で発生する64).この高密度高エネルギー電子により高い輝度のパルスγ線が発生したり,高エネルギーイオンが生成される.ここでは超高強度レーザーで発生する高密度高エネルギー電子の発生機構と,これに伴うパルスγ線,高エネルギーイオンの発生機械について簡単に述べる.

[1] 高密度高エネルギー電子ジェットの発生

超高強度レーザーが物質と相対論的な相互作用する際に,高エネルギー電子を生成する機構はいくつかある.たとえば,レーザーの航跡場65)による電子の加速とか,レーザー電界によるベータトロン加速66)などがあるが,ここでは最も基本的な急峻な密度勾配を持ったプラズマ中での吸収機構による高速電子の生成についてふれる(図46・8).p偏光の電磁波がプラズマの密度勾配に斜めに入射したとき,その電界ベクトルは反射点において密度勾配の方向に振動する.この電界に誘起されてプラズマと真空中を電子が振動することになるが,高密度のプラズマ中に光の電界は十分侵入できず,結果として電子は高密度側に加速する.これは擬似共鳴吸収67)と呼ばれ,レーザーの電界ELによりωL周波数で振動する速度v~eEL/mωLに対応した高エネルギー電子が生成される.波長1 μmにおいて3×1018 W/cm2になると電子振動速度は相対論的となり,メガ電子ボルトを超えるエネルギーの電子がターゲット内部へ加速される.

図46・8

レーザーがs偏光あるいは直入射のときは,急峻な密度勾配のプラズマに対して同様の吸収機構が電磁界で起こる(JXB加熱)68).直線偏光の電界をE=EL(x)(sinωLt)式1119iとすると,電子と電磁波の運動方程式よりレーザー光のポンデアモーティブ力は,

式46・1

と記述される.ここで,時間平均して現れる右辺第1項が輻射圧を示す.一方,右辺の振動項である第2項が加熱を誘引する.この吸収は擬似共鳴吸収と基本的には同じ(総称して真空加熱ともいう)であるが,電子はこの場合,レーザーの進行方向に対して2倍の周波数2ωLで振動する.高エネルギー電子のエネルギーεはポンデアモーティブポテンシャルφpで与えられるエネルギーに対応して,

式46・2

となる.ここで,γはローレンツ因子であり,aは電磁波の規格化されたベクトルポテンシャルである.

いずれにせよ,レーザー強度が相対論を超える領域になるとメガ電子ボルト以上の高エネルギー電子(図46・9)が,照射レーザーエネルギーの数十%を超える高い変換効率で発生し64),ターゲット内部に指向性を持ってジェット状に加速される(図46・10)69).発生する電子の密度はきわめて高く,伝搬物質内での帰還電流により真空中を伝搬できる限界電流(アルフベン限界)の数十倍から数百倍以上をはるかに超えた電子流が流れる.このような高密度高エネルギー電子ジェットが物質中を流れ物質と相互作用することにより,高輝度パルスγ線を発生したり,局所的な超高静電場が発生して高エネルギーイオンを発生する.

図46・9

図46・10

[2] γ線の発生

高密度高エネルギー電子ジェットが固体中を伝搬すると,集団現象を無視した最も簡単な場合,そのエネルギー損失は,軌道電子の励起・電離で失う衝突阻止能と原子核のクーロン場で制動放射による光子としてエネルギーを放出する放射阻止能で決まる.衝突阻止能は物質の密度で決まり,電子の速度の2乗に逆比例し,0.5 MeV以上になると高エネルギー領域ではほぼ一定となる.一方,放射阻止能は,Z2(Z:原子番号)に比例している.このため,高いエネルギー(0.5 MeV以上)の電子で高い原子番号の物質ほど放射阻止能が重要になる.

つまり,超高強度レーザー生成高エネルギー電子ジェット(数MeV以上)が高Z物質内を伝搬すると高い光子エネルギーの制動放射(γ線)を出す.このような相対論電子によるγ線の広がり角はほとんどなく,たとえば10 MeVの電子の場合,γ線の広がり角は1°である.したがって,超高強度レーザーから放出されるγ線の角度広がりは相対論的な高エネルギー電子ジェットに対応しており,指向性を有している.レーザーの吸収機構の違いに対応したy線の方向分布が観測されている.その結果を図46・11に示す64)

図46・11

p偏光の場合,電界方向に,s偏光の場合,レーザー進行方向に指向性を持ったγ線を放出する.超高強度レーザーによるγ線は,通常では伝搬できない高い密度の電子流によるもので(既述),そのパルス幅はピコ秒の単位でパースト状に発生する.このため1013 Sv/s以上という桁迎いに高い線量率となり,これまでにない新しいγ線源と考えられる.

[3] 高エネルギーイオンの発生

超高強度レーザーによるγ線発生のもう一つの方法として,高エネルギーイオンによる核反応生成同位体からのベータ+崩壊がある.超高強度レーザーによる高エネルギーイオンの発生機構はいくつかある.たとえばレーザー照射面で発生した高密度高エネルギー電子ジェットは,ターゲット内部を伝搬し裏面から真空中に一部が抜ける.このときターゲット裏面では誘導電荷が生じ,これと放出した電子により静電場(シース電場)が形成される.このシース電場によりターゲット裏面法線方向にメガ電子ボルトを超える高いエネルギーのイオンが放出される(図46・12)70).また,レーザー照射面においても,レーザーの強いポンデアモーティブ力により電荷分離が起こり静電場が生成され,この静電場でイオンが加

図46・12

速されたり,レーザーで加速された電子と取り残されたイオン間のクーロンカで牽引される加速などがある.前者はレーザー照射面ターゲット内部法線方向に,また後者は電子の加速方向にイオンが加速されることになる(図46・13)60).さらにレーザー強度が強くなると直接光圧力でイオンを加速することもできる.

図46・13

いずれにせよ,容易に数メガ電子ボルトを超えるイオンが数%程度のエネルギ一変換効率で高密度かつ指向性を持って発生する.この高エネルギーイオンと物質とが核レベルて相互作用すると,小さな領域でベータ+崩壌やガンマ崩壊するような同位体を生成(図46・14)し,γ線を放射する.

図46・14

46・3・2 パルス高輝度放射線応用

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