46・2・1 EUV-XUV光源

高出力レーザーパルスを集光すれば1012 W/cm2を超える照射強度を容易に実現できる.このような照射強度で固体表面を照射すれば,図46・1に示すような高温(100eV~keV)・高密度(1019~1022cm-3)のプラズマが生成される15).keV領域のX線は比較的低密度のコロナ領域から主に発生するが,比較的低温で高密度のアブレーション領域からは数十~数百eVのX線,すなわち極端紫外(EUV-XUV : extreme ultraviolet)光(数十eV~数百eV)が発生する.高出力レーザー技術の進歩により,現在では市販のレーザー装置を用いてもこのような高温高密度プラズマ発生が可能になっているが,かつては主にレーザー核融合研究用レーザー装置を用いてのみ可能であった.1980年代には,特に間接照射型爆縮研究における爆縮を駆動する軟X線の発生16)やX線レーザー研究17)などにおいて精力的に研究が進められた.また,当時としては数十年先に必要となると考えられていた半導体集積回路加工用EUVリソグラフィー光源としても,すでに注目されていた.

図46・1

ナノ秒(10-9秒)高出力レーザーパルスで固体ターゲットを集光照射すれば,励起に使用されるレーザーエネルギーの大半が低密度プラズマで吸収され,たとえば金のような原子番号の大きい物質をターゲットとして用いれば,いったん電子の熱エネルギーとして吸収されたエネルギーを7割近い変換率でEUV光へ変換することが可能となる(図46・2)18).このときEUV光のスペクトルは,発光に寄与する多くの電離状態を持つ多価イオンの束縛-束縛遷移,自由-束縛遷移,自由-自由遷移により形成されるので,複雑な構造を持つ.一般にレーザープラズマEUV光の場合,主に束縛-束縛遊移が主となるが,多数の線スペクトルが緻密に並んで準連続スペクトルにみなせる.たとえば金プラズマの場合,数百eV付近のEUV光はイオンの電子軌道N殻およびO殻での多数の選移によるものなので,多数の複雑な線スペクトル群を総じてN殻放射およびO殻放射のように称される.原子番号の大きな物質を用いたレーザープラズマから放出されるEUV光のスペクトルは,このような電子軌道ごとの準連続スペクトル群から構成され,黒体放射スペクトルとはならない.また,多価イオンからなるレーザープラズマの遷移放射を理論的に正確に解析することは非常に複雑であり,たとえば平均原子モデル19)のような近似を導入してEUV光の発光が解析されることが多い.原子番号の大きい物質におけるレーザープラズマでは,プラズマの温度密度の時間空間依存性を扱う際に,きわめて複雑な電離状態や原子状態を扱い,各イオンから放出されるX線の影響をある程度正確に扱う必要が生じる.したがって,間接駆動型爆縮のシミュレーションでは,このような扱いがなされている.

図46・2

2003年夏の時点で,半導体メモリの製造には波長193 nmのArFエキシマレーザーを利用したリソグラフィーが利用されているが,数年後にはEUV光を用いたリソグラフィーが必要となるといわれている20).このようなEUVリソグラフィー光源はレーザープラズマEUV光源の応用として非常に注目されている.1980年代にはレーザー核融合研究用のレーザー装置を用いてのみ可能であったのが,高出力レーザー技術の飛躍的な進歩により,現在では市販のレーザーを用いても可能となっており,むしろ実際にEUVリソグラフィー光源となるための平均出力の確保やターゲット供給技術の確立など技術的な開発が研究対象となっている.EUVリソグラフイー光源に要求される条件を表46・2に示す21)

表46・2

実用化光源となるためには,安定した高繰返し運転が可能である必要がある.ターゲットの供給やレーザー照射時に発生するデブリ対策の必要性から,ガスジェットターゲットやクライオターゲット,ドロップレットターゲット,液体ジェットターゲットなどが検討されている.また,高繰返し高出力パルスレーザーは半導体レーザー(LD)励起のNd:YAGレーザーが現在のところ有力であり,2000年の時点で1 kW/2.5 kHzのものが開発されている.

EUVリソグラフィーのほかにも,X線顕微鏡などの光源や爆縮プラズマ診断のプローブとしても魅力的である.特にフェムト秒(10-15)の高出カレーザーパルスによる高次高調波(8・4「高次高調波」参照)はEUV光としてコヒーレントな光源であり,パルス幅も励起レーザーと同程度か23),うまく制御すれはアト秒(10-18)領域のパルス発生も可能である24).このようなレーザー励起EUV光源は,将来的にまったく新しい研究分野を拓く可能性を持っており注目されている.

46・2・2 XUV-X線源

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