レーザー装置には多数の光学部品が使用されており,これらには電子ビーム法,イオンアシスト法,イオンビ一ムスパッタ法などによって誘電体多層膜が成膜されている.これらの光学薄膜は,その目的に応じて所定の光学特性を満足し,かつ長寿命・高安定性が必要である.また,高エネルギー密度のレーザー光に対しては十分な耐力を有しなければならない.光学薄膜のレーザー耐力は諸条件によって支配され,現状では多くの問題がある.光学薄膜のレーザーによる損傷機構は電子なだれ破壊90).多光子吸収による電離91),不純物吸収92)などが考えられる.したがって,高レーザー耐力の光学薄膜を製作するには,製作工程ごとにレーザー耐力に影響するパラメータを十分に把握しなければならない.設計においては,使用するレーザー波長での吸収ができるだけ小さい高純度の蒸着物質を選び,多層膜の製作においては低屈折率物質と高屈折率物質の膜応力を緩和する組合せとするほうがよい93).ミラーなどの高反射膜の設計では,膜内に発生する定在波電界強度がレーザー耐力に影響を与えるので,光学薄膜(QW:λ/4)の交互層からずらした光学薄膜(NQW)を用いて電界強度を減少させ,かつ最終層に膜厚λ/2の低屈折率物質をオーバーコートしてレーザー耐力の向上を図っている94).反射防止(AR)膜では,第1層目に膜厚λ/2の低屈折率物質をアンダーコートすることによってレーザー耐力を高めている95).蒸着に用いる基板の表面状態(表面粗さ,表層部の不純物付着や変質)は,レーザー耐力に大きく影響する.表面粗さが小さく,吸収層のない基板を準備することが重要である96)97).蒸着工程では,基板温度,真空度や蒸着速度,膜厚精度,膜厚分布に十分に配慮する必要がある.これらによって薄膜の屈折率,吸収係数,応力,レーザー耐力は大きく変わる97)

光学薄膜を製作する場合,膜設計から蒸着に至るまで多くのパラメータについて最適化を図り,薄膜のレーザー耐力を高めていく.

24・6・1 誘電体多層膜のレーザー損傷

[1] 薄膜の吸収とレーザー損傷

表24・8は,レーザー用に用いられる代表的な光学薄膜の吸収係数の波長依存性を示す98)99).低屈折率物質ではMgF2,LaF3,SiO2が,高屈折率物質ではAl2O3とHfO2の吸収係数が小さい.この吸収係数は,高純度の物質を最適条件で蒸着することによって小さくすることができる.表24・9は,波長248 nmでの各種光学薄膜の屈折率,吸収係数,内部応力を示している.

表24・8

表24・9

図24・34は波長1064 nm,パルス幅15 nsのNd:YAGレーザー光を各種光学薄膜(膜厚λ/4)に照射して得られた吸収量とレーザー損傷しきい値の関係を示す.図から明らかなように,レーザー損傷しきい値は薄膜の吸収が小さくなるに従って高くなっている.これは,YAGレーザーの第二,第三,第四高調波においても同様である.したがって,高レーザー耐力の光学薄膜を実現するには,できる限り吸収の少ない薄膜を製作する必要がある.

図24・34

表24・10は,イオンビームスパッタ法で製作した波長514 nm用のミラーにおける吸収と表面変形のデータを示す103).膜構成は[Ta2O5/SiO2]の交互層であり,多層膜による吸収量とミラーの変形量とが比例している.繰返し周波数が高く,ピークパワーの大きいレーザーでは,多層膜による吸収の増加は,レーザー損傷しきい値の低下,および蒸着面の波面ひずみの増加となるので注意すべきである.

表24・10

[2] 表面粗さの依存性

基板表面に欠陥があると,電界の集中が起こるためレーザー耐力は低下するので,蒸着用基板の表面粗さは小さいほうがよい104)

図24・35は,BK-7ガラス基板に[SiO2/ZrO2]5層構成のAR膜を蒸着し,波長1064 nm,パルス幅1.5 nsのNd:YAGレーザーを照射した場合の薄膜の表面粗さとレーザー損傷しきい値の関係を示す96).図から明らかなように,薄膜の表面粗さは少なくとも10式26irms以下となるように表面粗さの小さい基板を準備し,かつ薄膜形成による表面粗さの増加がないように蒸着する必要がある.

図24・35

[3] 蒸着条件の影響

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