X線レーザーの方式(既述)は,すでに利用研究に使用されており,多くの成果を生み出している.しかしながら,これらの方式で,X線の光子エネルギーを1 keV以上にするのは困難であり,別の方式を開発する必要がある.キロボルトX線レーザーとして内殻電離・励起過程を用いたX線レーザー発振方式が提案されている.

図16・7に,マグネシウム原子を例にとり,このXレーザー発振方式の原子過程を示す.高輝度X速電子を励起源として物質に照射すると,原子の内殻電子の電離が起こり(これを内殻電離と呼ぶ),内殻励起状態が生成される.この内殻励起状態は,X線を放出して低い準位に放射遷移を起こすが,このとき,内殻電離X線レーザーが発振する.この方式では,自動イオン化や電子衝突電離などの原子過程も起こる.

図16・7

この方式は,まず, DuguayとRentzepis62)が提唱し,Silfvastら63)が初めて実験室で実現させた.彼らの実験ではCd蒸気をターゲットとして,12 eVの黒体放射X線を励起源として用いて325 nmと442 nmの紫外線領域のレーザー発振に成功した.その後,いくつかの実験が行われたが64)~66),Kapteynらの実験で得られた発振波長108.9 nm(Xeターゲット)がこの方式の最短波長である65)66)

最近では,この方式の短波長化が検討されている.KapteynG67)は,600 eVの黒体放射X線を励起源として使用して「水の窓」波長であるネオンのKα線で約10cm-1の利得係数が得られることを理論的に示した.一方,Moonら68)は150 eVと500 eVの黒体放射を用いてネオンまたは炭素原子のKα線を用いて同様の結果が得られることを示した.Moonらは外殻電子の電離を防ぐためにフィルタを用いて低エネルギーのX線の量を減らすことを提案した.この発振方式では,原子の数密度が大きいと電子衝突電離により下準位のポピュレーションが大きくなり,レーザー発振時間を減らす働きがあることをAxelrod69)によって指摘されていたが,この二つの提案では,この効果を防ぐためにターゲットの密度を1019~1020 cm-3と比較的低くすればよいことも示した.また,励起用X線パルスの立上り時間がフェム卜秒程度であることが利得生成の条件とする計算結果もあり,超短パルス,かつ,高輝度X線源を開発することが最も重要な開発課題である.

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