ファイバレーザーは固体レーザーの一種で,光のモード伝搬を完全制御できる唯一のレーザーである,さらに最近ではフォトニック結晶ファイバのように物質定数の構造制御が可能になるなど,他の固体レーザーとは一線を画する特徴を有する.それらを可能にするファイバレーザーの諸特性を紹介する.

12・3・1 ファイバレーザーの構造

[1] ファイバレーザーの利得と損失

レーザー材料としての優劣を決定するのは利得と損失である.ファイバレーザーの活性媒質は石英ガラスを母体とするガラスレーザーで,光通信用にはエルビウム(Er)添加,高出力ファイバレーザーには,イッテルビウム(Yb),ネオジム(Nd),アイセーフレーザーやアップコンバージョンレーザーにはツリウム(Tm),ホロミウム(Ho)などの希土類が添加され,半導体レーザー(LD)励起で利得を発生する.

単一モードファイバレーザーの吸収・散乱損失は,図12・40に見られるように添加イオン量に比例して,通常のファイバレーザーでは数十dB/km程度の損失をもつ.10 dB/kmの損失を吸収係数に換算すると,α=2.3×10-5と極小の損失である.したがって,通常の固体レーザー程度の利得係数が実現されると,利得・損失比γ=g0/α>104 となる.このような大きな利得損失比は他のレーザーで実現することが困難で,ファイバレーザーが量子効率に近い効率でレーザー発振出力を得ることを可能にしている.

図12・40

[2] 単一モードファイバとマルチモードファイバ

通常の光ファイバと同じく,ファイバレーザーにも単一モードファイバとマルチモードファイバが用いられる.光ファイバの伝搬モードの制御方法にはステップインデックス型と分布屈折率型があるが,ファイバレーザーに用いられているのはステップインデックス型である.コアの屈折率をn1,クラッドの屈折率をn2とすると,NA=(n12-n22)1/2で定義される理論開口数NA以下のNAを持つ光のモードが伝搬する.また,単一モード光ファイバのLP01モードの電界分布を,円柱座標系(r,θ)でf(r)と表したとき,モードフィールド径は次の式で示される.

式30ページ

単一モードファイバレーザーでレーザー損傷を避けながら高出力を発生するには,大きなモードフィールド径が必要になる.そのためには,小さなNA値を持つファイバが適しているが,コアとクラッドの屈折率差が小さくなり,光の閉じ込め性能が小さくなる.一方,ファイバ光学系の特長を活用するには,ファイバを曲げても大きな伝搬損失を出さないことが重要で,極端に小さなNA値で,大きなモードフィールド径を可能とするのは現実的でない.フォトニックファイバを含め,両者のトレードオフ関係を調整する努力が続けられており,単一モードファイバレーザーの出力はkWレベルに到達するに至った.

光通信用のファイバとは異なり,高出力ファイバレーザーはコンパクトにまとめて装置化するので,一定の曲率を持ったボビンに巻き付けることが多い.わずかではあるが,ファイバには曲げ損失が生じる.基本モードであるLP01モードと高次モードとの間の曲げ損失差を利用することで,できるだけ大きなコア断面積で単一モード発振をさせるモード制御をすることも可能である.通常のレーザー共振器が回折損失のわずかな差を利用しているのに比べれば,一定の曲率半径を与えることで,モード間損失を設計しやすい利点がある,ただし,長大な利得長を持つファイバレーザーでは,光伝搬中にモード変換が容易なので,全体に分布曲率を与えることが必要となる.

[3] 二重クラッドファイバレーザー

ファイバレーザーは半導体レーザーという励起源を手に入れて,本当に実用的なレーザーに変身した.コア励起で研究が進められた磁気は,いくら優れた性能が発揮できるとしても,光通信用以外のレーザー応用に適したレーザー光源となるとは考えにくかった.なぜなら,励起用光源が単一ストライプ高輝度LDやTi:サファイアレーザーのような高輝度レーザーで,当然,出力は非常に小さかったからである.

しかし,図12・41のような二重クラッドファイバレーザーでは,大きな断面積とNA値を持つクラッドにLDバーの出力を結合させることが可能で,高出力レーザーとしての利点を持つことになった.高出力レーザー応用では,レーザー加工装置との技術的親和性からファイバ伝送に対する要求は極めて強い.例としてLD励起固体レーザーと図12・42のように比較してみると,その差は明白である.LD励起固体レーザーでは,いったん,高輝度レーザービームを発振させた後,その出力をファイバに導入して伝送させる.この場合,レーザー出力はファイバ伝送に必要な品質よりさらに良いものでなくてはならない.一方,LD励起ファイバレーザーの場合,品質の悪いLD光は,大きな断面積を持つクラッドに入射させることができれば充分で,その励起光はファイバレーザーのコア部で吸収される,レーザー発振は高輝度ビームしか伝搬できないファイバレーザーの出力として発生する,ここでは,励起光からレーザー光へのエネルギー変換がなされるだけでなく,光のモード変換・高輝度化,ファイバ伝送のすべてが2重クラッドファイバレーザーの内部で行われる.ファイバによる光伝搬の制御は完璧で,しかも利得長積式31ページi式31ページiiがきわめて大きいために,他の空間モードに逃げるエネルギーを考える必要がなく,ほとんど量子効率でエネルギーをレーザー光として引き出すことができる.

図12・41

図12・42

コアに吸収されたエネルギーを効率よくレーザー発振につなげることのできるファイバレーザーでは,実際的な効率を決定するのは,励起光の吸収効率となる.第一クラッドの形状と吸収効率を示した例を図12・43に示す.最も製作しやすい円形断面同軸クラッドでは,断面内空間モードを考えるとわかるとおり,中心部に電界強度のピークを持っていないモードは,コアに励起光を供給することができない.端面から入射した直後は効率よく吸収されるが,すぐに飽和して,相互作用しないモードの励起光は吸収されることなく伝搬してしまう.一方,矩形,D型,花形,不安定星形などの形状を持ったクラッドでは,伝搬中に連続したモード変換が生じるために,入射した励起光は平等にコアに吸収されることになり,10m以上,典型的には50 mもの長さを持つファイバレーザーにはほぼ100%吸収させることができる.

図12・43

12・3・2 連続発振ファイバレーザー

5~10 μmのコア径を持つファイバレーザーでは,他の固体レーザーに比べてレーザー媒質内のレーザー光強度がはるかに高いので,パルス動作では,非線形現象が容易に発生し,媒質の破壊限界をはるかに越えてしまう.一方,連続発振モードでは極小の吸収係数が有利に働き,高出力レーザーとなることができる.石英ファイバのレーザー光によるレーザー損傷強度は2 GW/cm2程度と考えられており,10 μmコアのファイバで2 kW程度に限界がある.さらに誘導ラマン散乱(SRS),誘導ブリルアン散乱(SBS)発生のしきい値限界が存在して,ファイバ長の長さに制限が加わる.その為,それ以上の高平均出力を発生するためのファイバレーザーでは,コア径の太いマルチモードファイバや多束ファイバが用いられるようになる.

高出力の連続発振ファイバレーザーに用いられるイオン種は,NdとYbである.Ndは4準位型のエネルギー構造をとっているため,基底状態からの吸収がなく,通常の固体レーザーではもっとも効率の良いイオン種である.励起源としては,808 nmの半導体レーザーを用い,1060 nmで発振する.最初に高出力半導体レーザーが開発されたのも,この波長であった.一方,Ybイオンはエネルギー準位が単純で図12・44(b)に示すように,2F5/22F7/2の2つの準位しかなく,励起状態吸収も存在しない.2F5/22F7/2のサブレベル間の 光学遷移を利用してレーザー発振を行う.Yb添加ファイバレーザーの場合,915 nm,941 nm,978 nmで吸収したエネルギーを下準位のシュタルク上準位に光学遷移してレーザー発振する.発振波長はレーザー出力によって波長シフトする.Ndに比べて,量子欠損が少なく,88%(915 nm),91%(941 nm),95%(978 nm)の量子効率を実現することが可能である.下準位には熱的励起分布があるが,室温動作でも,強力な励起で吸収飽和を起こし,高効率動作をさせることができる.実際,Yb添加ファイバレーザーでは,90%近くの高い光・光変換効率で動作させることも行われている.通常の固体レーザーの場合に比べ,ファイバレーザーでは効率的な励起が可能なので,高出力ファイバレーザーの主流はYb励起になっている.

図12・44

12・3・3 エルビウム添加ファイバ増幅器

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