高出カレーザー生成プラズマ応用による新しい実用化研究が切り開かれようとしている.高山力レーザーと物質との相五作用で発生するプラズマは,高温・高密度であり,これまでにない高いエネルギー密度の環境を実現できる(高エネルギー密度科学).レーザープラズマによる超高圧環境も比較的容易に作ることができ,超高圧物性研究に必要不可欠なツールとなりつつある.また,地上で得られる極限状態を可能にすることから,実験室で宇宙の状態を模擬する実験室宇宙物理の研究が展開されようとしている.さらに,高出力レーザープラズマから発生する電磁波はテラヘルツからガンマ線に至る幅広い領域をカバーするだけでなく,高いエネルギー密度状態のプラズマから発生する電磁波は,これまでのどの線源の電磁波より輝度が高い特徴を有している.レーザープラズマから発生する極端紫外光(EUV光)による趨微細加工は実用化段階に近づいてきている.

また,近年の短パルスレーザー技術の進歩により,サブピコ秒以下のパルス高輝度放射線を容易に発生することができるようになり,その応用範囲が大きく広がろうとしている.サブピコ秒における過渡現象診断の可能性や極短時間現象制御の可能性から化学,物性物理,プラズマ物理,レーザー工学,放射線工学,核融合工学といったさまざまな分野において革新的な展開がなされようとしている.

本章では,まずレーザープラズマ光量子放射現象の応用として,高輝度X線-ガンマ線,パルス放射線と核変換,粒子加速について述べる.また高密度プラズマ流体応用として超高圧環境における状態方程式や宇宙・環境応用に関して述べる.

46・1・1 光・量子放射応用

レーザープラズマから放射される高密度の電磁波(EUV領域からX総領域)は,超微細半導体製造実用化のための高輝度EUV点光源開発からXUVレーザー,高次高調波などのコヒーレント制御にまで発展している.EUV光源は,1980年代にレーザー核融合研究の一部としてその発生物理の詳細が調べられはじめた1).1990年代,小型レーザーにより本格的に応用を目指し発生特性が明らかにされ2),2000年代に実用化に向けた研究が進められるに至った.

一方,XUV(軟X線)レーザーは,1970年代に高出力レーザーを使って高密度・高温プラズマを生成する方式の実験が開始され,1984年に米国において軟X線の自然増幅が観測された.これによりX線レーザーの本格的な開発の幕が切って落とされた3).世界はより高出力のレーザーを使用して,より短波長・高出力化の研究に傾斜した.1990年代半ばまでに,飽和増幅の達成4),水の窓領域における増幅5),プラズマ診断技術への応用6)などの成果が出た.これらの成果は,ほとんどが核融合用に開発された高出カレーザー励起により実現されたものであり,「第一世代のX線レーザー」と呼ばれている.1990年代より,超高強度短パルスレーザー技術の進展に伴い,より効率の高いX線レーザーを目指した研究が中心になってきた.より小型の超高強度レーザーを励起源として用いる「第二世代X線レーザー」は,さまざまな物理過程による反転分布が種々観測された7).2000年代に入り,「第二世代X線レーザー」研究の継続とともに,タンパク質やDNAなど分子レベルの時間的構造変化8)や相転移物性研究などへのX線レーザーの本格的な応用を目指した研究に重点が置かれるようになってきている.実用性を目指した「第三世代X線レーザー」研究の始まりともいえる段階にきている.

近年の短パルスレーザー技術の進展は,超高強度レーザーを幅広く普及させ,波長城においてこれまでにない幅広いダイナミックレンジを有した新しい量子放射源を可能にしつつある.数十TW程度までの超高強度レーザーは,テラヘルツから軟X線領域の短波長コヒーレント光を効率良く発生する.これらは,電子分光による新しい物質構造解析や新物質創成の可能性,新医療システムの可能性を秘めており,物性物理から生物,医療分野までその応用範囲が広がろうとしている.さらに,高調波発生はアト秒パルス生成9)という極限状態を可能にする一つの手段としても注目されている.また,超高強度短パルスレーザーを物質に集光すると,プラズマとの相互作用により高速電子を大量に発生することが可能となる.このような高速電子により物質を構成する原子の内殻励起により,短パルスKα線を発生させ,物質の構造変化などをピコ秒の時間分解で観測できる10).さらに,数十TWからPWレーザーにより実現きれる超高電磁場においては,相対論プラズマ物理という世界が広がっており,高効率に高エネルギー粒子やγ線の発生を可能にしている.このような相対論プラズマの制御により,新しい粒子加速,新しい点火方式の核融合,医療技術が発展しようとしている.たとえば,高エネルギーの電子ビーム発生法としてレーザーを使用した電子加速は1979年に提案された11).この電子加速は,核融合用ドライバーレーザーなどの高出力レーザー技術の発展とともに進歩し, さらに超高強度短パルスレーザー技術により新しい展開を見せようとしている.超高強度短パルスレーザーによるプラズマ航跡場を利用した粒子加速が現在,精力的に進められ,数百メガ電子ボルトを超える加速に成功している.また超高強度レーザーの強度を上げると,プラズマから発生する高輝度パルス放射線の量子電磁力学(QED)効果による高密度陽電子の観測やパイオンの発生が予測されている.さらに,逆コンプトンを利用したβ線と超高強度レーザーとの光-光衝突による非線形な対生成は,非線形量子電磁力学効果(nonlinear-QED)として活動銀河核やファイアボールなど宇宙研究に役立つものとなる.

レーザー強度が,もしエクサワットの領域までいくと集光強度は1024~25 W/cm2となり,光子圧力は3ペタバールにも達する.直接,光子から場子に運動量を変換する過程が支配的になってくる.粒子の平均エネルギーも100 GeV近くなり,非線形量子電磁力学効果による陽電子の発生も起こるものと考えられる.超高強度レーザープラズマによる量子放射制御は,電場の強さに応じた非線形効果を利用した幅広い(テラヘルツの電磁波からGeV-TeVの電磁波,粒子,素粒子)エネルギー変換技術ともいえる(表46・1).

表46・1

46・1・2 高密度プラズマ応用

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