45・4・1 炉周固体レーザー

核融合エネルギーは,地球規模の環境問題を解決し,人類が21世紀に文化的な存在として生存しつづけるために必須のクリーンで豊富な新エネルギー源である.レーザーを用いた慣性核融合(レーザー核融合)の最近の進歩は目覚ましく,パワーレーザー技術の進歩と相まってレーザー核融合方式は動力炉を構想し,具体的な開発課題を分析し,戦略を構築することが可能な段階となってきた59)

レーザー核融合炉の主要な構成要素は次の四つからなる.1)燃料サイクル(高効率ぺレット設計および製造),2)爆縮ドライバ(固体レーザー,KrF気体レーザーあるいは粒子ビーム),3)炉チャンバ(炉容器およびプランケット),4)熱・発熱サイクルおよび制御・安全管理システムである.レーザー核融合動力炉開発の大きな特徴の一つは,これら4要素がそれぞれ独立に開発が進められ,パワープラン卜においても独立の建屋に収納しうることである.これにより開発戦略の効率化が図られるとともに,プラントシステム設計における最適化が可能となる60)

レーザー核融合用ドライバとしては,これまでに主として固体レーザーが用いられてきている.図45・32にレーザー核融合高出力固体レーザーの進歩を示す.

図45・32

点火・燃焼実験用の数百kJから数MJのレーザー建設の技術は,現有技術の延長上にあり,米国で1997年より,核融合点火実証実験施設NIF(National Ignition Facility)の建設が開始された.NIF団体レーザー(Nd:力ラスを使用)は出力エネルギー1.8 MJ,ビーム数192で計画建設費は,約$3B(約3千億円)であり,2013年頃には間接照射法で核融合利得10~15の点火実証をおこなう計画である.また,フランスでも同様の計画LMJ(Laser Mega Joule)が進められており,LMJの出力2MJ,ビーム数240であり,2010年前後に炉心プラズマの発生法が確立されようとしている59)60)

爆縮による核融合点火・燃焼を実証するためのシングルショット動作のレーザー装置NIFとLMJの建設開始を受け,高繰返し動作可能な動力炉用ドライバとしての高効率で高平均出力固体レーザーの開発研究が日・米で1997年より開始された.このために,最近急速な進展を見せている半導体レーザー励起固体レーザー(diodepumped solid-state laser:DPSSL)61)62)が,コストを含めて炉用ドライバとして大きな可能性を持つものとして注目されている.

ここでは日・米におけるDPSSLの開発状況を中心に紹介する.

[1] DPSSLドライバの概念設計

レーザー核融合炉用ドライバには,波長200~500 nmで2~4 MJパルス出力エネルギーを,10~20 Hzの繰返し率,ならびに10%以上の効率で実現できるレーザーが必要とされる60).DPSSLの出現により,高効率・高繰返しの固体レーザーが実現できるようになり,DPSSLは炉用ドライバの有力な候補として期待されるようになった61)62).このようなレーザーはマルチビームの増幅システムで構成される.1ビーム当り,あるいは一つの増幅器モジュール当りのパルス出力エネルギーは,1~10 kJと予想される.これまで,日・米においてNd:ガラスやYb:S-FAPなどをレーザー媒質とするディスク型増幅器を用いるレーザーシステムの概念設計がおこなわれてきた.これらの概念設計では,いずれも,高速のHeガス流によりレーザー媒質を冷却するかス冷却が採用された63)64).最近,わが国において,Heガス冷却より1桁程度大きい冷却能力を有する水冷方式のジグザグスラブ増幅器を用いた炉用ドライバが新たに設計された65)

ディスク型増幅器ではレーザー光が冷却媒質中を伝搬するため,水冷方式を用いることができなかったが,ジグザグスラブではレーザー光路がレーザー媒質中に閉じ込められるため,水冷方式の採用が可能となった.増幅器モジュールは波長350 nmにおいてパルスエネルギ-10 kJを繰返し12 Hzで発生できる.モジュールは15のビームレットで構成され,一つのビームレットが増幅器としての単位ユニットとなる.ユニット増幅器の出力は,波長1053 nmにおいて1 kJである.スラブ増幅器は,4パスの前置増幅器と4パスの主増幅器の両方の役割を果たす.マルチパス増幅の導入により,発振器と2台のスラブ増幅器だけの単純な構成で高出力が実現できる.なお,レーザー媒質にはNd:ガラス(HAP4,Hoya製)が用いられている65)

[2] HALNA DPSSLドライバモジュールの開発

水冷方式のジグザグスラブ増幅器を用いたHALNA(High Average-power Laser for Nuclear fusion Application,ハルナ)DPSSLドライバモジュールにおいて,ユニット増幅器の出カエネルギーは1 kJ,繰返し率10 Hzで,平均出力は10 kWである.1パルス当りの出力が1 kJと大きく,大きなレーザー媒質を必要とする65).増幅モジュール開発の第一ステップとして,10 Jの小型モジュール(HALNA 10)の開発が進められている(図45・33)66)

図45・33

10 Jモジュールの目的は,ドライバ開発の主要な課題を研究し,概念設計を確認することである.このため,Nd:ガラススラブの厚さ(2 cm),スラブ中での光路長(52.3 cm),半導体レーザー(LD)の励起強度(2.5 kW/cm2)を10 kJモジュールの設計値と等しくしてある.

HALNA 10(図45・34)を励起する803 nm-A1GaAs LDアレイ(浜松ホトニクス製)は,25層のLDバーを厚き1 cmに積層したものであり,必要な出力強度2.5kW/cm2が達成された67).これを横方向に40個並べ,ピーク出力110 kWを得ている.このLDを2組用い,ピーク出力220 kWのLD励起のもとでの,スラブ内の蓄積エネルギー密度,前置増幅器および主増幅器の両方の役割を果たすスラブ増幅器中での小信号利得,スラブ内での温度分布などの基礎データを取得し,ほぼ設計値どおりの動作を確認した66).これまでの実験で1パルス当り8.5 J(パルス幅20 ns,繰返し率0.5 Hz)の出力が待られており,回折限界の2倍程度の集光特性が得られることを確認した.また主増幅部での透過率を改善することにより,設計目標値の10 J出力を繰返し10 Hzで実現できる見通しが得られた66).なお,図45・33において,熱レンズ効果がガリレオ型望遠鏡で,熱複屈折効果が45°ファラデー旋光子によって,補償されている.

図45・34

さらに,LD励起された水冷方式ジグザグスラブNd:ガラスレーザー増幅器における熱効果(熱レンズ,熱複屈折,熱収差)をコード68)により解析して,Ndガラス寸法を決定し,HALNA5~10DPSSLドライバモジュールが新たに設計・構成された(図45・35)69).このシステムでは前置増幅器と4パスの主増幅器より構成されている69)

最大ピーク出力145 kWの803 nm LDアレイ(浜松ホトニクス製)を2組用い,ピーク出力240 kWのLD励起下で,1053 nm出力として,5.2 J×10 Hz,8.7 J×1 Hzが達成されている69)

なお,図45・35において,熱レンズ効果はLD励起分布の制御で,熱複屈折効果は45°ファラデー旋光子によって補償されている.

図45・35

これまで,図45・33の最下段に示す10Jモジュールを開発し,設計値どおりの特性が得られることが実証されたが,今後,100 J,1 kJと増幅器を大きくしながら開発が進められる予定である.特に平均出力が1~10 kWと大きくなると,ポッケルスセルやファラデー旋光子中にも現れてくる熱複屈折効果を制御しながら開発研究をおこなう必要がある.

[3] MERCURYD PSSLドライバモジュールの開発

一方,米国のローレンスリバモア国立研究所(LLNL)では,準3準位レーザーであるYb:S-FAP結晶をHeで冷却するMERCUEY DPSSLの開発を1997年よりおこなっている70).このMERCURY(マーキュリー,水星)(図45・36)で,波長1047 nmの出力として100 J×10 Hzを2005年度中に実現することを目標としている.そのために,良質の大口径(65 mm直径)Yb:S-FAP結晶の育成に成功している70)

図45・36

現在,増幅ヘッド1台を動作させMERCUEY DPSSLのテスト中であるが,ピーク出力320 kWの900 nm LD励起のとき,1047 nm出力として31.6 J×0.1 Hz,20.6 J×10 Hzが達成されている70)

レーザー核融合動力炉実験までのステップと所要期間の評価がおこなわれ,21世紀初頭には実用化の見通しが得られるまでになった60).レーザー核融合エネルギーの実用化の技術的キーは,出力エネルギー1~10 MJ/パルスでかつ1~10 Hzの高繰返し動作可能な高効率短波長レーザー(DPSSLやKrFレーザー)である.このような超高性能レーザーおよびそれによる慣性核融合は,新エネルギーを開発するとともに,それ自体が先進科学技術に大きなインパクトと波及効来を及ぼすものである.

たとえば,波及効果の一つとして,高繰返し高平均出力動作のDPSSLドライバ用に開発されつつある熱複屈折補償型のポッケルスセル71)とファラデー旋光子72)は,高平均出力(1~10 kW)を必要とする産業用レーザーに不可欠な要の制御用光学素子となりつつある.また,LDのコストは,需要が大きければ,下る傾向が予想されている(図45・37)73).これは,LDならびにDPSSLの波及効果の今後の重要性を示している.

図45・37

レーザーのエネルギー応用は,基礎科学から産業科学に至る広範な分野で新しい展開を見せている.核融合エネルギー開発の推進をけん引力とする光・量子科学技術の進歩は,21世紀の産業・科学技術の切り札として大きな期待が寄せられている59)60)

45・4・2 炉用KrFレーザー

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