44・4・1 爆縮の必要性78)~84)

慣性閉じ込め核融合におけるローソン条件(核融合反応によって生成されたエネルギーの一部で損失を補いながら反応を維持するための条件,44・2参照)は核融合燃料の密度半径比(ρR)を用いて,

式44・27

と表される.必要な密度長積(ρR)を得るのに必要な燃料質量Mは式(44・26)のように,密度の2剰に反比例する.通常の液体DT燃料の密度0.21 g/cm3によって,ρR=0.2 g/cm2を得ようとすると,M=0.76 gのDT燃料が必要となる.この量のDT燃料から放出される総核融合出力Efは,

式44・28

となり,とてつもない総エネルギー量が瞬時に放出されることになる.しかも,これだけの量の燃料を(核融合反応を起こさせるに十分な)5 keV程度の温度にまで加熱するために必要なエネルギーEhealは,

式44・29

と見積もられる.ここでmDTはDT混合燃料の平均分子質草である.仮に,1000倍程度の圧縮が可能であり,密度を200 g/cm3まで圧縮することができるとすると,必要な質誌は0.8 μgと減少し,核融合生成エネルギーは280 kJとなり,10 Hzのパルス駆動をしたとしても平均出力3 MWに抑さえられる.実際には,燃料の燃焼率はρRに依存し,高い利得を得るためには,1桁高いρRが要求され,慣性核融合炉においては,燃料の圧縮が本質的な謀題になっている(後述).

仮に低温でDT燃料を圧縮できたとしても,密度ρ[g/cm3]のDTプラズマでは近似的に,

式44・30

で表され85)縮退圧を持ち,p=200 g/cm3では15 Gbar(1.5×1015 Pa)にもなる.このような高圧力を静的に作り出すことは不可能であり,動的な圧縮が唯一の可能な方法である.つまり,球殻状の燃料を内向きに加速し,球中心に収縮させることによって,加速段階で蓄積された運動エネルギーを擬似断熱圧縮によって内部エネルギーに転化することを期待する.この急激な内向きの圧縮過程を「爆縮」と呼ぶ.

爆縮燃料ターゲットは典型的には図44・12(a)のように,球殻状の燃料殻とそれを保持し,レーザー光などの駆動エネルギー媒体に直接さらされる「アブレータ」と呼ばれる外層部からなり,必要に応じて適度なガス燃料が内部に封入されている.爆縮ターゲットは,爆縮の最終段階では,図(b)に示すような,高温度で比較的低密度の中心部(「ホットスパーク」と呼ばれる)と高密度の主燃料部からなる構造を持つ.十分な密度長積を持つホットスパーク部を生成することができれば,核融合反応はホットスパーク部から点火され,周辺の主燃料部に伝搬していくことになり,不必要に主燃料部を加熱することなく,高い燃焼率,したがって高い利得を上げることができる.

図44・12

このような慣性核融合の基本的なシナリオにおいて最も大きな障害となるのは,圧縮機構の非対称性と,流体力学的不安定性によって爆縮の球対称性が崩れてしまうことである.圧縮コアの変形は,最終到達密度の低下のみならず,ホットスパーク部の生成を阻害する.特に,流体力学的不安定性は微小擾乱を(時間の)指数関数的に増大させるため,その影響は大きく,その特性を明らかにする努力が,理論的にも,実験的にも精力的に進められている.

以下に,圧縮の基本的な機構であるアブレーション加速と圧縮過程で問題となる流体力学的不安定性について概説する.

44・4・2 アブレーション加速

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