レーザーを用いた慣性閉じ込め核融合の研究は,1960年代初頭のレーザー発振の成功1)のあと間もなく米国とソ速においてレーザー核融合研究計画が立てられたことに始まり,1964年にはソ速のバゾフがガラスレーザーを重水素リチウムに照射し,中性子の発生に成功した2).わが国においてもレーザープラズマの研究が1963年頃より開始され,異常吸収現象の研究3)などがおこなわれた.1972 年になって米国より爆縮核融合の概念が提案され4),1970年代後半から1980年代前半にかけて米国,日本,ヨーロッパ各国において次つぎに大型レーザーが建設された.これらのレーザー装置により1990年頃までに,点火に必要とされる高温(5~10 keV)あるいは高密度(固体密度の数百~1000倍)爆縮の達成に成功し,レーザー核融合の科学実証へ向けてのマイルストーンが築かれた.その後,レーザー光の均一照射技術の向上が図られ,点火・燃焼へ向けて高密度爆縮燃料プラズマ中に高温のホットスパーク部を同時形成する研究が進められた.
一方,近年新たに,超高強度短パルスレーザーを用いて爆縮燃料プラズマに対する外部からの追加熱をおこなう高速点火と呼ばれる点火方式が提案され,加熱・点火の効率を大幅に向上できる可能性が出てきた.個々の内容は次節以降に詳述される.ここでは,これらの研究の位置づけと経緯について述べる.
44・1・1 レーザー爆縮核融合研究の経緯と現状
レーザーを用いた慣性閉じ込め核融合の研究は,爆縮手法4)の実現可能性を探るべく,これまでレーザーによる爆縮の科学的原理実証にその重点が置かれてきた.1980年代前半までに各国で大型のレーザー装置が建設され,本格的爆縮実験が始まった.主燃料プラズマを固体密度の数百~1000倍程度の高密度に圧縮し,その中心部に5 keV以上の高温の中心スパーク部分を形成するのがこの爆縮のシナリオである.これを中心点火方式という.燃料の密度・半径(ρR)積が0.3 g/cm2を超えればスパーク部で発生したα粒子が燃料を自己加熱し,点火・燃焼が起こると期待される.
[1]高温・高密度爆縮の達成と照射一様性の改善
ターゲットを直にレーザーで照射する直接照射法において,DT燃料プラズマを爆縮時の多重衝撃波により10 keV程度まで加熱することは,まず1985年に大阪大学の激光XII号レーザー(0.53 μm,光出力15 kJ)で達成され,発生中性子イールド1012個/ショット5),さらに1986年には発生中性子イールド1013個/ショット(核融合利得:0.2%)を得た6).ここではLHART(large high aspect ratio target)と呼ばれる,直径1 mm程度で比較的大きなアスペクト比(初期燃料ぺレット半径/球殻厚さ)のターゲットが用いられた.これらの結果,爆縮核融合で燃料を高温に加熱することは比較的容易であることが示された.ただし,これらのLHART爆縮方式では爆縮中に燃料温度が上がるので,高密度圧縮が困難であり,中心スパーク/主燃料構造を持たないため,そのままでは高効率点火・燃焼を考慮した高利得ターゲットにはスケールされない.なお,1995年には米国ロチェスター大学で完成直後のOMEGA増力レーザー(0.35 μm,光出力30 kJ)により,同じ爆縮方式で中性子イールドが1014個/ショット(核融合利得:1.0%)得られている7).
次に,燃料プラズマを固体密度の数百倍の高密度に圧縮することが研究対象となった.1987年に米国ロチェスター大学OMEGAレーザー(0.35 μm,光出力3 kJ)では固体重水素燃料,ぺレットを用い,国体密度の100~200倍の圧縮がなされた8).そして,1988年には大阪大学激光XII号(0.53 μm,光出力8 kJ)で重水素化プラスチック球殻ペレットを用いて固体密度の600倍の圧縮がなされた9).この密度は点火プラズマに必要とされる密度(固体密度の数百~1000倍程度)の領域に達しており,実際に高密度爆縮が可能であることが実験的にデモされたことになる.
これらの高温爆縮,高密度爆縮により達成された温度・密度は個々にはそれぞれ慣性核融合に必要とされる値を十分に達成しており,その意義は大きい.しかし残念ながら,これらは同時達成ではなかった.すなわち,高温スパーク部分,主燃料部分をそれぞれ別個に作ったのであって,本来の中心点火シナリオでの主燃料内部に高温スパークを持つという二重構造ができたのではない.実際,大阪大学の高密度爆縮の例でいえば,高温スパークに相当する中心部分の温度はシミュレーションによる予測よりもかなり低く,中心部の最終的な加熱は成功していないことがわかった.その原因としては,爆縮一様性が充分ではないため,爆縮の最終段階での減速過程で流体不安定によりスパーク部分が潰れていることが考えられる10).
これらの結果から,爆縮の非一様性がその後のレーザー核融合研究において最も重要な問題となり,これをいかに克服するかが最重要の物理的・工学的課題となった.世界のレーザー核融合研究は高温・高密度達成を機に大きく進んだが,同時に一様性に関して大きな配慮が具体化されるようになっていった.つまり,ロチェスター大学のOMEGAレーザー増力では60ビーム7),米国のNIFでは192ビーム11)と,多ビーム化により照射一様性を確保する試みがなされている.一方,レーザー光の照射パターン自体を均一にするために,大阪大学のランダム位相板12)に始まり,米国で空間インコヒーレンス制御(induced spatial incoherence:ISI)13)やスペクトル制御による均一化(smoothing by spectral dispersion:SSD)14)の技術が開発された.大阪大学ではさらに,蛍光増幅(amplified spontaneous emission:ASE)15),部分コヒーレント光(partially coherent light:PCL)技術16)などが開発された.これらのビーム平滑化技術は,レーザー光の強度,位相,スペクトルの時間空間制御を駆使したものであり,従来のコヒーレントなレーザー光という概念からはかなり飛躍したものとなっている.これらの新しい技術により,球ターゲット上でのレーザー強度の非一様性は1%以下に押さえ込むことが可能となってきた.
[2] 流体等価爆縮と流体不安定性
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