【MOPA システムへの SBS-PCM の応用】
 高出力レーザーシステムを高効率化するには、単純な多段増幅器システムから MOPA システムが適用されるようになった。世界最大のレーザーである NIF では大型ポッケルスセルを開発して、パワー増幅部分を再生増幅器としている。単純な増幅器に比べて、共振器内でエネルギー引き出しをする再生増幅器は、原理的にエネルギー引き出し効率が高い。これは飽和増幅の原理なので、従うしかない原理といえる。
 このようなシステムの基本は MOPA システムにある。Master oscillator power amplifier システムでは増幅されたビームをミラーを用いてパワー増幅器に戻してさらにレーザービームを増幅して効率を高めることにしている。<!–more–>

 高出力増幅器、特に核融合用に開発されたガラスレーザー増幅システムの大きな問題は非線形屈折率によって生じるビーム収束現象であった。屈折率 n=n0+n2E2には光強度によって変化する非線形屈折率 n2が存在する。レーザービームはガウス形状の強度分布を持つので、中心部で屈折率が大きくなるため、ガラス増幅器の中で凸レンズが形成される結果、増幅器内でレーザー損傷が発生する。またこの凸レンズ効果は径方向の光強度の局所的勾配に比例するので、レーザービーム内に生じる細かいリップル構造がさらに細いフィラメントを形成して、増幅器を破壊することが大出力レーザーの大きな問題であった。この問題は、非線形屈折率の小さなリン酸ガラスを HOYA が開発して緩和されたが、依然
として避けなければいけない基本問題で、単純な多段増幅に比べて MOPA や再生増幅器ではさらに深刻となる。この問題を SBS-PCM で解決できれば、画期的なことである。
 これが Kong さんの基本認識である。

 大出力レーザーの増幅方式には右に示すように大口径レーザー媒質で一本のビームのまま増幅する方式と、一定出力の増幅器チャンネルで増幅したビームを加算する方式がありうる。1 本のビームを大型増幅器で増幅する方式は、誘導放出の原理によって自動的にすべての出力はコヒーレントな状
態で出力される。一方、右のように一定口径の増幅器で別々に増幅されたビームは、そのビーム内ではコヒーレントな状態を保っているが、チャンネル間のコヒーレンスは保存されていない。おのおののビーム内の強度分布ですら異なった個性を持っている上に、マクロな増幅チャンネル毎に経験する光学長は異なり、図に見るようなピストン効果を持つ。ならば、大口径の増幅器で増幅する方式が必ず優れているか、というと、そうはならない。側面から励起する場合は、励起光が届く半径に制限がある上、冷却能率は側面積と体積の比率で決まり、大型化すればするほど、増幅媒質の中の温度勾配による伝熱冷却に依存する固体レーザーにとっては各大言海が発生する。冷却でいえば、細くて長いレーザー増幅器の方が有利なのは当然で、核融合発電のように高繰り返しで大出力を出すためのレーザーシステムの場合は、右のような並列増幅システムを採用するしかない。この場合の問題は、ビーム間で無秩序に発生する熱歪みやその他の光学擾乱をどうすれば解消できるか、という問題である。Kong さんはこれをSBS-PSM という技術で解決しようとした。

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