ガラスレーザーは大出力化が容易であるため,1970年代から核融合研究用として多くの大型装置が建設されており,技術的に最も進んだレーザーである.当初は10 J,1 GW級であったが,高出力化のために大口径ディスク増幅器1)2)の開発,高性能レーザーガラス3)の開発などの数多くの目覚ましい技術開発がなされ,米国ローレンスリバモア研究所(LLNL)では, 100 kJのNova装置4)~7)が建設された.現在稼働中あるいは建設中の装置の例としては,激光XII号8)~10)(大阪大学,15 kJ/シショット),オメガ(米国,40 kJ/ショット),NIF11)12)(National Ignition Facility,米国,1.8 MJ/ショット,建設中)や LMJ13)(Laser Mega Joule,フランス,2MJ/ショット,建設中)などがある(図45・2).これらの装置構成は図45・3のようなものであり,多数の光増幅器,反射鏡,光スイッチなどで構成されており,小さな発振器から出発したレーザー光はスペーシャルフィルタ14)によって後段に像転送15)16)されつつ,徐々にビーム口径を拡大しながら増幅される.
従来のレーザーシステムとしては,主発振器とパワー増幅器からなるMOPA(master oscillator power amplifier)システムであったが,近年はエネルギー抽出効率改普のために多重パス増幅器が多く用いられる.また,大型システムを構成するうえで,レーザー光の特性を計測する手法と,その計測結果をフィードバックしてレーザービームを制御する手法も重要である.
高出力ガラスレーザーのピーク出力の発展のようすを図45・4に示す.
45・2・1 システム構成
核融合用レーザーシステムは,フロントエンド部,増幅部,波長変換・集光部および計測・制御部から構成される.以下に激光XII号レーザーを例に説明する.
[1] フロントエンド部
近年の多様な核融合実験に対応するために,フロントエンド部は発振器,パルス整形器,コヒーレンス制御器から構成される.
(a) モード周期発振器
核融合実験では,図45・5のようなパルス幅可変のきわめて安定なレーザー発振器を用いている.熱的安定性の高いYLF(LiYF4)結晶ロッド(Nd3+2%)を6 Hzでパルス放電するKrアークランプで励起し,強制モード同期Qスイッチ発振させる.発振波長は1.053 μmである.Qスイッチにはポッケルスセルを,モード同期には音響光学変調器を採用している.共振器長の1.5 mに対応して,周波数50 MHzの超音波によってモード同期をかけ,音響光学変調器の駆動パワーを変化させて発振パルス幅を調整する.これとエタロンを併用して,0.1~1 nsの間でパルス帽を任意に選ぶことができる.ダブルポッケルスセルを用いて,出力パルス列から中央の1本を高いコントラスト比で抽出する.
(b) 単ー縦モードQスイッチ発振器
レーザーダイオード(LD)を励起光源とした単一縦モードQスイッチNd:YLFレーザー発振器の構成を図45・6に示す.この発振器は,パルスLD励起発振器,シーダ用レーザー,Qスイッチドライバから構成されている.パルスLD励起発振器部からシーダ用レーザーへの逆進する光はファラデーアイソレータで防止している.性能は,発振波長1.053 μm,ビーム径0.5 mmで最大パルスエネルギー1 mJ以上,パルス幅10 ns,発振繰返し10 pps,単ー縦モードスペクトルは微細強度変調にて1%以下,発振モードTEM00モードが得られるように設計されている.
シーダ用レーザーは出力80 mWの単ー縦モードcw光を発振する.Qスイッチ発振の安定性は,シーダ用レーザー注入時のジッタが±1 ns以下,出力変動±1%以下である.共振器長は,リアミラーをピエゾ素子で制御して補正する.出力パルスは高速ポッケルスセルを用いて0.5~数nsのパルス幅(立上り約50 ps)に切り出されて前置増幅器に導かれる.
(c) ファイバレーザー発振器・増幅器
Yb3+は蛍光寿命が1 ms以上と比較的長く,励起波長が高出力半導体レーザーの利用が可能な900 nm帯にあり,また量子効率が90%以上と高い.Yb添加石英ファイバでは,蛍光波長が吸収バンドと重複しない1~1.1 μm域で発振可能である.したがって,発振波長を1.053 μmに選択することによって,核融合レーザー用の光ファイバ型発振器および前置増幅器として動作させることができる.また,高速点火用の超短パルス発振器としても利用可能である.
図45・7にシステムの写真を示す.偏波保持Yb添加光ファイバは,コア径6 μmでクラッド径125 μm(カットオフ波長は約800 nm),Ybの添加濃度として約10000 ppmのものが用いられる.全長7 cmであり,両端におのおのの長さが2 cmおよび1 cmのファイバブラッグ回折格子(反射率は99%以上と86%)を配置して共振器を構成し,中央部の長さ4 cmの部分にもブラッグ回折格子構造(反射率20%)を採用することによって単一縦モードcw発振(線幅約100 kHz,出力数十mW) 量が可能となる.ブラッグ回折格子を用いた発振器の特徴をは,回折格子の周期を温度で制御することによって発振波長の微細な調整が可能である点であり,波長チューニング精度として0.1 pm/0.01 °C,チューニング幅1.3 nmが得られている.なお,この発振器は波長および出力が安定なTEM00モードを出力するので,YAGレーザーなどの高出力単一縦モード発振用のシーダとしても利用可能である.
発振器の出力光は,帯域幅13 GHzのLiNbO3結晶変調器により電気入力パルスに対応したパルス波形で、抽出され,ファイバ増幅器に注入される.長さ20 mの偏波保持Yb添加光ファイバ増幅器を3段構成とすることによって,最大出力約0.4 μJ(パルス幅20 ns)が得られている.
[2] 増幅部
(a) 口ッド増幅器
ガラスレーザーのロッド増幅器は図45.8に示す構造を有しており,円柱状のレーザーガラス(ロッドガラス)の側面から直管形キセノン放電管を用いて励起する.ロッドガラスの寸法は直径10 cm,長さ50 cm程度は製作可能である.しかし,口径があまり大きくなるとロッドの中心部に到達する励起光が減り,利得分布のが不均一となる.一様な利得分布を得るためには,直径6 cm程度が実用上の上限である.また,ロッドガラスがあまり長くなるとロッド内部での寄生発振を生じる.寄生発振や機械的強度を考慮し,ー般的に10~30 cm程度の長さのロッドが使用される.ロッドガラスの周囲には水などの液体を流し,レーザーガラスを冷却するとともにロッド側面での内部反射率を下げて寄生発振を抑止する.
口径2.5 cm,5 cmのロッド増幅器について,小信号利得の励起入力依存性を図45・9(a)に示す.口径2.5 cm(RA)および5 cm(RB)で,おのおの60倍,15倍程度の小信号利得が得られる.
(b) ディスク増幅器
ディスク増幅器17)に用いられるレーザーガラス(ディスクガラス)は,図45・10に示すように厚さ数cm(励起光の吸収長と同程度の厚さ)の板状である.これらのディスクガラスをブリュースター角(もしくはそれに近い適当な角度)に設置して,図45・11のように周囲にフラッシュランプを配置する.この場合,励起はディスク表面からおこなわれるので,ロッド増幅器とは異なり口径によらず,つねに均ーな励起をおこなうことができる.図は円形ビームのディスク増幅器の構造であり,フラッシュランプとレーザーガラスの間にシールドガラス管を置いておのおのを分離し,ランプ部からのダストでディスクガラス表面が汚染されるのを防ぐ.シールドガラス管の内外に乾燥窒素ガスを流して両者を冷却する.
図45・9(b)に口径10 cm(DA,ディスクガラス6枚)と20 cm(DB,ディスクガラス3枚)のディスク増幅器の小信号利得の励起入力依存性を示す.図において最大励起入力における利得係数はα=12.4 m-1である.口径20 cmのディスク増幅器で,励起入力440 kJにおいて10 m-1の利得係数が得られている.現在までに,単ーレーザーガラス構造で口径40 cm角18),2枚のガラスの組合せ方式で口径46 cmφの増幅器19)が開発されている.
(c) ディスクガラスのエッジクラッド処理20)21)
大口径のディスクガラスで大きな蓄積エネルギーを得るには,自然放出増幅光によるエネルギー損失,およびガラス端面での多重反射による寄生発振を防ぐことが必要である.このために,ディスクガラス周辺部には,レーザーガラスと屈折率整合がとれ,かつ1 μmレーザー光を吸収するようなガラスをクラッデイングする(図45・10のガラスの周辺部を参照).エッジクラッド用のガラスとしては,母体が同ー組成でNdに替えて,CU2+をドープしたものを用いる.エッジクラッド処理を施した場合,寄生発振を防ぐためのー般的な指標は,利得係数αとレーザーガラス最長寸法Lの積を用いて,αL<4程度とされている.
(d) レーザーガラスの損傷しきい値
リン酸塩系ガラスは,ガラス溶解時のるつぼ材料である白金の微粒子の混入により,耐レーザー損傷が3.7 J/cm2(パルス幅1 ns)と低く大きな問題となった.白金の微粒子をガラス中に超微粒子として拡散させる技術が開発され溶融石英と同程度の高耐力白金フリーガラスの製造に成功している29)23).パルス幅に対するレーザーガラスのレーザー損傷しきい値を図45・12に示す.
レーザーガラスは,一般的な光学材料よりも水や温度に弱く研磨面の焼けなどを生じやすいので,つねに乾燥空気雰囲気中や釜素ガス雰囲気中で使用する.
(e) ビームブレークアップ
3次の非線形光学効果によってビーム断面での強度撹乱が成長し,図45・13のようにビームが細かく分裂する現象をビームブレークアップという.3次の非線形光学効果は光電場の2乗(すなわち強度)に比例する屈折率変化を誘起するので,強度の強い部分の位相が遅れを生じ凸レンズ作用をするためである.ビームブレークアップが生じると,ビーム品質が低下するだけでなく,光学素子の損傷を引き起こす.非線形屈折率の値は非常に小さく,リン酸ガラスではn2=3かける10-16 cm2/Wであり,低出力レーザーでは問題とならない(非線形屈折率に関する変換は,n2[cm2/W]=(12π×105/n0)×n2[m2/V2]={[4π/(3×103)]/n0}×n2[esu]である).しかし,短パルスレーザーで数百MW/cm2を超えるような場合は,ビームブレークアップが生じないように,n2の小さい媒質(リン酸ガラスはケイ酸ガラスにくらべて約3割小さい)の選択,強度に応じたビーム径の拡大,および均ーなビームパターンの転送が重要である.
(f) 像転送とスぺーシャルフィルタ
ビーム径の拡大と均ーなビームパターンの転送にはスペーシャルフィルタが用いられる.増幅器の有効開口を効率的に利用するにはスーパーガウス型の近視野パターンが有効であり,図45・14のようにガウス型近視野像の中央部をアパーチャによって切り出し,その像を増幅器の位置に転送する.増幅器の段間には同様のスペーシャルフィルタを配置し,ターゲットチャンバの直前にある波長変換結晶へと像転送される.焦点距離f1,f2の凸レンズをアフォーカル系に組んだ場合,入射レンズから距離aの平面から出た光線の出射レンズから距離bの平面への転送は,次式のABCD行列で表される.
ー方,結像条件は,増倍率がM=f2/f1であることを考慮して,
と表される.したがって,入射像面から出射像面までの距離(増幅器開の距離)が決まっている場合,距離aの調整によって後段の増幅器に比較的容易に像転送が可能となる.出射側結像面での近視野像の空間周波数はスペーシャルフィルタの遠視野面に設置されたピンホールのサイズによって決定される.ここで,ビームブレークアップを防ぐにはスペーシャルフィルタのピンホールサイズ(カットオフ周波数)をいくらにすればよいかの問題が生じる.空間的強度擾乱の成長は,非線形屈折率による集束と,細いビームほど発散しやすいという光の性質との競合によって決まり,空間波数に依存する.強度擾乱の成長率g(ベスパロフ・タラノフの利得係数)が最大となる空間波数は,
で与えられる24).ここで,k(=2π/λ)はレーザー光の波数である.したがって,スペーシャルフィルタのピンホールサイズは,Kmaxに対応する大きさの数分の1に設定され,ー般的に回折限界スポットサイズの30~40倍程度である.また,平均強度をI,初期強度擾乱をΔIp0とすると,擾乱は,
のように成長する.Bは強度撹乱成長の目安を与え,B係数(またはB積分)と呼ばれる.
(g) ビーム整形
ビームパターン不均一の非線形成長の原因である初期擾乱は,増幅器エッジによる回折であり,それを避けるために上述のように空間周波数の高周波成分が小さいスーパーガウス型パターンが用いられる.
スーパーガウス型パターンを簡便に得るためのアパーチャとして,図45・15に示す鋸歯状アパーチャ25)がある.図(a)のビームをスペーシャルフィルタを通して,鋸歯状の細かな分布に対応する空間的高周波数成分を除去すると,図(b)のように単純なハードアパーチャ(図(c))に比べて強度リップルの少ない均一なビームパターンを得ることができる.ビームの最大発散角が回折限界発散角(λ/D,Dはビーム直径)の30~40倍とする場合,鋸歯状構造の周期はビーム直径の1/30~1/40以下である必要がある.また,鋸歯状構造の周期に対する幅の比を6倍以上とすることによって,ビームエッジの強度分布を比較的任意に整形することができる25).
[3] 波長変換・集光部
(a) 高調波変換
レーザー核融合では短波長レーザーほどターゲット加速の効率が高い一方,レーザー波長が短かすぎるとレーザー強度分布の不均一が流体不安定性を引き起こしやすくなる.そのため,第二高調波(0.53 μm)や第三高調波(0.35 μm)が利用され,波長変換ののちに燃料ターゲットに集光される.
図45・16に激光XII号(大阪大学)における12ビーム対称照射ターゲットチャンバでのビーム配置図を示す.個々のビーム中心の入射位置は正12面体の面心に配置されている.直径35 cmのビームをタイプII KDP結晶で第二高調波に変換し,F/3.15のレンズで集光する.
激光XII号のもうーつのターゲットチャンバでは,図45・17に示すように,12ビームをF/3のコーン内に集めて1方向照射配置をとっている.これは,照射強度を高めることと均一照射分布を得ることが目的であり,流体不安定性,高密度状態方程式あるいは実験室宇宙物理の実験に供されている.個々のビームには,図45・18のように,集光レンズの直前にタイプII ダブラ(doubler)とタイプII トリプラ(tripler)構成のKDP結晶が配置されている.2枚のKDP結晶はおのおのの位相整合条件でカットされており,異常光線軸(図ではeで表す)は互いに直交している.これにタイプIIダブラの常光線軸(図では0で表す)から35.3°の方向に基本放の偏光方向を合わせ,タイプIIダブラを常光線幅の周りに角度調整して第二高調波を発生させる.第二高調波の変換効率は入射強度に依存するが,第二高調波と基本波の強度比が2:1(光子密度比が1:1)となるように結晶の厚さを調整すると,高効率の第三高調波変換が可能となる.第三高調波変換の位相整合ではタイプII トリプラを常光線幅の周りに角度調整するので,第二高調波変換と第三高調波変換を独自にチューニング可能である.
(b) ビーム間パワーバランス
高精度の球対称爆縮の実現のため,12ビーム間のエネルギーバランスをとることはもちろん,レーザーパルス波形の松似性を含めたパワーバランスをとることが要求されている.発振器からの整形パルスを12ビームに分割し増幅をおこなっているため,線形領域の増幅である限り波形の相似性は保たれる.しかし,後段のディスク型増幅器においては飽和増幅率がビームごとに若干異なるために波形変形が生じる.したがって,ビーム間のエネルギーバランスをとっただけでは,図45・19のようにパルス波形全体にわたってのパワーバランスは得られない.このため,ディスク増幅器の小信号利得を正確に合わせたあと,上流部のロッド増幅器により後段への入力レベルを調整して飽和増幅での利得のバランスをとることによって,波形の相似性が得られる.KDP結晶による変換効率の違いを含め,出力エネルギーバランスをとるため,最終増幅器の後ろに設置された可変減衰板の透過率を調整する.
以上の手法により,図に示すようにパルス中央部で数%程度のパワーバランスが可能となる.
45・2・2 多重パス増幅器とセグメントビーム方式
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