マトリクス試料(matrix sample)とは

分光用試料の一種で,注目分子(ゲスト分子)を希ガスなどの不活性分子(ホスト分子)で200倍から10000倍に希釈し,低温の透明な試料収上に吹き付けて凝固させたものをいう.このように,ゲスト分子をホスト分子の氷の中に分散させ固定させる試料作製法をマトリクス隔離法(matrix iso1ation method)と呼ぶ.マトリクス試料は,気体や液体あるいは固体の各種試料にくらべてゲスト分子の回転が抑えられ,ホットバンド(励起状態からの吸収)が小さく,また,ゲスト分子問の相互作用が弱められて非常に鋭い分子振動スペクトルが測定できるので,赤外分光の分野でよく用いられる.アルゴンで希釈して,10 K程度の温度で凝固させるのが一般的であるが,吸収ピーク位置は低波数側に約1%シフトし,ホスト分子が重いほどそのシフト量は大きい.マ卜リクス試料中でレーザー化学反応を起こさせると生成分子やラジカルがそのまま保存されるので反応素過程の追跡にも用いられ,また,マトリクス試料を標的とするレーザー同位体分離の研究もおこなわれている.