レーザー励起に用いられるフラッシュランプの発光スペクトルは、レーザー媒質の吸収スペクトルに可能な限り一致している事が望まれる。ランプの発光スペクトルは管内の電流密度によってほぼ決定する。ランプの単位断面積当たりの電流量をJ[A/cm2]とし、ランプのボーア径をd、ランプを流れる電流をIとすると次式のようになる。
(式1)
パルスランプの中では、電流量が時間に伴って0(或いは非常に小さい値)から最大値まで増加し、その後減少していく。このような場合、発光スペクトルも時間に伴って変化している。よって、通常のランプスペクトルは出力の時間積分値となっている。
上記のような時間変化のために、“E0:TA比”と呼ばれる表現があるが、パルスランプの電流密度は時間依存を考慮したインピーダンス項を含んでいないので、むしろ負荷を記述するのに良く用いられている。この比の単位はW/cm2となるので、電流密度よりも電力密度測定を意味している。E0はパルスエネルギーで単位はJ、Tはパルス幅で単位はsecである。
E0:TA比は放電領域におけるランプ管壁の内部表面積で除算されており、電流密度測定を行う際の面積であるランプのボーア断面積ではない。近似として、通常ランプの放電長をLAとしてπdLAを用いる。
パルスランプの総発光スペクトルは放射の持続によってほぼ決定する。これは特にランプが高電力密度で動作した際に顕著であり、発光スペクトルは自由-境界遷移(自由電子とイオンの再結合)と自由-自由遷移(自由電子とイオンの衝突による減速)によって発生した光放射の結果である。
電力密度が2500W/cm2程度の領域では近赤外の線スペクトルが支配的で、この領域では境界-境界遷移(原子とイオンのバンドエネルギー準位間の遷移)が主流である。
Xeガスを充填したパルスランプの発光と、Krガスを充填したパルスランプの発光を比較するのは非常に興味深く、Krランプは16kW/cm2以下のような低電力密度で動作するランプに通常選択されている。Nd:YAGの吸収スペクトルに一致した線スペクトルは、そのような低電力密度状態のランプ中でより支配的なのは明白である。Xeランプでも、波長200nmから1100nmまでの優れた変換効率を有している。
しかしながら、電力密度が16kW/cm2を越えるような領域では、XeランプがNd:YAGの励起源としてさらに効率的になる。この理由として、電力密度が増加すると連続放電が支配的になり、全発光スペクトルに対する近赤外スペクトルの分布が減少するからである。
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