空間並列フォトニック情報処理とは,光信号の空間並列性を有効に利用した大容量情報処理技術である.これまでに,さまざまな原理やアイデアに基づく方式やシステムが提案され,淘汰されてきた.本節では,優れた処理能力を有し,かつ,現代においても優れた拡張性を有すると思われる実施例を取り上げて紹介する.
32・2・1 空間フィルタリング処理
レンズによる光学的フーリエ変換は古典的な光情報処理技術であるが,今なお最も有効なフォトニック情報処理技術の一つである.この技術は,1960年代にレーザーが発明され,干渉性に優れたコヒーレント光を入手できたことに始まる.
図32・1に光学的フーリエ変換の応用例として,空間フィルタリング光学系を示す.レンズの前側焦点面に置かれた透過物体f(x,y)に対してコヒーレントな平行光を入射させると,物体による回折により,レンズの後側焦平面に物体のフーリエ変換像F(μ,ν)を得る.
このフーリエ変換像をフィルタH(μ,ν)で変調し,後段のレンズで再びフーリエ変換すると,出力面においてコンボリューションf(x,y)*h(x,y)を得る.
この演算は各種の画像処理において有用なものである.また,入力情報に対して完全並列に実行されるため,高速な処理が可能である.
空間フィルタリング処理の応用として,これまでに画像のエッジ強調やノイズ除去などが提案されてきたが,情報技術の発展に伴い,情報セキュリティ分野が注目されている.多様な方式や応用が検討されているが,個人認証技術と情報秘匿技術において有望な提案がなされている.個人認証技術では,顔,指紋,網膜パターンなどのバイオメトリックス情報の一致性を検査するマッチング処理があげられる1)2).マッチング演算は,あらかじめ登録した画像データベース情報をフィルタ関数に変換し,入力画像との比較を行う.一方,情報秘匿には,ランダムパターンを入力画像に重ね合わせ,第三者が内容を読み取れないようにする手法が提案されている3).ランダムパターンを鍵情報とすることで,それを所持する者だけが入力情報の復元を行える.
空間フィルタリング技術により,いずれの処理も効率的な実行が可能である.入力情報に対して並列に処理できるため,対象画像が高解像度化される程,すぐれた処理能力を発揮する.さらに,複数の光学系をコンパクトに実装して,識別能力を高めた光並列顔画像認識システム1)や多重相関光システム2)(図32・2)などが試作されている.基本原理には新規性はないものの,周辺技術の発展により,実用技術としての発展が期待されている.
32・2・2 並列デジタル光演算
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