29・3・1 方式

[1] 光伝送系の基本構成

光伝送系の基本構成を図29・42に示す.実線で示す構成部分は必須構成要素,破線枠は必要に応じて付加される要素を示している.光伝送系は,光信号がアナログ信号であるアナログ光伝送系(図(a))と,光信号がパルス符号変調(PCM:pulse code modulation)信号となっているデジタル光伝送系(図(b))とに分けることができる.アナログ光伝送系は,伝送源信号がアナログ信号で比較的短距離の伝送に用いられ,デジタル光伝送は,のちに述べる再生中継が可能であるため長距離または大容量伝送に適用される.どちらの場合も多重化により,光送信器一受信器間のシステムを複数の異なる信号系列(チャンネル)で共用することによりチャンネル当りの伝送路コストを低減することができる.光送信器は電気信号を光信号に変換し,光受信器は,光伝送路を伝搬した光信号を電気信号に変換する(29・2・2参照).光信号をさらに光領域で多重化する方法として,波長分割多重(WDM:wavelength division multiplexing)と光時分割多重(OTDM:optical time division multiplexing)がある.WDMは光源波長が異なる多数の光送信器からの光信号を回折格子など(29・2・5参照)の波長分散素子を用いて多重化および分離をおこなうもので,アナログ光伝送系,デジタル光伝送系のどちらにも適用されている.OTDMは光送信器出力を短光パルスとして時間位置方向で多重化および分離をおこなうものでデジタル光伝送系への適用が検討されている(29・2・7[1]参照).光伝送路はほとんどの光通信系では光ファイバが用いられるが,隣接するビル間などでの短距離LANなど(29・3・7参照)では自由空間が用いられる.線形中継器(光増幅器)は伝送路損失の補償やアクセス系における分岐損失の補償などに用いられている(29・2・3参照).

図29・42

アナログ伝送系における電気領域での多重化は,周波数分割多重(FDM:frequency division multiplexing)が用いられている.これは送信側の複数の信号系列を互いに異なる周波数の搬送波(RF領域)にのせ(搬送波の変調),それらを周波数領域で多重化および分離をおこなう.FDMにより多重分割されるチャンネルの電気信号はデジタル信号であってもよい.光送信器では多重後の電気信号でアナログ光変調がおこなわれ,光伝送路に送出される.受信系ではこの逆がおこなわれる.映像配信(29・3・4[3] 参照)はこのアナロク光伝送を用いている.

以下では,基幹光伝送系や光LANなどの多くの分野で用いられているデジタル光伝送系の基本原理,特徴を述べる.より詳細には文献83)84)を参照されたい.

[2] デジタル光伝送系における多重化

デジタル光伝送における電気領域の多重化方式はタイムスロットを細分化して時間領域で多重化をおこなう時分割多重(TDM:time division multiplexing)である.

時分割多重方式では,受信部や中継部においてビット列の中からどの系列がどの入力チャンネルに対応するのかを識別する必要がある.そのために,位置多重とラベル多重という方法がとられる(狭義のTDMでは位置多重のみを指すことがある).位置多重は,ビット列の中に周期的な枠(フレーム)を組み,入力チャンネルをフレームの中のある定まった時間位置(たとえば,チャンネル①はフレームの2ビット目から9ビット目など)に割り当てる方法である.フレームには,どのビットがフレームの最初かを受信側において判別可能とするため特殊なパターンを有するフレーム同期信号(フレームパターン)が挿入される.受信側ではこのフレームパターンを探して,フレーム同期をおこなう.多重化階梯およびそのインタフェースを定めた世界規格であるSDH85),OTNなどでは,この位置多重方式における多重化法を含め,フレーム上の監視用ビット位置,エラー訂正用ビット位置や手法などを詳細に規定して,高い信頼性の長距離伝送を実現している(29・3・2参照).

一方,ラベル多重は情報データをあるビット長のブロックに分割し,それに情報の宛先を与えるラベルを付与して送出する.これには可変長のパケットを単位に多重するパケット多重とセルと呼ばれる53バイト固定長のブロック単位に多重をおこなうセル多重がある.これらの転送方法は中継ノードにおけるスイッチング方式も含めて,それぞれパケット伝送モード(PTM:packet transfer mode),非同期転送モード(ATM:asynchronous transfer mode)と呼ばれている.中継ノード(パケットルータやATMスイッチ)では,パケットやセルの中の宛先が記述されたラベルを認識して,出力方路に振り分ける.イーサネットにおける多重化はパケット多重化を用いている.これらのパケットデータも,長距離にわたって高い信頼性で転送する必要がある場合は,上記SDHやOTNに規定されたフレームに位置多重して転送する方法が用いられている.

[3] クロック摘出と伝送路符号化

テジタル伝送系における受信部では,受信したデータビット列をどの時点(タイミング)で0であるのか1であるのかを判別するためのタイミング情報としてクロックを必要とする.高速デジタル伝送系ではクロックをデータ信号から抽出する方法がとられている(29・2・2[2],図29・18参照).データ信号から位相が安定なクロックを抽出するには,送信光信号に長期にわたる”0″連続や”1″連続があってはならない.そのため,送信側では電気領域での時分割多重化と併せて,安定なクロック抽出などを目的とした伝送路符号化がおこなわれる.安定にクロック抽出が可能な伝送符号として,F-32M方式(表29・3参照)など小容量光伝送方式ではCMI(code mark inversion)が採用された.CMI符号は,入力”0″を”01″に符号化,入力”1″は,それがくるたびに”00″ または”11″を反転して出力する.したがって連続”1″入力でも伝送路では”00110011・・・” となり同符合連続を抑圧できる.CMIは単純なNRZ(non return to zero,論理値”0″と”1″にレベル高と低を割り当て,タイムスロット内でそのレベルが保持される)と比較して2倍近い伝送帯域幅が必要という欠点がある.そのため,伝送帯域を抑圧すべき高速伝送システムではmBnB符号(m<n),mBlC符号などのブロック符号が用いられる.mBnB符号はビット列をmビット単位に区切り,それらを所定の規則でnビットに置換する.置換後のnビットのブロックに同符号連続を抑圧した符号をあてている.伝送速度の上昇はm/nで済む.これらのブロック符号ではmビットに対して(n-m)ビットの冗長ビットを付加しているため,制御用に,送信テータ符号に用いられないnビットシンボルを作成・送出することができる.Gigabitイーサネットでは8B/10B符号が,10 Gigabitイーサネットでは64B/66B符号が採用されている(29・3・6,表29・5,表29・6参照).

新同期多重ハイアラーキ(SDH,29・3・2参照)ではスクランフルド2値NRZが用いられている.スクランブリング(scrambling)は,入力データ信号と多重化装置内で発生する擬似ランダム符号列の排他的論理和(XOR)を出力符号とする方式である.擬似ランダム符号のランダム性(次数)を所定以上に設定すると,効果的に同符号連続発生を抑圧できる.受信側でも,送信側と同じ擬似ランダム符号を発生させ受信データとのXORをとることにより元データを復元できる.NRZ符号はRZ符号(returnto zero,論理値"1"のタイムスロット内でも後半で値が"0"レベルに戻る)と比較して帯域幅が狭いので伝送装置の電子回路の速度や規模を緩和することができる.

[4] 光変復調方式

光送信器では,デジタル多重/伝送路符号化された電気信号により,光搬送波を変調し,光伝送路に送出する.また,光受信器では,光復調することによりデータ信号およびクロックをチャンネル分離部に出力する(光変復調器の回路構成は29・2・2参照).

光変復読方式には,光強度変調(intensity modulation)-光直接検波(direct detection),ASK/FSK/PSK-ヘテロダイン/ホモダイン検波方式(29・2・6参照)などがある.現在,ほとんどのデジタル光伝送系ではIM-DD方式が用いられているが,受信感度向上などを目的として差分PSK(DPSK: differential-PSK)などが検討対象となっている.

[5] 波長分割多重

2004年現在,標準化されている最高速のデジタル多重化速度はOTU3における43.018411 Gbit/sである.1対の光ファイバでさらに大容量の情報を送受する必要がある場合やフレキシブルなサービス多重をおこなう場合,光領域の多重化法である波長分割多重(WDM)が用いられている.これはすでに述べたように,光源波長が異なる多数の光送信者号からの光信号を回折格子など(29・2・5参照)の波長分散素子を用いて多重化および分離をおこなうものである.光ファイバの低損失波長領域である1500 nm帯において,200 nmの波長帯を想定すると25 THz以上の周波数資源を有していることになるため,超大容量化の必須技術とされている.基幹伝送系などで光周波数間隔を密に配置する場合をDWDM(dense-WDM),メトロポリタンネットワークやアクセスネットワークなどで比較的,疎に配置する場合をCWDM(coarse-WDM)と呼ぶ.国際電気通信連合-電気通信標準化部門(ITU-T:International Telecommunication Union-Telecommunication standardization sector)では,推奨する光周波数のグリッドを定めている.ここで,グリッドとは,実際のシステムに用いられる光周波数配置の候補であり,無限個の可能性があった光周波数の種類を有限個化したことで,レーザーやフィルタの低コスト化に著しく貢献した.DWDMグリッドとしては,193.1 THzをアンカー周波数として12.5 GHz間隔から100 GHZ間隔およびその整数倍までの周波数グリッドが勧告されている.CWDMグリッドとしては,温度制御なしのレーザーを用いることを前提として,1551 nmを含む形で20 nm間隔のグリッドが規定されている.

[6] 伝送可能距離および中継伝送

光ファイバ伝送路の損失を0.2 dB/kmと見積もっても,100 km伝搬後には信号光パワーは1/100に減衰する.減衰し,いったん雑音に埋もれた信号は回復できないため,適当な間隔に中継器(repeater)を設置し,信号レベルが雑音レベルより小さくなる前に増幅するのが,光直接増幅(29・2・3参照)を用いた線形中継である.デジタル光伝送系ではその上に,光信号をいったん電気信号に戻して識別再生したのち,再び電気-光変換して次段の光伝送路に送出する光再生中継をおこなうことにより,伝送路分散などによる光信号波形劣化や,累積した雑音を一掃することができる.そのため多再生中継により数千km以上のグローバルな長距離伝送が可能となる.ここでは,最大再生中継間隔を規定する要因と中継伝送系設計の基礎的考え方を述べる.

光再生中継器の基本構成を図29・43に示す.光受信器(図29・18参照)における識別回路の出力電気信号を,光送信器に接続した構成となっている.識別回路はクロックにより与えられたタイミングにおいて,データ波形の振幅が,設定されたしきい値を超えたか否かにより受信信号が"1"か"0"を判定し,それぞれ"1"と"0"に対応した規定のレベルのデータ信号を出力する.再生中継器は,等化増幅器による波形等化(reshaping,識別しやすいように増幅とともに波形整形すること),クロック抽出によるリタイミング(retiming),識別回路による再生(regeneration)の三つの機能を有することから3R中継器とも呼ばれる.光送信器と光受信器の間隔(すなわち3R多中継系では3R中継器の間隔である再生中継間隔)は,上記判定における判定誤りの確率を,規定の誤り率以下にするよう設計される.この判定誤りの比率は符号誤り率(biterror ratio)と呼ばれ,誤ったビット数を送信した総ビット数で除することにより求められる.伝送系設計に用いる規定のBERは10-12が用いられることが多いが,伝送路符号として誤り訂正符号(FEC:forward error correction)を適用する場合はもっと大きいBERを用いる.

図29・43

BERを劣化させる要因には,大きく分類して,識別回路の入力データ信号に混入する雑音とデータ信号の波形劣化による符号間干渉(ISI:inter symbol interference)がある.ある判定時刻における識別回路入力信号レベルの分布を図29・44(a)に示す.マーク信号は平均レベルS1,分散σ12のガウス分布,スペース信号は平均レベルS0,分散σ02のガウス分布に従うとする.判定しきい値をV1thとすると,符号誤りは送出したマーク信号をスペースと誤る場合とスペース信号をマーク信号と誤る場合があり,それぞれマーク信号の分布のVth以下の面積E10とスペース信号の分布のVth以上の面積E01の和で表される.マークの確率をp(1),スペースの確率をp(0)[=1-p(1)]とすると,全体の符合誤り率peは,

式29・18

で与えられる.マーク率を50%(p(1)=p(0)=1/2)に,判定しきい値Vthを全誤り率peが最小になる値Vth=(σ0S11S0)/(σ10)に設定すると,式(29・18)は,

式29・19

と変形できる.ここで,Qは,識別回路入力信号の品質を表す因子で,

式29・20

であり,erfc(x)は次式で定義される誤差補関数である.

式29・21

入力信号の信号対雑音電力比(SNR:signal-to-noise power ratio)は4Q2で与えられる.

図29・44

図29・44(b)にQ値と符号誤り率の関係を示す.たとえば,符号誤り率10-9となるQ値は6,SNRは21.6 dBである.

上記符号誤り率が,受信系の熱雑音のみに支配される場合の再生中継間隔を考える.光受信器でのマーク信号に対するSNRは,式(29・ll)または式(29・12)で与えられる.簡単のため,PDによる受信として式(29・11)において,受信回路の熱雑音が支配的とすると右辺分母の第1項を無視できる.このとき所定の符号誤り率を得るために必要なSNRをSNRrとおくと,必要な受信光パワーPrは,

式29・22

で与えられる.これを最小受信光パワーと呼ぶ.SNRrはスペース状態でのSNRも考慮した4Q2の値とし,Δf=B/2(Bは伝送速度)としている.また,後置増幅器の雑音増大は無視した.波長1550 nm,伝送速度1 Gbit/sの光伝送系で,PDの量子効率を80%,RLを500 Ωとすると,符号誤り率10-9を達成するための最小受信光パワーは-31 dBm程度となる.送信光パワーをP0,光ファイバ伝送路の損失をα[dB/km],伝送距離をL[km]とすると,P0=Pr+aLの関係があるため,再生中継間隔は,

式29・23

となる.たとえば,送受信レベル差が30 dBで伝送路ファイバの損失が0.2 dB/kmの場合の再生中継間隔は150 kmとなる.SNRが受信回路の熱雑音で支配される式(29・22)の場合,最小受信光パワーは伝送速度の1/2乗に比例する.

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